第57話
ラックから手当てを受けながらツバサがディノから得た情報をメンバーに伝えると、ラックが忌々しげに早速口を開いた。
「俺ら、ボルドーの奴に利用されてんだよ! ったく腹立つぜ!」
《その可能性は充分にあるな。だがその場合、先ほどカノン隊長殿が仰ったように、何のために人魚を欲しているのだ?》
「そんなの知らねーよ!」
いつも通りラックがダイスを掴み、上下に素早く振る。そんな光景をさして気に留める様子もなく、カノンはぽつりと呟く。
「うーん、それにしても、そもそもボクたち知らないこと沢山あるよねー」
ツバサが首を傾げる。
「たとえばー、どうして今回の任務の助っ人としてリリアンを同行させたのかなー?」
「バアル地区にずっと住んでて詳しいからじゃないんですか?」
ツバサの回答にカノンは、そうじゃなくてさー、と頭に付けて語を継ぐ。
「別にバアル地区に住んでる人だったら誰でも良かったわけでしょ? リリアンじゃなくても良かったのに、敢えて曰く付きのリリアンを選んだわけでしょ? それって何か理由あるのかなー」
確かに、とツバサは腕を組む。大抵案内人として任務に就くのは、その内容を知る政府系の人間であることが多い。一般人を起用するなど聞いたことがない。
「それにー、ボルボルが人魚を欲しがってるのに、半分人魚みたいなリリアンを放置しておいたのも変だよねー。ボルボルはリリアンが人魚になることを知らなかったのかなー?」
カノンは、むむむと首を傾げる。
《と、とにかく今はリリア殿を探すことが先決ではないか?》
やっとラックから解放されたダイスが話を切り出す。
《〝人魚の涙〟やセルバーンの真の依頼については、ツバサ殿の友人が調べて連絡をくれるのであろう? であればそのことに関しては、我々は待つことしかできぬ。今我らがすべきことは、リリア殿を連れ去った輩について調べることだ。それがリリア殿を見つける手がかりになる》
リリアを連れ去った連中の顔はまだはっきりと憶えている。その記憶が薄れないうちに早く聞き込みを行った方がいい。
ツバサが大きく頷くと、左側から扉をノックする音が聞こえてきた。ちょっとすみません、と一声かけて入って来たのは、心配そうな表情を浮かべるマザーだった。
「皆さんにお話があります」
改まった空気にカノン班一同は姿勢を正す。マザーは静かに扉を閉めてメンバーを見据える。
「私はリリアを見つけて無事に連れ戻してほしいと思っています。そのためなら、どんなことにも協力します。ですから、今回リリアが連れ去られた件と関係あるか分かりませんが、まだ皆さんにお話していなかったことをお伝えしようと思って来ました。リリアの本当の両親についてです」
ツバサは唾を呑み込む。静寂に響くマザーの声。一拍置いて彼女が告げる。
「――リリアの父親は、今〝人魚の涙〟で話題になっているクロード、そして母親はミスティ湖に棲む人魚です」
ツバサの瞳孔が拡張し、一時呼吸を忘れる。
この台詞は〝人魚の涙〟を取り巻く謎とリリアを結びつけるには充分だった。