第89話
「リリア!」
ツバサは部屋の右奥に括りつけられているリリアを発見し、悲鳴にも似た叫びを上げた。魔法のかかったケープは取られ、露わになった細く白い腕が後ろで括られている。しかもよく見ると肌には青痣ができ、内出血を起こしているようだった。胸元で結ばれていたはずのブラウスのりぼんは解かれ、ボタンがかけ違いになっている。桜色のスカートは所々破れ、無惨な姿になっていた。その姿を見て、ツバサの血液は全て脳にのぼったのではないかと思うほどの怒りを吐き出した。
「テメェェ――――!!」
そのまま走って彼女の元へ行こうとしたが、十五人ほどのゼノンの手下たちが行く手を阻む。
「あんた誰?」
ゼノンがリリアから離れ、ツバサに近づく。この状況を楽しんでいるような嗤いを含む。
「どうしてここが分かったの?」
「そんなのどうだっていいだろ! 早く彼女を離せ!」
ゼノンはリリアを一瞥し、わざとらしく考える素振りだけ見せて言った。
「人魚の姿になって涙を流してくれたら離してあげてもいいかなー」
ツバサは拳を握りしめ、強く唇を噛む。
「ねーねーそんなことよりさー、〝人魚の涙〟手に入れてゼノノンは何しようとしてるのー?」
僅かに緊張が走る空間で、間が抜けるような声が響いたかと思ったらカノンだ。一気に彼女に注目が集まる。空気が読めないというか、読まないところがカノンの凄いところである。ツバサはほんの少しだけ彼女のそういうゴーイングマイウェイを尊敬している。
さすがのゼノンもいきなり『ゼノノン』と呼ばれて少々面食らっていたが、すぐに悲愴感溢れる表情を形成した。瞳も潤み、拳も握られ、何かに耐えるように歯を食い縛る。突然の変化にツバサは眉を顰める。
「僕は十五年前の戦争で両親を亡くした。まだ生きていた祖父母も戦争が原因で全員他界。僕は生まれた時から天涯孤独だった。孤児院で育ち、僕に似た境遇の子も沢山見てきたよ。それである時思ったんだ。何で? ってね。どうして僕たちは生まれながらにして両親がいないのか。街を歩く家族連れにいつも羨望の眼差しを送っていたよ。学校に入り勉強して、あの戦争はノエール国がセルバーンの技術欲しさと、世界にノエール国の技術力の高さを見せつけるために起こしたものだと知った。ただそれだけのために、何人もの人たちが犠牲になった。逃げ惑い、泣き叫び、それでも間に合わず業火に身を焼いた。僕の家族も、孤児院で一緒に育った奴らの家族も、みんなそんな陳腐な理由で殺された! そんな国が今やセルバーンの親玉だ。そんなの耐えられると思うか……?」
誰も口を挟める者はいない。ゼノンは辛そうに顔を歪めている。ゼノンの意思に賛同してこの場にいる連中も拳を握り締め、奥歯を噛み締めている。




