第40話
「ねーねーダイダイ戻って来るまで暇だしさ、お昼食べながらトランプでもしようよー」
カノンがその場に座り込み、ポシェットから赤いトランプを取り出す。全く用意がいいにも程がある。
「お! いいっすね」
赤い光を帯びたままのラックもその場に座り込む。補助魔法は五分間有効なので、それまでこの光が止むことはない。
「何にするー?」
「ババ抜きとかどうっすか? 定番ですけど」
「えー! ラックン、センスないなー。ここに婆いないんだからつまんないじゃん。ダウトにしようよー! ボク嘘見破るの得意だしー」
「……カノン先輩、やりたいゲーム決まってんなら訊かないで下さいよ」
げんなりとしながらラックが肩を竦める。一息吐いて、まだ立っていたツバサを見上げた。
「ツバサもやるぞ!」
「は、はい!」
ツバサは返事だけして、ラックに背を向けた。ツバサの視線の先にいるのは、腕組みして木の幹に寄りかかっているリリア。
「セレティスさん、ダイス先輩戻って来るまでトランプやるけど、一緒にやらない?」
リリアは近づいて来たツバサを一瞥して、視線を湖へ戻す。
「わたしはいいわよ」
ツバサは拳に力を込め、一度口を引き結ぶ。それから、そのどちらも緩める。
「……ごめん、言い間違えた」
このツバサの発言に、リリアは彼に視線を向け、眉を顰めた。
「セレティスさんも一緒にトランプやるから来て!」
ツバサはリリアの左手首を掴み、半ば強引にラックの元へ向かう。自分にしては随分と勇気を振り絞った行動だと思う。
だが、彼女が抵抗しないわけがない。
「ちょっと! 離してよ!」
力強くツバサの手が振り解かれる。リリアは右手で左手首を擦る。
「……わたしのことは放っといていいから」
「放っとけない」
リリアの動きが止まり、彼女の瞳がツバサだけを見つめる。そこに映ったのは、ツバサの真剣な表情。
「どうせおれらはセルバーンに雇われただけだし、この任務が終わったらまたキャンパス・シップに戻って世界を旅する。セレティスさんと関われるのもこの任務の間だけかもしれない。でも、せめてその間はセレティスさんと関わっていたい!」
リリアと関われる時間は限られている。その間、少しでも彼女と関わっていたい。それはツバサの本心だった。それに――
「……セレティスさん、人と関わることをわざと避けてるよね?」
マザーに言われたからではない。本当は最初からそうなのではないかと思っていた。だが、その予想が確信に変わったのは、昨日のマザーの台詞だ。
リリアは瞳を見開き、すぐに気まずそうにツバサと反対側に視線を落とした。
「人に対して壁を作るのは解る。傷つくのが怖いから。自分が拒絶されるのを恐れてるから。でもそれじゃ、一生孤独から抜け出せない」
リリアは唇を噛み、左手首を握る手に力を込める。
「昨日今日会ったようなおれたちのことを信用に足る人物かどうかなんて判断できないかもしれない。それでも、信じてみてほしい。我儘言ってるのは解ってる。でも、セレティスさんと関わった短い時間で、おれたちがセレティスさんのことを傷つけるような人間じゃないこと、理解してくれてるっておれは思ってる」
背後で、おーいツバサー、と呼ぶラックの声が聞こえる。
「今行きまーす!」
ラックの方へ体を捻り、すぐに正面に戻す。だが、そこにリリアの姿はなかった。代わりに左側から彼女の小さな声が鼓膜を振動させる。
「別にあなたを信用したわけじゃないから。ただトランプしたことないから興味があるだけよ」
リリアはそのままラックの元へと歩いていく。ツバサはその場で微笑を溢し、彼女を追いかけた。




