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第72話

「〝人魚の涙〟はリリアが持っている……?」


 自分でも俄かには信じがたいことを口走っていると思っている。それでも可能性として捨て去ることができない。思い出してみればティーナが〝人魚の涙〟の話をした時、リリアの様子は少しおかしくなかっただろうか。


「ツバサさん、今のお話は……?」


 マザーの声でツバサは我に返る。怪訝な顔をするマザーに、あくまで可能性の話ですが、と言って自分の考えを披露してみるツバサ。マザーは相槌を打ちながら話を聞き、そして不思議そうに顔を顰めた。


「でも〝人魚の涙〟は今議会所にあるのではないですか?」


 ツバサは、そうだった、と思いつつも、相手に気取られないように苦笑する。


「あくまで可能性の話です。もし〝人魚の涙〟がまだ見つかっていなかったら、誰が持っている可能性が高いのかなと」


 するとマザーは納得の表情を見せ、神妙そうにぽつりと呟いた。


「〝人魚の涙〟をリリアが持っているかもしれないというツバサさんの仮のお話、有り得るかもしれません」


 ツバサはゴクリと唾を呑み込む。しかし自分の仮説を肯定すると〝人魚の涙〟をなぜリリアに託す必要があるのかが解らない。そしてなぜミスティ湖に沈んでいたのかも……。


 ツバサは目を瞑り、頭を左右に振った。違う! 自分の頭の中に浮かんだことはとても気になるが、今はそれを解明すべき時ではない。リリアを探し出すのが先だ。もし本当にゼノンの手下たちがリリアを連れ去ったのだとしたら、まだ居場所を特定できる方法はあるはずだ。ゼノンから切り崩していくしかない。それにはディノの益々の協力が不可欠だ。


「マザー、明日に備えて今日はもう寝ます」


 ツバサは立ち上がり、部屋に戻った。既にメンバー全員寝ていると思っていたら、珍しく起きていて、扉の開く音とともに彼らがツバサに目を向ける。


《ツバサ殿、ゼノンという人物について詳細が分かったぞ》


 四つのベッドの中間地点で浮遊するダイスを囲むようにメンバーたちは各々のベッドに腰かける。


《ゼノン=リーヴァ、十五歳。両親ともに十五年前の戦争で亡くし、ゼノンはケントロ地区の施設で育っておる。父親は財界でも有名な人間だったらしく、ゼノンの懐には多額の金がある。選挙で当選したのは背後に〝ゴーガルテン〟と呼ばれる裏組織の力が関係しておるな。元々父親の代からそういう関係が出来上がっていたのであろう。資金もあり、裏のコネクションを使えば、スペルカードを入手することは左程困難ではないと思うぞ。それに戦争で両親ともに亡くしていることからも、ノエール国を恨んでいる可能性は充分にある》

「マジかよ!? カジルマ王国は反社会的勢力にスペルカード流してるってことかよ!?」

「永世中立国だからカードの販売先に対して差別できないんじゃないのー?」


 ラックの憤りをカノンがいつもの調子で一蹴する。大きく溜息をついたラックがツバサを横目で見やる。


「で、ツバサ、どうするよ」


 ツバサはジャケットのポケットからケータイを取り出す。そして、内心では四分の一ほど不安を抱えながらもメンバーたちにニッと笑顔を見せた。


「おれにいい案があります」

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