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第94話

「ここか」


 ディノが息を切らして階段を上り終え、木製の扉を開けるとそこは戦場だった。十五人ほどの敵相手にツバサ、カノン、ラックの三人が戦っている。人数だけ見れば圧倒的にこちらが不利にも拘らず、全く押されている様子はない。


 カノンが繰り出す銃弾は寸分の狂いなく狙った場所へ向かう。ラックの振り回すハルバードは少し危なっかしいところはあるが、魔法のセンスは抜群。ツバサの剣の動きは無駄なく、素早くて力強い。


「これが、落ちこぼれのカノン班……?」


 眼前に広がる光景を唖然と眺めていると、急に左側をビュンッと一線の風が通り過ぎた。


「おわっ!」


 驚きの声を上げ、急いで振り向く。すると後方の壁に銃弾が突き刺さっていた。


「…………」


 ディノは唾を呑み込んだ。すぐさまマライレットから先端が円錐に尖った槍を取り出す。


「俺も戦わせてもらいますか!」


 ディノは槍の先端を敵方に向け、入口から部屋に飛び込んだ。





 目の前の女は普通の人間とは違うとツバサは思う。間違いなくただの秘書ではない。スペルカードを使用したかもしれないとも考えたが、彼女は光を帯びていない。どこかで戦闘を学んできたような動きや力、感覚。


 最初は相手が戦えなくなるように打撲や急所を外した攻撃などを与えればいいと思っていたが、そんなことをしていればこちらが殺られる可能性がある。ツバサは鋭い剣先を秘書に向けた。そして彼女に向かって駆け出す。


 キンと刃と刃が交わる。背後では再び発砲音やスペルを唱える声が聞こえだす。剣で弾いた力で後方に飛ぶ際にふと視線を背後に這わせると、カノンとラック以外に戦う味方が一人追加されていた。ディノだ。彼は自らの槍を突いて戦っていた。


 そろそろ決めないと……! ツバサが覚悟し、一度秘書から距離を取る。彼女は鋭い視線を崩す様子はない。


 ツバサは地を蹴り、低姿勢で秘書の元へ走った。そして左下から剣を持ち上げる。秘書は迫りくる剣をナイフで受け止めようと構えた。彼女の予想通り、剣とナイフは先ほどからの戦いと同じようにただ交わった。


「さっきから攻撃がワンパターンだな」


 冷笑する秘書にツバサはにやりと笑う。不審に思った彼女だが、すぐにその笑みの意味を知ることとなった。ツバサはただ左下から剣を振り上げたのではなく、低姿勢を利用して自分自身も一緒に右上空へ飛び跳ねていたのだ。秘書は勢いのある剣を押さえつけることができず、彼女の手から敢え無くナイフが弾き飛ばされる。


「くっ……!」


 悔しそうに表情を歪める秘書だが、ツバサの攻撃は止まらない。飛び上がったその体を空中で捻り、彼女の左肩から下半身右下にかけて一気に剣で切り裂いた。


「あああああああ――――――っ!!」


 ツバサは屈めていた姿勢を正し、秘書に目を向ける。彼女は苦しそうに肩で息をするが、その瞳は死んでいない。戦闘に特化して訓練を積んできた者にしかできない表情だ。


「お前……、只者じゃないな」


 秘書の口角が僅かに上がる。


「強い者と一戦交えたのは久しぶりだ……」


 背中からは紅い血が流れ続けているにも拘らず、どこに会話する力が残っているのか。本当は息も絶え絶えのはずだ。それでも彼女は床に落ちたナイフを拾おうと体を屈める。これがプロの姿だ。最後まで自分に与えられた任務を全うする。


 これ以上戦えば命が危ない。彼女はもう戦うべきじゃない。

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