表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/110

第88話

 ゼノンが部屋に入って来ると、一人の男が近づく。ミスティ湖でツバサを殺そうとした輩の内の一人。長身痩躯の男である。彼は得意げに一つの箱を取り出す。それはライトブラウンの革でできた鍵付の宝石箱のような見た目をしていた。


「それはわたしの……!」


 リリアは必至に体を動かすが、ロープが解ける様子はない。


「鍵はこちらになります」


 男が更に銀色の鍵を差し出す。リリアが肌身離さず持っていたあの宝石箱の鍵だ。ここへ来てすぐ、首元からチェーンを引き千切られ、奪われてしまった。


 ゼノンは無言で鍵を受け取り、宝石箱に差し込む。カチャッという小さな音がして、それは開いた。ゼノンは鍵を男に返すと、宝石箱の蓋を持ち上げた。


「これが……」


 ゼノンはそれだけ呟くと、すぐにその中身を手に取り眺めた。彼が手にしたそれは、青に透き通り美しく輝く宝石。中央が薄らと白く濁っている。


「〝人魚の涙〟……。やっと手に入れることができた」


 そう言いながら、ゼノンの体は震えている。怪訝そうに彼の様子を見ていると、ゼノンから僅かに声が漏れてきた。それは徐々に大きくなり、リリアは唾を呑み込む。ゼノンは笑いを耐えていたのだ。耐え切れず漏れた笑い声は、哄笑と呼ぶに相応しかった。


 何が可笑しいのか一頻り笑い終えたゼノンは、リリアに目を向けてから距離を縮めてきた。リリアの目の前まで来ると、彼女の双眸をじっと見つめ、ゼノンは表情を歪めた。


「あとはあんたが流す涙だけだ」

「……こんなことして許されると思ってるの?」


 掠れた声でリリアが語を紡ぐ。彼女の鋭い視線がゼノンに突き刺さる。しかし彼は気にする様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。


「許されるか否かなんて僕には関係ない。僕は〝人魚の涙〟で世界を支配する」

「……あなたにそんなことできないわ」

「何?」


 ゼノンの眉が動き、不機嫌そうにリリアを横目で見やる。


「だって――」


 リリアはそれだけ言って発言を止めた。また扉が開く音がしたからだ。今度は誰かと思いそちらに目を向け、部屋に入って来た人物にリリアは涙が零れそうになるのを必死で堪えた。


「ツバサ……!」


 ツバサ、ラック、カノン、ダイスが両扉を大きく開け、前進する。その手には既に各々の武器が携えられている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ