第90話
「それで思ったんだ。僕がセルバーンを独立させてやるって。でもそれだけじゃ足りないことに気付いたんだ。独立させても戦争が勃発して負けたら、また同じことが起こる。世界にはまだ戦争をしている国も沢山ある。それら全部をまとめて解決する方法が一つだけあったんだ。――僕が世界を支配すればいい」
だからこうする以外なかったんだ、と苦笑を見せるゼノン。話を聞いたラックは涙をぽろぽろ溢し、鼻水を派手に啜っている。しかしツバサは、それでも他のやり方があったはずだ、と言おうとしてすぐに口を噤んだ。カノンに先を越されたのだ。
「ゼノノンの身の上話はどうでもいいからさー、ボクの質問に答えてよー」
口を膨らませるカノンに、ゼノンの苦痛に歪んだ顔がみるみるうちにニヒルな笑みに変わっていく。背筋がゾクッとするほど悍ましい。
「君、僕の仲間にならない?」
ゼノンからの突然のスカウトにカノンは、ならないよー、とだけ返答する。そんなやり取りをツバサは呆然と眺めていた。
「そっか。残念」
ゼノンは愉快そうに笑ってから、涙を腕で拭うラックを一瞥する。
「人間ってさ、面白いよね。悲しそうな顔して悲しい話をすれば相手も涙する、糞詰まらない話でも面白そうに聞けば喜ぶ、怒ってる相手に申し訳なさそうに謝れば腹の虫も収まる。人間なんて全部パフォーマンスで操作できるんだよ! 愚かだよねー、そんな風に簡単に騙されて手の内で転がされてる奴らって。選挙の時もそうだった。被害者面してセルバーンを敗戦前よりも良くしますって言っただけで、たかが十五歳の子供が当選。滑稽だったよ!」
「お前まさか今までの話は全て演技だったのか……!?」
怒気を帯びた声をツバサが震わせる。ゼノンは嘲笑するように口角を上げた。
「話自体は本当。けど、実際そんな肩震わせるほど悲しくはないな。別に泣けないし。生まれた時から両親いないから、失う辛さとか知らないし。ただきっかけはもらったと思ってるよ。自分が世界を手中に収めたいと思う、ね」
「……議員になったのは〝人魚の涙〟の情報を集めるためか?」
「それ以外にあんな詰まんないことする理由ないでしょ」
ゼノンはどこからか――恐らくは〝ゴーガルテン〟から〝人魚の涙〟の話を聞いたのだろう。ああいう裏の世界はそういう類の話が伝わるのは早そうだ。無事議員になり〝人魚の涙〟の情報を入手したゼノンは、次に〝人魚〟と〝人魚の涙〟捜索に乗り出したというわけだ。
ツバサはリリアを一瞥してから、ゼノンを見据える。
「ゼノン、お前に賛同し協力してくれる奴らが多くて良かったな。一人じゃとても成し遂げられなかっただろ」
ツバサが何を言わんとしているのか理解できず、ゼノンは眉を顰める。
「特に一人、優秀賞をあげてもいい奴がいるだろ」
ツバサはゼノンの右側にいるフード付きローブを身に纏い顔を隠している人物に目を向けた。
「なあ? ティーナ」




