第3話・幕間
ママさん視点のお話し。
ではどうぞ。
皆の感想&評価&ネタ提供が作者の力になっております。
とある日の食卓での事。朝食の最中にクロードがパンを口にしたアオイちゃんに言った。
「愛息子も今日で七歳になったよな?」
「あむ?んぐんぐ……うん、そうだね。でもそれが何さ?」
そう、今日はアオイちゃんが七歳になった日!誕生日なのよ!フフフフフ!!
この日のために誠意を込めたプレゼントも用意したのよ!黒を基調としたワンピースに白のレースとフリフリをふんだんに使った逸品の服よ!
ただ一つだけ気になるのはこの服飾データはアオイちゃんのファイルにあった事なのよね。ゴスロリって言うみたいだけど、なんでアオイちゃんはこんなデータを作ったのかしら?自分で着るためってわけじゃなさそうだけど……もしかしたら誰かに着せるため?
…………むむむっ!私のアオイちゃんに悪い虫がっ!?まだ七歳になったばかりなのにやるわね!流石は私とクロードの子供だわ!
ああっ、でもでもっ、やっぱりアオイちゃんにこのゴスロリを着てもらいたいわっ!
男の子なのにあんなに可愛いアオイちゃんだもの、きっと似合うわ!あの柔らかい頬っ!可愛らしい鼻っ!瑞々しい唇っ!子供らしい華奢な腕と足に柔らかそうな身体っ!全体的に儚い印象なのにっ、可愛らしい印象なのにっ、それなのに目元だけはクロードのように鋭い目付きをしていてその瞳にはどこか力強さがあるというアンバランスさっ!
きゃーっ!アオイちゃ~んっ!もう、もうもうもうっ!なんて愛らしいのかしら!そんなに可愛いのだからきっと女の子の服も着こなしてくれるわよね!
でも、アオイちゃんはこういう服を着るのを嫌がるのよね。男の子に女の子の服を着せられるのなんて子供の中性的な容姿である今しかないのにどんなにお願いしても絶対に着てくれないのよ。ちょっとどうかな、なんて聞こうものなら直ぐに逃げちゃうのよね。何かないかしら、可愛い服をアオイちゃんに着せる妙案が。
「……愛息子は自主学習に励んでいるとアーフから聞いている。だから父さんと母さんでその手伝いをしようと思うんだ」
あ、あら?いつの間にかクロードとアオイちゃんで話しが進んでる?ちょっと重要事項について悩みすぎていたみたいね。
「そ、そうなのよ。アオイちゃんさえよければどうかしら?」
「母さんまで。でも、父さんも母さんも忙しいんじゃないの?……何してるか知らないけど」
私は敢えて後半の言葉を聞かなかった事にした。とてもじゃないけどアオイちゃんに話すには気が引けた。血生臭い外の事を話すにはまだ早いと思うから。
「なんだ、そんな事か。いいか愛息子よ?暇とはできるのを待つんじゃない作るものだぞ。なあ、母さん?」
「え?え、ええ。そうよね、パパ。だからアオイちゃんはなんの心配もいらないのよ」
クロード……その意見には同意するけど相変わらず無茶を言うのね。余りにも自然に聞いてくるものだから私も思わず賛成しちゃったじゃないの。
貴方も知らないはずないのに、外が大変なのよ?人間族の欲望が増長して今はアース大陸中で戦争と紛争ばかり、それで治安も悪化するから盗賊や山賊が跋扈するばかりじゃないのよ。
しかも最近は外に出掛けるたびに人間族の王達は私達にちょっかいをかけてくる。数が多いから断るのが面倒なのよね。こっちはそれどころじゃないのよ!家では愛しのアオイちゃんが待っているのよ!外の仕事なんてサッサと片付けたいの!――だと言うのにあのおバカさん達は……っ!!
んんっ……閑話休題よ。
ともかく今はアオイちゃんの事よね。それ以外は些事だわ……いえ、勿論人間族を始め他の種族達の事もその力強い生の営みを愛おしいと思っているわよ?だけど、だけどね?今はアオイちゃんの事が最優先なのよ!
初めての自分の子供なの。もうこの先一生で限りなく皆無に等しい出来事なのよ。だから大事に育てたいのよ。長命種として特別な意味を持つ“白”の事もあるし、少なくともアオイちゃんには独り立ちできるくらい強くなってもらいたいの。
「いや、でも……あー、無理しなくていいって」
「ダメよ」
「ああ、ダメだな」
「即答!?しかも一言!?」
それなのにアオイちゃんは何を遠慮しているのか乗り気じゃない様子だった。私もクロードも一言の下に切り捨ててしまったわ。自分でも惚れ惚れするほどの即答だったわね。
「うぅぅ、父さん母さん、ひどくない?」
「なにか、言ったかしら?アオイ……ちゃん?」
「イ、イエ、ナニモ……。ハハハ……」
そうよね、何も言ってないわよね?アオイちゃんは学習が進んで嬉しい、私達はアオイちゃんにモノを教えられて幸せ。んーっ……素晴らしいわ!これこそ幸せスパイラルよね!
「愛息子、お前ってヤツは……(ボソボソッ)」
「うっさいよっ、他にどうしろと言うのさっ(ボソッボソボソッ)」
クロードとアオイちゃんが顔を寄せてコソコソと内緒話をしていた。
あらあら、何を話しているのかわからないけど相変わらずクロードとアオイちゃんは仲がいいわね。同じ男同士だからかしら?そういうのは抜きにして是非とも私もアオイちゃんと仲良くしたいわ。
「こほんっ!続き、いいかしら?」
「っ!?はいっ、母さん!」
「あ、ああ、ごめんごめん」
もう、しょうがないわね。本当にこの二人はよく似ているわ。私でも嫉妬してしまうくらいに仲がいいんですもの。
「いい、アオイちゃん?前の召喚術みたいにママとパパに無断で魔法行使しようとしたら大変じゃない。前にも言ったけどただでさえアオイちゃんはまだ子供なの。私達長命種は肉体的に未熟なうちは大きな魔法なんて極力使わないに越した事はないのよ。何が原因で身体に不調を来たすかもわからないんだから」
それに“白”の事もあるもの。アオイちゃんが召喚術で専属契約したグリフィンとグレイハウンドの子達に“白”の影響が出ている事から他にも何かあるかもしれない。だからちゃんと把握しておきたいから、できれば私達の見える所で監視もとい見守らせてもらいたいのよ。
だと言うのにアオイちゃんったら。
「母さん、それはもうわかったから……。だからこそ俺も生活に役立つ小さな魔法しか使ってないよ。精々が水の魔法と風の魔法、まぁ時々火の魔法くらいのものを、ちょっ!?」
なんて言うのよ?私、半ば無意識にアオイちゃんの両肩をガシッと掴んで最後まで言わせなかったわ。これはよ~く言い聞かせる必要があるのかしら?フフフ。
「ア・オ・イ、ちゃ~ん?ママは使わないに越した事はない、って言ったのよ?」
「ちょっ!?かたっ、肩がいたいっ!?ゆ、指が肩に食い込んでっ……!?」
もうアオイちゃんったら、ちょっと掴んでるだけじゃないの、大げさね。それよりもちゃんと私の話しを聞いてくれないと困っちゃうわ。
「ちゃんと聞いてるの?本当にアオイちゃんはパパに似て頑固さんなのね。こうなると説得が大変なのよね、ママ困っちゃうわ。……ねぇ、パパ?」
「えっ!?あ、ああ、そ、そそそうだね。アハハ、アハハハ……」
クロード、何をボケッとしているのかしら?あと何をそんなに怯えているの?もう本当に困った人なんだから。でもそういう所も可愛いのよね、これが惚れた側の負けということなのかしらね。
フフフっ、アオイちゃんも可愛いから嬉しくて困っちゃうわ!もう幸せ!
「ほら、パパも同じ気持ちよ?どうかアオイちゃんにも理解してほしいの。お願いよ。ね?」
「母さん!だから痛いってばっ!音がっ、肩からギチギチって普通なら鳴らないイヤな音ががががっ!?アーッ!?」
もう、暴れないの。危ないでしょう?それよりも私の話しを聞いてるのかしら?
「ママね、アオイちゃんの事が心配なのよ。どうしても魔法を使うのなら、せめてママかパパの目の届く所で使ってくれないかしら?ね?お願いよ」
「わかっ、わかった、からっ!お願いだからっ、手を放してっ!ギシギシって骨が軋んでるからっ!?」
「そう♪わかってもらえてママ嬉しいわ~」
手を放すと途端にアオイちゃんはテーブルに突っ伏してビクビク震えているの。どうしたのかしらね?
それにしても本当にアオイちゃんは頑固さんね。クロードに似たばかりにこれからが大変だわ。言い聞かせるのにも時間が掛かりそうね。クロードにもよく言い含めておかないといけないわ。
「…………」
机に突っ伏したままアオイちゃんがジト目を向けてくるの。なんでかしら?
「何か、言いたい事でも、あるのかしら?」
「……ナ、ナンデモアリマセン、ヨ?」
「あら?……“よ?”って……なに、かしら?」
疑問系なの?それに妙に片言っぽいのはなぜかしら?
「なんでもないです!ええ、もうっ、あるわけないじゃないっ。アハハハハ!」
「そうよね、あるわけがないわよね。うふふふ」
時々アオイちゃんの事がわからなくなるわ。そこが今一番の不安なのよね。でも、きっとこれこそが子育ての難しさというものなのね。
私、がんばるわっ!立派なママになるからね、アオイちゃんっ!そうしたらそうしたら……きゃーっ!きゃーっきゃーっ!可愛いわっ、アオイちゃ~ん!!
イングバルドが改めて母親(?)として自覚して悶えていた一方で息子とその父親はというと……。
「アハハハ、はぁぁ……」
「愛息子よ……」
「父さん……」
「ガンバレっ!(笑)」
「ウザイよっ!?かっこわらいって何さ!?我が父親ながらマジでウザイよ!!」
「応援したのにひどい言いよう!?愛息子は父さんに冷たくないかな!?」
「え?今更?」
「今更!?えっ?どういう事!?愛息子は父さんが嫌いなのかな!?」
「は?好きだよ。母さんと同じくらい好き。何言ってるのさ?」
「ま、ま、ま、愛息子よおおおおおっ!!!」
「ちょっ!?父さっ!?いきなり抱きつくなんて何っ!?何なのさ!?」
「おぉいっおぉいっ!愛息子よおおおっ!」
「あーもー、泣く事ないじゃないか。仕方のない、父さんだなぁ……」
などと寸劇的な事をしていた。
数分後。三者三様の賑やかな朝食の光景の中でアーフは一人黙々と給仕を続けていた。
――はっ!?
いけないわ。母親として改めて自覚し直したと思ったら、次にはいかにアオイちゃんに可愛い服を着せるかについて意識を飛ばしてしまっていたなんて。
「はいはい。アオイちゃん、ここからが本題よ。よ~く聞いてね?いい?」
パンパンと手を叩いて注目を集めた。まだ大事なお話しをしてないのだからアオイちゃんにはちゃんと聞いてもらわないとね。
「ぁぃ……ぅぅぅ」
「あらあら、返事が聞こえな――」
「はいっ!ちゃんと聞いてるよ!聞いてるからね!?」
「あら、ごめんなさいね。ママったら間違えたみたい。うふふふ」
「アハ、アハハハ。し、仕方ないなぁ、母さんは……はぁぁ」
タメ息を吐いてるアオイちゃんが苦笑している。
ごめんね。ちょっと私も言い方ややり方が乱暴だったかもしれないわ。でもわかってほしいの、いい?アオイちゃん、私だってこんな威圧的な方法は好きじゃないのよ。でもね、何事にも最初が肝心なの。言ってわからないヒトや交渉に応じないヒトが居た場合、もしくは話そのものすら聞かないヒトにはまずは実力を持って叩きのめして無理矢理にでも話し合いのテーブルに座らせないとダメなのよ。
世の中は何だかんだ言ったって最後はパワーなんだから!
「母さん、なんと言うか色々と台無しだよ……」
「うっ……」
ある意味で世の真理とも言えるべきお話をしたのにアオイちゃんったら一刀の下に切り捨ててくれちゃった。
それでも『でも俺もそう思うよ』なんて苦笑しながらも同意してくれたの。もうアオイちゃんったら恥かしいからってテレてそんな回りくどい言い方しなくてもいいじゃない。
こほんっ、それはともかくとして、いい?
「それでね、本題なんだけど、これからはママ達がアオイちゃんに教えるんだけど準備の関係で明日から始めようと思うのよ、大丈夫かしら?アオイちゃんならできるわよね?ママ信じてるわ!」
「母さん、それもう提案じゃなくて決定事こ――」
あら?アオイちゃんの頭に埃が……取ってあげましょうね。右手をグワシッと置いて。
あー、そうそうアオイちゃんが何か言い掛けていたのよね、なんだったかしら?
「んー?なにかしら?勿論いいお返事よね?」
「もっもも、勿論じゃないデスカっ!やだなぁ、母さんったら。ハハハ……」
何をそんなに慌てているのかしら?私はただ埃を取ってあげようとしてるだけじゃない。
ほら、取れ……あらあら、埃がなくなってるわね。フフフフ。
「いいお返事ね。やっぱりアオイちゃんはいい子ね。ママ嬉しいわ。うふふふ」
「アハハハ……」
怯えちゃって……それもアリねっ!私的にはこれもアリだわ!フルフル震えてちょっと涙目のアオイちゃんとか……フッフフフフッ!いいわ!私の中の何かがとても漲ってくるわね!この気持ちは何なのかしら?
自分の中にある知らない感覚に思いを馳せていたけど、ここで別件の問題に思い至った。
えーと、クロードは……なんで拗ねたように白パンを齧っているのかしら?
「パパ、あなたはまだダメよ?」
「なんでさ!?ボクも愛息子と遊びごほごほっ教えたいよ!!」
「だってパパの教え方って実践的過ぎて今のアオイちゃんには無理よ。せめて一〇歳になるまで我慢しなさい」
「ノオオオオオオオオオオっ!?」
クロードったら、食事中に床にくず折れるのは止めましょうよ。行儀が悪いじゃない。アオイちゃんが真似したらどうするのよ。
大体あなたは歳一桁の子供相手に過激な実践的戦闘術や危険な薬品を使った実験なんかを教えるのは危険じゃない。子育て初心者の私でもそのくらいわかるわよ……たぶん、だけど。
あ……そうよ。課題を達成できなかったペナルティとして可愛い服を着せればいいじゃない。フフフ、これで解決じゃない。
楽しみがっ、人生の潤いが増えたわっ!うふふふっ!
おかしい。当初はこんな性格設定じゃなかったのにいつの間にかこんな事に……。
優しく母性愛に溢れた母親、という設定はそのままのはずだけど、これは……どういう事だ?
ここから修正はできるだろうか……。
ではでは。




