第46話
何で服着てないの!? おれ女の子の体触ったの!? え、何この状況!?
完全に混乱状態である。
ツバサの上からリリアが退いて暫くしてから、ツバサは上体を起こし、彼女がいる方に背中を向けた。そして自分のパーカーを脱ぎ、後ろへ放る。
「と、取り敢えずそれ貸すから」
テンパってそれしか言えない。背後ではパーカーのファスナーを留める音が聞こえる。
「……もうそっち見ても平気?」
すると、うん……、というか細い声が返ってきたので、ツバサはゆっくりと振り向いた。
「――――!?」
視界に映った景色に息を呑むことしかできなかった。
頬を赤らめ、胸元に片手を当てるリリア。彼女の下半身に目がいく。淡い水色に艶めく鱗。下半身は美しく細い曲線を描き、尾ひれに繋がる。
「セレティス……さん……?」
これ以上言葉が出て来ない。頭の中では様々な疑問が渦巻いているのに、極度の戸惑いや焦りが邪魔をして、声を出すことを阻むのだ。
「驚いた……でしょ」
ツバサと視線を合わせることもなく、苦笑するリリア。
「わたしね、普通の人間じゃないの。月の光を浴びると、こんな姿になっちゃうんだ……」
彼女の瞳はじわりじわりと湿っていき、それはやがて一粒の雫となる。地面に敷き詰められた苔の淡い光のせいか、涙に色がついているように映る。
「気持ち悪いでしょ? こんな体……」
悲痛に歪めるリリアの表情に、ツバサは無言で立ち上がり、ゆっくりと彼女の方へ歩く。
「人間になったり人魚になったり……。どっちでもない、中途半端な存在なの……!」
リリアの瞳からは彼女の意に反して次から次へと涙が溢れる。
「……わたしに関わっていたいとか言ってたけど、本当は嘘なんでしょ? わたしがこんなだって知って幻滅したんでしょ? 気持ち悪いって思ったんでしょ?」
ツバサは何も言わない。
「ねえ……、気持ち悪いって言ってよ。見たくもないし、話したくもないって言ってよ。関わりたくないって言ってよ!!」
叫び、苦しそうに顔を歪めるリリアをツバサは優しくも強く抱き締めた。リリアの瞳が大きく見開かれる。
「おれはセレティスさんと関わっていたい」
「……そんなの嘘よ」
声が掠れ、弱々しい。
「本当だよ。気持ち悪くもないし、ずっと見ていたいし、沢山話したい」
「……嘘、嘘よ! だって何で……」
「放っておけないんだ」
過去の自分に重なったのかもしれない。ツバサにもあった。人と関わることを恐れていた時期が。
リリアの辛さや心細さ、不安はツバサには解らない。だが、少なくとも歩み寄れるはずだし、彼女が人魚だろうが人間だろうが、そんなことは関係ないのだ。一人の女の子が自分の目の前で苦しんで泣いているという事実。それだけでツバサには本気で彼女のことを想うには充分なのだ。
「セレティスさんが何であっても、おれは君を嫌いになったりしない」
それを聞いたリリアは、嗚咽を漏らしながら暫くツバサに縋るように泣いていた。




