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第83話

「その人どっちへ逃げて行きました!? 格好は!?」


 ツバサはくっ付くティーナを急いで引き離し、叫ぶように畳みかける。ティーナは驚いたように刹那動きを止めてから、涙を拭って街の中心部の方を指差した。


「あっちの方に行きました。もしかしたらバアル地区から離れるのかもしれません。私が見た時は教会から出て行く寸前だったので、顔は分かりませんでした……」


 ありがとう! と言いながらツバサたちは既に中心部へ走り出していた。ティーナの話から察するに、彼らが盗んだものはリリアの宝石箱だ。中には〝人魚の涙〟が入っている可能性が高い。


 時計塔の前を通り過ぎ、T字路を左折。昼間で賑わう街のいつもの情景がそこに広がっていた。幅広の通りの左右に軒を連ねる商店。買い物籠をぶら下げ、そこに集う女性たち。バス停にはこれから遊びに行くのか若い男女のグループが談笑している。これだけ人がいれば、誰かしら彼らを目撃しているに違いない。


 カノン班は手分けして捜索を開始した。ずっとラックに掴まれていたダイスは漸く復活したが、まさか機器が聞き込みをするわけにはいかず、彼は教会で待機だ。

今回は簡単に犯人の足取りを追えると踏んでいたカノン班。だが、前回の聞き込みの時とは逆で大幅な誤算があった。訊けども目撃情報が挙がってこないのだ。

ずっとこんなことをしていても仕方がないので、一度カノン班は教会に戻ることにした。不安と焦りが入り混じり、苛立ちが募っていく。彼らを追うことができれば、リリアがいる場所に辿り着けたのではないかと。


 もし本当に彼らが盗んで行った箱に〝人魚の涙〟が入っているとしたら、必要なものはゼノンたちの手元に集まったことになる。あとは今日の夜を待って、人魚となったリリアから涙を採取するだけだ。いよいよ急がなくてはならない。


 礼拝堂には、正面の十字架の前に佇み祈りを捧げるマザーの姿があった。ティーナは頭を垂れて長椅子に腰かけている。マザーはカノン班が入って来たことに気付くと、すぐにこちらに近づいてきた。


「みなさん……」


 マザーはそれだけ言うと、すぐに目を伏せた。体が震えている。後ろでマザーを支えるようにティーナが立つ。


「こちらです」

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