立場と答え Ⅱ
「――で、知り合いにいる?」
思わず大声をあげてしまったことで、周囲から視線を受けて、羞恥に悶えて、何やかんや約5分後、漸く全員が落ち着きを取り戻した後に、凪沙が切り出した。
「それなら、私と鳴音のもう一人の幼馴染が当てはまりますね。私と鳴音が二歳差で、その子がちょうど真ん中にいるので」
「……みゆ姉、今どうしてるかな…………」
「あれ? 最近会ってないの?」
凪沙の最も(でありながらある意味不注意)な疑問に対して、明は懐かしさに目を細めながら、答える。
「小学校低学年の頃に引っ越してしまって、当時携帯端末などは持っていなかったので、あまり連絡が取れていないんです。まあ、あの子は基本的に誰とでもすぐに仲良く慣れる子なので、然程心配せずとも大丈夫でしょうけど」
「おお、何か気が合いそうな子だね」
「もし合うことがあったら、仲良くしてあげてください」
「いや、母か」
二人の話は変わらず弾んでいく。
その犠牲者が出ていることにも気が付かずに。
「心配、かけて、ごめんなさいぃ……」
「鳴音、姉とは妹を心配するものです。気にしなくて良いですよ」
心にダメージが入る。それは正しく意識外から放たれた貫通攻撃のように、鳴音の心に突き刺さる。それにあまりフォローになっていないフォローをする守美子。
ついさっき、明は妹のことを「然程心配せずとも大丈夫」と言ったので、寧ろダメージが増した。
「――というか、今思ったけど、守美子もそうじゃん!」
「守美子、大家族でしたね。そう言えば」
「それあまり良いことじゃないんですよ」
守美子の家族とは、即ち孤児たちだ。
親を失う子どもは少なければ、少ないほど良いのは道理だ。
「……うん、それはそうだね。――でっ、どうなの? 実際姉らしさって」
「…………私は、姉としてでは無く、母親代わりとして、接しようとしてるからねぇ」
「「分かる」」
守美子の発言に、幼馴染組二人がこれまた異口同音に肯定を示す。
守美子の今までに、何か思うところがあったのだろう。
「二人は、守美子のどこにママ味を感じたの?」
「凪沙、ママ味とか意味の分かりそうで分からない言葉はやめなさい」
「守美子、その口調とかそれっぽいわよ?」
ツッコミに更にツッコミが加わる。
鳴音は少し考えてから、口を開く。恐らく先程は無意識的に言っていたのだろう。
「……結、に対する態度? とか、かな…………?」
「そうですか? 普通に接しているつもりなのですが……」
鳴音からすれば、結の訓練風景を見る守美子の視線は、母親のそれだ。
制限はしたくないけど、怪我の心配でハラハラと落ち着かないような、そんな目。
「その子って、加集 結ちゃんのこと?」
「ご存知なんですか、凪沙さん?」
明だけでなく、鳴音もどこで知り合ったのか分からずに視線を向ける。
守美子はおおよそ察しているが。
「ええっと、どう言おうかな……」
「凪沙が私をストーキングしている時に、偶々会ったのでしょう?」
事情は話し難く、言葉に迷っている間に、守美子が彼女にとっての本日の本題を切り込む。当然の如く、目を剥く凪沙。
「どうして、知ってるのぉ?!」
「あれだけ視線を向けてきて気が付かないとでも? ついでに結の気配とあなたの気配がほぼ同じ位置になってから、二人共離れていったので……」
寧ろ近接戦闘を生業としていて、五感を鍛え上げている守美子にバレないと思っていたのか。
ちなみに、凪沙の不審者コーデは写真データが守美子のマギホンには入っている。
やられたらやり返すの精神で、盗撮した。
「今度からは、ストーキングは止めて頂ければ幸いです、清水さん」
「ちょ、嘗て無いほど、距離を感じるよっ」
「ご理解頂けますか?」
「――あ、はい。ごめんなさいっ!」
二人のコントのようなやり取りの間、明と鳴音が声を発さなかったのは、純粋に凪沙に(と少しだが結にも)ドン引いていただけだ。
「いや、あの、言い訳させて貰うと、守美子あの頃、というか最近まで何かずっと悩んでたみたいだし、ちょっと気になってさ……」
「結も言ってましたね。守美子、結すごく心配してたわよ」
守美子は、二人の言葉に苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
実際は凪沙のときには、そうなっていたが。
また、鳴音は明の発言に対して、自身が聞いてないことが飛び出てきて目を見開いた。
ついでに、疎外感が追加された。
「――でも」
「ええ」
凪沙に同意するのは明。
次に続く言葉は決まっている。
「もう大丈夫なんでしょ?」
「結から数日前に、守美子と話をしたと聞いているから、恐らくその時ね」
悩みの解消どころか、その要因さえ、もろにバレている。
というより、要因自体がバラしていた。
「まあ、一応私の中で決着は着いたわ。結との会話でそうなったのも事実ですね」
前半は凪沙、後半は明、それぞれに向けられた言葉だからこそ、口調にブレがある。
そろそろ敬語いらないんだけど、という視線が二人分。
そして、生温かい視線が更に一つ。
守美子は当初から明らかに居心地の悪くなった席で、僅かに残った飲み物を飲み干した。
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