第76話
チャーリーはカフェの窓に映る三つ編みの女性を見て、予約していたのだろう隣の空き席へ急いで移った。立ち際にウィンクをしていく。
赤いスカートをふわりと靡かせ店に入って来た三つ編みの女性。フレームの大きなメガネをかけ、頬にはそばかすがある。彼女はチャーリーに気付くと、頬を染めながらディノの右側の席に座る。
「あ、ごめんねー、お詫びとか言って呼び付けちゃって」
「い、いえ、そんな……」
司書は慌てながら手を振る。
「飲み物何にする? お腹空いてたらサンドウィッチとかもいいよ。今日は僕の奢りだから遠慮しないで何でも頼んでね。じゃないと僕の気が治まらないからさ」
にっこりと微笑むチャーリー。人たらしな臭いがプンプンする。
オーダーを終え、早速チャーリーが話かける。
「サリーちゃんってすっごく可愛いよね。肌は綺麗だし、たれ目で柔らかい感じだし、三つ編みも凄く似合ってるよ!」
司書はサリーという名らしい。彼女は恥ずかしそうに、そんなことないです……、と言っている。一体何を言い出すんだとディノは内心で溜息をつく。
「そんなことあるよ! きっと職場ではモテモテだろうね。――職場と言えばサリーちゃんってどこにお勤めなの?」
実に自然な会話の流れ。ここでさっきの褒め言葉を活かすとは。なかなか侮れない。
「わ、私、議会所の地下書庫で司書をしてるんです」
「議会所の地下に書庫!? 知らなかったー! 具体的にどんなことしてるの?」
「本の整理とか、閲覧に来た人の記録取ったりとか……」
「へぇ! 閲覧って……、借りることはできないの?」
「はい、残念ながら……。借りられるような一般的な本なら図書館にあれば充分なので、議会所には一般の方の目に触れないものくらいしか置いてないです」
「すごーい! サリーちゃんはそんな大切なもの扱ってるんだね!」
そこで店員がサリーのオーダーしたカプチーノを運んで来た。彼女に合わせてチャーリーも同じものを頼んでおり、更に気を利かせてオーダーしたクラブサンドも丸テーブルの中央に配置される。
チャーリーはカプチーノを一口含み、クラブサンドを摘まんでから、更にサリーに訊ねる。
「でもそんな大切なもの、誰でも簡単に見られるものなの?」
「議員であれば閲覧の権限はあるんですが、事前にプレジデントの許可を得なくてはならないんです」
「そうなんだー、わざわざプレジデントに許可取らなきゃならないとなると、どうしてもって人以外は閲覧する人いなさそうだね……。最近だとどんな人が閲覧しに来るのかな? 今話題の若手議員ゼノン君とかも閲覧に来たりするの?」
具体的な議員の名前が出て、サリーの動きが一瞬止まる。それから固い笑顔で、ええまあ……、と回答する。
エルイは自分がプレジデントになってから地下書庫にあるクロードに関する資料を閲覧した者はいないと言っていた。今のサリーの反応から察するに、ゼノンが地下書庫を訪れたのは間違いない。予想だにしないことが起きた時、人間は素顔を見せる。サリーの表情はまさにそれだった。




