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第67話
エルイは努めて冷静に怪しまれないように回答してはいたものの、内心では相当焦っていたのではないかと、ディノはイヤホンを外しながら思った。期限を設定し、それまでに〝人魚の涙〟を公開しなくてはいけなくなってしまったことからも、エルイが冷静さを欠いていたことが手に取るように解る。討議が行われることは予め分かっていたのだから、それなりの準備はしていたはずだ。それをゼノンの発言に乱されてしまったのだろう。今では後悔だけが彼の中に渦巻いているに違いない。
「ゼノンって食えない男だなー」
ディノは溜息交じりに独り言ちる。
窓から射す夕日がプレジデントルームをオレンジに染め上げる。ディノはその光に目を向け、視界を細めた。
「ツバサに連絡しなくちゃ」
今後の対策も考えなくてはならない。やることが一杯だなと思いながら、ディノはイヤホンをテーブルの上に置いた。




