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【六章】収束の魔法少女 ガルライディア  作者: 月 位相
追憶の母

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対称

 お盆が終わり、学生にとって長いようで短い夏休みがとうとう終わりに近づいてきた頃、守美子は友人である凪沙と共に、服飾店を訪れていた。


 ショッピングモールの倒壊から1月が過ぎたが、当然ながら未だ修繕が成されていない。

 幾ら魔法がある世の中とは言え、無理なものは無理だ。

 そもそも、魔法を使えるものが少なすぎて、あまり魔物の出現前と建築業などは変化が無い。


 ちなみに、一番変化があったのは、運送業だ。

 陸海空、どこにだろうと魔物はいるが比較的空は少ない。

 同一範囲内の魔物の数的に言えば、海>陸>空の順である。

 そのため、現状まともに貿易が機能しているのは航空のみ。

 運送業は運送業でも、多大なダメージを被ったところと、そうでないところでの格差じみたものまで生まれ、そして、それは今なお解決していない。


 原因である魔物の出現、侵入を拒む結界(各街を覆っているもの)の技術全般が、一般公開されていないことが問題にはなっているのだが、街ほどでは無いにしろ、十分大きい輸送用の船を覆うほどの結界を展開するには多大なスペースが必要だ。

 それを用意できないことには、公開されていたとしても、意味がない。



 閑話休題。


 凪沙の誘いに守美子が乗ったことで、今回の訪問は行われている。

 それは良いのだが……、


「守美子は何が欲しいの?」

「特に不足しているものが無いのよねぇ……」


 守美子の方に特に用は無かった。厳密には、()()()()()用がなかった。

 服飾店に用がないのは、守美子の視線が所狭しと並べられた衣服ではなく、どこか遠くを見ているようであることからも明らかだ。


「……ええ? 言ってくれれば良かったのに」


 凪沙はそう返してはいるが、内心割と嬉しかったりする。

 少し前まで、様子が可笑しかった友人が元に戻っていることに加えて、純粋に遊びに付き合ってくれていることに対して。

 服を選ぶこと自体が凪沙は好きだが、今日はもう一つの楽しみがあるということも彼女の機嫌を押し上げていた。


「適当に見てるわよ。……それで、凪沙は何が必要なの?」

「秋物をちょっとね。――あ、これなんてどう?」


 不意に凪沙が立ち止まる。

 守美子がそちらを振り向くと、凪沙は一着のワンピースを持っていた。

 矢鱈とフリルの多く、純白のワンピースを。


「…………まあ、良いんじゃないかしら? 凪沙の雰囲気に良く合っているように思うわよ。……私はそれを着る自信がないけど」


 そう口にしながらも、守美子の意識は別の場所に向けられている。

 そう遠くは離れていないところに、並んで二つ。


(……気配は感じるのに、()()を感じられない)


 外界の魔力を感覚的に捉えること自体は可能だ。

 基本的に魔法少女は程度の差はあれど、皆魔力の感知が可能である。

 それを、個人の魔力の保有量すら正確に把握できるまでに極めたものなどはいないが。


 守美子は、関わりの深い者の魔力ならば、多少の人混みの中であろうと判別が可能だ。

 だが、彼女は個人の魔力の大小などを捉えることは不得手としている。


 今回の場合、守美子が感知できない程に魔力量が少ないか、魔力制御を以て、体外に魔力が漏れ出ないようにしているかのどちらかだ。

 後者だったとしたら、ほぼ確実に魔法少女の誰かである。

 確実では無いのは、ダイバーという例外が発見されたためだ。


 ちなみに、守美子は、魔力よりも気配を捉えるほうが得意だ。


「――こ? 守美子? 聞いてる?」

「――え、……すみません」


 守美子は、思考の海から引き上げられた。

 視線を凪沙に向けると、訝しむような、心配するような、それらを混ぜ合わせたような表情をした少女がいた。

 具合悪い?

 質問には空返事で返して、守美子は体内で魔力を両耳と脳に集中させる。

 これで、周囲の音を拾って、件の人物たちの性別、年齢層などを判断する。


「――、これ、き――て」

「流石に――は――――」


 これらが、その者たちの会話内容だ。

 そう大きな声では話していないらしく、正直守美子にも、会話内容自体は聞き取り難い。

 けれど、守美子とそう年の離れていない少女らしい、ということは分かった。

 この時点で、おおよそ正体は分かってはいたものの、確証がない。

 凪沙へと盗み聞きをしていることへの罪悪感が身を焦がしはするが、構わず続ける。

 魔力はこれ以上集中させると体外に漏れ出しかねないため、どうしても増やすことが出来ない。


 守美子は、凪沙が自身の正体を()()()()()()()()()()のだから。


 しかし、件の少女たちの会話を聞こうとすると、どうしてもそれよりも近い人々の会話も聞こえてしまう。


「あ――――こち――――でしょ――」

「し――――ないわ。――たこそ、――なんて――――」


 自身と同年代、または少し年上の女性の会話がノイズのように守美子の耳に入る。

 これだから、他者の会話を盗み聞きするのは好きになれないのだ。

 守美子は内心毒づく。

 だが、その甲斐あってか、対象の位置までも正確に分かった。


 しかし、彼女は失念していた。自身には先に対処すべき問題があることを。

 守美子が、人知れず一息吐いた時には、脅威(問題)が迫っていた。


「守美子、これ着てみてよ」

「――はい?」


 急なことに自体が飲み込めていない守美子に凪沙は大量の衣類を渡す。

 先程、凪沙が持っていた純白ワンピを始め、様々な可愛らしい――守美子の趣味に合わない――服がその山を構成している。


「いや、私は良いからっ…………」

「まあまあ、そう言わずに」


 数秒経って、漸く自体を飲み込めた守美子に、凪沙が詰め寄っていく。

 咄嗟に後退する守美子。

 守美子が二歩目の後退をしたその瞬間、件の二人組の少女の一方らしき声が聞こえた。


「だから、着ないってば……!」

「――!?……お、お願いっ……」


 若干荒らげた声と、驚きながらも引く気のない声。

 先程から何となく正体について当たり付いていた守美子だが、思わず半眼になった。


 衣装棚が途切れた通路に先に出たのは、守美子。

 そこで立ち止まる。

 その数瞬後に、件の人物が現れた。


 守美子と同様に、大量の衣類を抱えた、切れ目でクールな印象を与える少女と、凪沙と同様に、彼女に迫る気弱気な身長の低い少女。

 彼女らも、守美子から注がれる視線に気がついて、そちらを振り向く。

 視線が交わる。

 時が止まる。


「……やっぱり、あなた達でしたか。明、鳴音」


 守美子の一言で、止まった時はまた動き出した。


お読み頂きありがとうございます。

今後も読んでくださると幸いです。

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