1ー1 ストーリーの流れを構成する二つのフロー
ここからは第1章「ストーリーの構造」に足を踏み入れていきたいと思う。
なんだかんだ序章で予習のような形でその概観に触れてはいるので、いきなり構造を説明しても「何のことだかわからない」といったことは回避できると思う。
今回は前回に数回にわたって少しばかり公開した「テンションフロー」についての解説と、用語を新たに定義し直した「キャラクターフロー」についての解説をそれぞれ同時に織り交ぜながら説明していこう。それらを解説する所以はストーリー全体が一体どのようにして流れていくのか、その主要な輪郭を掴んでもらうことを目的としたものだ。
目次
1 「ターンキー」は敵味方共に同時に探すべきアイテム
2 主人公が持つターンキーを敵に「チラ見」させる
1 「ターンキー」は敵味方共に同時に探すべきアイテム
いくらか説明している「テンションフロー」を今一度復習しておこう。
「テンションフロー」とは、ストーリー全体を動かす敵側による出来事、即ち「危機」が事態の均衡を大きく揺るがすことを実現させる、出来事の変遷あるいはその推移を表した構造のことである。
図に表すと以下のようになる。
これを見ると、ストーリーが進むにつれて「出来事の重要度の均衡」、つまりストーリー中で言えば平時だった世界が段々と崩れていき、しまいには底をつく事態へと下降していく傾向が見て取れる。
これは同時に、主人公が突如として予想だにしない敵の仕掛ける事件や罠にはまってしまうことで窮地に陥れられるが、あることをきっかけにそれがグンと上向きに上昇していくことも意味している。
この低位置にあたるポイントが世界的な危機、「クライシス」であり、これが敵の目的、つまり「パーパス」によって実現されるべく事態を悪化させる地点を意味しており、それが一気に上向きに上昇していくのは、主人公に与する味方サイドが所有していた問題を解決する「ソリューション」が事態を収束に導くからであり、それらは主人公が敵に挑み、打ち勝つことで実現が可能となる。
その中の、上記にある「クライシス」は敵が環境の不和から生まれた温床によって策謀や野望といった形となって表れていくのだ、ということを勉強したかと思う。
敵の目的は単に「事態を悪い方向に持っていくこと」なので、目論みさえ思いつければそこまで創作の手を止めることはないはずである。
では、それに巻き込まれることになる主人公はどのような経緯を辿っていくのか?
これが、小説を創作する作者がよく困惑する難題のうちの一つだと、私個人では勝手に認識している。
つまり、主人公をどのように事件に巻き込んでいけばいいのか、ということだ。
実はそれも前回の記事「11 ソリューションへと主人公を導く「ターンキー」」に記載しているのだが、今回はもう少し深く掘り下げて解説しよう。
前回の記事はこちら
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11 ソリューションへと主人公を導く「ターンキー」 | ゼロからわかるハリウッドストーリー創作講座 (jugem.jp)
この記事では、「ソリューション」へと主人公を誘導する役割を持つ「ターンキー」という要素について書かれている。
この「ターンキー」について、もう一つ付加しておくことがある。
「ソリューション」は主人公が欲するべきものであると同時に、敵が欲しているものでもあるのだ。
なぜかというと理由は単純で、それを使って自身の目論みを実現できる能力を「ソリューション」が秘めているからである。
この記事で紹介した映画「トランスフォーマー リベンジ」ではリーダーのマトリックスがオプティマス復活の動力源であると同時に、エネルゴンを採取して種族が存続するための「ソリューション」として存在していることを説明した。
このように、主人公と敵のどちらともパワーを得ようとする役割があるのだ。
だからこそ、敵は「ターンキー」を持つ主人公を狙うわけなのだ。
この「ターンキー」だが、これは「ソリューション」と何らかの接点を持っている必要がある。
例えば、「トランスフォーマー」にあったオールスパークを探すためのターンキー「アーチボルド船長の眼鏡」のレンズの部分には、オールスパークの位置を示すための座標が刻まれていた。
「トランスフォーマー リベンジ」でも、マトリックスに導くためのサム、及びその脳内にある古代文字自体が、それが隠されたプライムの墓の位置を示すための、いわば「謎解き」のような感覚での云われとして機能していた。
このように、「ターンキー」は「ソリューション」に関する何等かの情報を持っていることが必要条件となるのだ。
この「トランスフォーマー」シリーズで言えば、それぞれの「ターンキー」は「ソリューション」の「位置」を示す内容が情報として提示されていた。
この、直接的に「位置」を示す他にも、ソリューションの能力を引き出す「起動」によってその位置がわかる手法や、逆にソリューションを主人公のもとに引き寄せることを可能にする「呼び声」などといったやり方もストーリーによっては通用するだろう。
ただ、必ずしも「位置」に特化した内容である必要はない。
例えば、ターンキーが主人公の持つ「ソリューションの在り処がわかる能力」を目覚めさせることでそれが成立する、といったことも設定によっては可能だ。
では、話を戻し、このターンキーが上記の「テンションフロー」とどのように関わっていくのかを見てみよう。
2 主人公が持つターンキーを敵に「チラ見」させる
主人公が単に「ターンキー」を所有していても、それがあることを敵や味方が知る何等かのきっかけがなければ意味がない。
そこで、登場するのが出来事の重要度のポイントの一つである「発生」という地点である。
これは事件やハプニングにおける小規模の危機的事態の「発生」という意味合いを持つ。
初回あたりで出てきたワードである。
図に記載してある通り、青い線「出来事の重要度の均衡」が下へ向かって下降し始める最初の坂の部分がそれにあたる。
ストーリーによっては「ターンキー」は敵に奪われたり、あるいは味方サイドの手で守られたり、と変わってくるのだが、ともかく何等かの事態が起きた時点で出来事としての要素が成立する。この「出来事が生まれる条件が揃って危機として表れる事象」のことを「発生」と呼んでいるのだ。
例えば、「トランスフォーマー リベンジ」では、人間の女性に化けた敵のトランスフォーマーにサムが混乱時に描いた文字を(大学内で)見られたことで命を狙われる、といったシーンがあった。さらにその続きとして、マトリックスの在り処への鍵を掴むサムが逃亡したことをきっかけに、敵のメガトロンは人類の前に姿を現し、仲間や師匠であるフォールンの地球到来がもたらした町の破壊をもって宣戦布告を宣言し、彼を差し出さなければ世界を滅ぼす、と脅迫して世界を混乱に陥れたシーンもあった。このシーンがリベンジでいうところの「発生」にあたる。
この時は、まだ文字の秘密は敵の手に渡っておらず、このシーンの後に徐々に明るみに出ていく、といった形で描かれているのだが、この出来事によってサムは自らの意志でその秘密を明かそうと博物館、そしてエジプトに向かうことになる。
これらは何を意味するのかというと、思考を乗っ取られて文字を書き殴るサムを、先ほど記述した大学に忍び込ませた敵に見させることによってサム、及び文字という「ターンキー」が敵側に発見されることを意味している。それが襲撃のきっかけとなり、ひいては敵の地球到来という事件を引き起こすトリガーとなった。その意味でこれは「発生」となりうるのだ。別の言い方をすれば、サムの在籍していた「大学」という設定は、主人公を敵に見つけさせる状況を生み出すための環境作りだったわけだ。
このように、敵に主人公を発見させるには、彼が自分たちにとって最重要人物であることを知らしめるための「ちらつかせ」が必要になるのだ。つまり、主人公が敵に欲しがっている情報を「チラ見」させる必要があるわけだ。この「チラ見」をさせることによって最終的に「発生」が実現可能となるのだ。
この続きは、次回の記事として改めて更新する。




