第77話
「そうなんだ! ゼノン君とも話したことあるなんて凄いね。――だけどね、彼、気を付けた方がいいよ」
「え!?」
伏し目がちだったサリーの顔が上がる。耳を大にして聞いていたディノの頭上にも疑問符が浮かんだ。
「ここだけの話にしてほしいんだけど……、僕実は私立探偵やっててね、職業柄色んな話を耳にすることがあるんだよ。サリーちゃんには洋服汚しちゃったお詫びも兼ねて、特別に教えてあげる」
サリーは実に不安そうに、じっとチャーリーを見つめている。これから何を言う気だ? とディノも耳を澄ます。
「ゼノン君って凄く若いのに議員になったでしょ? でもさ、若いってことは経験も知識も圧倒的に他の議員より劣ってるってことだよね。なのに、どうして議員になれたと思う?」
サリーはチャーリーが意図していることを測りかねるように首を傾げる。チャーリーはそれを確認し、一息ついてから真剣そのものの表情で告げた。
「――交渉術だよ」
「交渉術?」
「そう。彼はね、交渉術に長けているんだ。言葉巧みに相手の望みを聞き出し、それを叶えると約束する。代わりに自分の望みも叶えてもらうんだ。そうやって彼は議員になった。だけど本当はゼノン君に相手の要望を叶える気はさらさらないんだ。いわゆる詐欺だね。僕のところに来た依頼人は、何人もゼノン君に騙されてる。やっぱり一番多いのはお金なんだけど、約束してからちゃんとお金は支払ってくれるんだ。だけど結局、ゼノン君の後ろ盾である怖い組織〝ゴーガルテン〟から色んな形でお金を搾り取られる。例えば体に良くない薬品を混ぜた食品をプレゼントされ、それを知らずに食べた家族が病院に入院。請求された金額がゼノン君と取引した金額と一致してて、しかもその病院はゴーガルテンと繋がってて、ゼノン君から貰ったお金は全額回収されてしまったという話。ゼノン君っていうのは可愛い顔して、実は恐ろしい奴なんだよ……」
セコッ!! とディノは内心でツッコむ。超がつくほどの金持ちであるリーヴァ家が、食品に薬品を混ぜて、しかも病院とタッグを組んで全額回収するなんて手間なこと……。どうせ全部チャーリーの作り話なのだろうが、先ほど路地で会った体格のいい怖いお兄さんたちがそんな細かい作業しているところを想像すると笑える。しかしサリーは至って深刻そうな顔をしていた。
「あの……、その人はチャーリーさんに依頼して結局どうなったんですか?」
「お金は何とかして僕が取り返したよ。でもね、可哀相なんだよ。僕に依頼して来なかった人たちは泣き寝入りさ。ゼノン君にはゴーガルテンが付いてる。変なことを言ったらお金どころじゃ済まないからね。――僕はこれ以上ゼノン君の犠牲者を増やしたくないと思ってる。だから彼の近くにいるサリーちゃんには注意してほしいな」
サリーは膝の上の両拳を握り締め、唇をぐっと引き結んでいる。しかし暫くすると、彼女は何かを決意したようにチャーリーに強い眼差しを向けた。
「チャーリーさん、私も依頼してもいいですか?」