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第64話

「それではこれより、〝人魚の涙〟を公開すべきか否かについて、討議を始めます」


 議会所の会議室、細長い楕円テーブルを囲むように十五人の議員が座っている。入口すぐの、テーブル端に座る司会が議題を提示する。



 ディノはイヤホンを当て、その討議の様子をプレジデントルームで窺っていた。

――〝人魚の涙〟は世界を一瞬で崩壊させるだけの力を持つ危険な代物なのだよ。

エルイの言葉がディノの脳内で木霊する。


 プレジデントルームでディノがエルイから聞いた話、それは世界を揺るがすほど危険なものだった。反ノエール派が〝人魚の涙〟を入手し、世界を掌握しようとしていると言うのだ。


〝人魚の涙〟が危険な代物であることは、一部の人間しか知らない。クロードの研究成果を記したノートは博物館に展示されているが、あれはダミーで、本物は議会所の地下書庫に格納されているらしい。ダミーは〝人魚の涙〟に関する一部の記載が削除されたものとなっているそうだ。


 本物のノートには〝人魚の涙〟について、次の記載がある。


『〝人魚の涙〟は運命を変える石。森羅万象の理、世界の道理を捻じ伏せる。真の心で未来の在り方を欲すれば、神が必ず祈りを聞き届けるだろう。石の力を解放したくば、石とその名を融合すべし』


 議会がクロードの家から発見したのは、意味深の記載があるそのノートと、近くに落ちていたメモ帳だった。メモ帳といっても家に届く広告の裏紙の束をダブルクリップで留めた簡易なもので、それは一切表には出ていない。そのメモ帳に書いてあった内容は、核融合反応を利用した爆弾の設計に関するものだった。メモ帳の端が熱に炙られたように焼かれていて一部読み取れず、その爆弾を製作することはできない。暗がりを照らす電灯の設計や工事現場で使用する爆薬の開発等、人々の生活を豊かにするような発明を続けてきたクロード。彼は一つの研究が終わるまで、次の研究は行わない人だというのは業界では有名であり、しかもノートに記載されている〝森羅万象の理や世界の道理を捻じ伏せる〟という言葉から、〝人魚の涙〟は間違いなく〝核爆弾〟であると、ノートとメモ帳の内容を知っている者の間では結論づけられている。


 本来それらを閲覧できる権限は、セルバーン議員にしか与えられていない。しかも地下書庫の資料を閲覧するためには、プレジデントであるエルイに許可を取る必要がある。しかしそのような申請はエルイの元に来ていない。ということは、過去閲覧した誰かから情報が漏れたか、地下書庫の司書が誰かに買収されたかだ。


 ここ半年、急にノエール国の植民地であることに対する反ノエール感情が高まってきていることをエルイは感じていたそうだ。突如湧いて出てきたセルバーン各地の湖を調査すると称した団体。それが〝人魚の涙〟および〝人魚〟を探すためだと知ったのは、とある伝手かららしい。それは確かな情報だとエルイは言った。

半年前というと、丁度ゼノンが議員に当選したくらいの時期である。そこでエルイは彼に目をつけた。元々選挙でも、反ノエール派であることをオブラートに包んで主張していたゼノンである。彼を疑わない理由はなかった。


〝人魚の涙〟がドロマ地区の民家から発見されたという話は、議会所に〝人魚の涙〟があると示すことで敵の捜索を諦めさせる意図があった。そのために本当は見つかっていない〝人魚の涙〟が議会所にあるように見せかけているのだ。しかし〝人魚の涙〟を公開するように訴えかけてくる議員が多く、本日の討議の議題となっているのである。折角だから聞いていってはどうかとエルイに言われ、ディノはプレジデントルームでエルイの保有している盗聴器から討議の様子を窺っているというわけである。

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