第91話
「なあ? ティーナ」
ローブの人物がビクンと体を強張らせる。しかしそれから笑い声を漏らし、彼女はフードを取った。露わになった顔は教会でいつも見るティーナとは似ても似つかず、いやらしい嗤いを浮かべていた。それを見たリリアは目を見開き、細い声が漏れる。
「どうして……」
しかし彼女の声はティーナに届かない。
「どうしてあたしだって分かったの?」
「実は今日ケントロ地区にいたおれの友人がゴーガルテンの連中に襲われてな。標的になってたんだ。理由はきっとゼノンについておれが調べてくれって電話で言ったから。それを盗み聞いていたんだろ」
「盗み聞きなんて失礼ね。必ずしもそうとは言えないんじゃない? 別で狙われる理由があったのかもしれないわ。それにあたしがゴーガルテンに伝えたとは限らないじゃない」
「そうだな。でもまだある。昨日の夜、おれはマザーに〝人魚の涙〟をリリアが持ってるかもしれないと話した。それも聞いてたんだろ? だから翌日、わざわざおれたちがいない昼間なんて見つかりやすい時間に事を起こしたんだ」
「……それだったらマザーが犯人かもしれないじゃない。あたしは犯人を目撃してるのよ?」
「それが怪しいんだ。聞き込みしたけど、あの時間帯で誰も目撃してなかった。しかも犯人は予めそこに目標物があることを知っているかのように、寝室の窓を割った。つまり犯人は、目標物がそこにあることを確信していたんだ。犯人はリリアが大切なものを仕舞っていた宝石箱がある場所を知っていて、窓を開けて仲間に手渡した。その後窓を割った。自分に容疑を向けさせないために、あたかも別の人間が盗んで行ったように見せかけたんだ」
「……でも今の話じゃ、あたしじゃなくてマザーにもできると思うけど?」
「確かにな。でももしマザーが犯人だったら、ティーナがいたキッチンを通って寝室に窓を割りに行かなきゃならない。ガラスが割れる前にティーナがマザーを見たと証言していない時点で、犯人はティーナに限られるんだよ」
ティーナは自嘲気味に笑う。
「上手くいったと思ったんだけどなあ……」
「どうしてリリアをこんな目に遭わせるような真似したんだ」
ツバサに言われ、ティーナはぼろぼろになったリリアに目を向ける。その表情からはほんの少しだけ罪悪感のようなものが見て取れた。
「別にリリアだからしたわけじゃない。あたしは単純にゼノンの考えに共感しただけよ。それが偶々リリアだったってだけ。あたしはゼノンの言う世界になるためだったら、相手が誰だってどんなことでもする」
「……どうしてそこまで」
するとティーナは少し遠い目をしてから歯を食い縛った。