第73話
「ゼノンと裏で繋がってる組織に潜入しろだなんて、ツバサの大胆発言にはビックリだよホント」
一夜明け、黒スーツ、黒ネクタイを身に纏い、髪をオールバックに纏めたディノは肩を竦める。
ここはゼノン、正確にはリーヴァ家と裏で繋がっている組織〝ゴーガルテン〟の連中がうろついているはずの、ケントロ地区繁華街から二本奥の隘路である。どうやってそんな組織の根城を調べたんだろうと首を傾げ、そういえばツバサの班にはダイスという球体機器がいることを思い出す。
潜入についてはWGSの授業で習っている。しかし座学だけで実践したことはない。正直上手くできるか自信がない。
ディノは首を動かさず、視線だけで辺りを探る。周囲の建物で日光は届かず、薄暗くジメッとした路地だ。ぎりぎり人三人が横並びで通れるくらいの狭さで、足元にはところどころ水溜りが残っている。両壁は煤汚れのように黒くなっている部分が多く、しかし擦っても落ちそうにないところを見ると、やはりここには怖いお兄さんたちが沢山いるのだなとディノの顔が徐々に青ざめていくのである。
「確かこの辺りって言ってたよな……」
この路地の壁に高さ一・五メートルほどの扉があって、そこが彼らの城の入口だと聞いている。しかしその扉が見つかるよりも先に、ディノは動きを止めることになった。左腕に光るマライレットに右手を重ねる。
「あれー……、もしかして俺お呼びじゃなかった感じ?」
冷汗が額に浮かぶディノは壁に背を向け、左右を見やった。隘路の端には自分と似たような格好をした男たちが数人ディノの元へ向かって来る。
ディノの保有する武器は槍。対する相手は思いっきり銃を構えている。この狭さ、明らかにこちらの分が悪い。ディノの額に浮かんでいた汗が頬を伝う。
「そっちから出向いてくれるたぁなあ!」
右側からやって来るリーダー格と思しき体格の良い男が威勢よく吠える。頬に大きな切り傷が付いているあたりが凄味を増している。
そっちから出向いてくれたってどういうこと!? 俺、君らのターゲットになってたってこと!?
ぎりぎりの状況で男の言っている意味も理解できず、ディノはただ自分が動く最適な瞬間を捉えることに専念する。左右の男たちが引き金を引く、その瞬間を見計らう。
緊張で心臓の音が大きく邪魔をする。それでも相手が動く僅かな音さえも聞き溢さんと耳を澄ます。
「恨むなよ!? こっちはあくまで仕事なんだからよ! それじゃあ――あばよ!!」




