第65話
「まず〝人魚の涙〟を世間に公開すべきだ、という意見から伺います」
司会が話を切り出す。すると、複数の議員が同時に語り出したため、司会が仕切って順に指していく。
「クロードは偉大な発明家です。その最後の作品を世間に公開せず、議会で独り占めというのはおかしいでしょう。……議会といっても、〝人魚の涙〟を目にしたことがあるのはプレジデントくらいですがね」
「今回の作品は今までクロードが製作してきたものと大きく異なります。見た目は宝石のように美しい。セルバーンの技術力の高さを示すためにも、広く世間に公開すべきです」
「〝人魚の涙〟はその使用用途すら明確になっていない作品です。セルバーンに限らず世界の優秀な専門家たちに、どういった内容の作品なのかを解明してもらった方がいいと思います」
次々に〝人魚の涙〟公開派の議員たちが発言を重ねていく。
一通り言い尽くされたところで、沈黙していた最年少議員――ゼノンが口を開いた。
「皆さんの仰る通りです。世界にも誇れるレベルの作品、それをセルバーンの、しかも議会の中だけに眠らせておくなんて、そんな勿体ない真似できません。これは到底議会で独り占めしていい代物じゃない。それとも――何か〝人魚の涙〟を公開できない理由でも?」
ゼノンが口角を僅かに上げながら、エルイに目を向ける。自然と他の議員たちの視線も彼に集まる。エルイは内心で唇を噛みながら短く、いえ、と答えた。それに満足したようにゼノンがあどけない笑みを披露する。
「そうですか! 良かったー!! それを聞いて安心しました。では世間に公開する前にまず、議員に見せていただきましょう」
拍手が湧き起こりそうになる空気にエルイは両拳を握り締め、低く唸るように、待って下さい、と声を発した。ゼノンの笑みが止み、表情が引き締まる。
「別に最初から皆さんに公開するつもりでしたよ。ただ今は鑑定士に本物かどうかの依頼をしていて、それが終わるまではお見せできないだけです」