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アナタは異世界で何をする?  作者: 鉄 桜
第ニ章・目覚めてみれば新時代
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第7話・アオイの日常


今回はちょっと短いです。



 


 


「ルンルンル~ン」


 鼻歌まじりに歩くのはボーイッシュなメイド少女のリーリエ。ヴァラスキャルヴ城の地下へ続く廊下を行くリーリエの前には先導するようにアオイが先を行く。

 アオイとリーリエ、他に同行する姿はない。彼女が上機嫌の理由がそれだった。上機嫌に歩く彼女の周囲にお花が咲いているのが幻視できそうだ。

 それというのもアオイが目覚めてからの四日間は現状把握のためにエーデルとネルケによるほぼ独占状態だった事が大きい。必要だったとはいえ独占せずに講義は持ち回りでいいではないかとマグノリエがレギオンシスターズを代表して抗議したのに呆気なく却下された。つい呆然としてしまい自身を構築するナノマシンが一時的に処理落ちしかけたほどだ。

 それにあの日からエーデルの様子がおかしい。今までは氷のように冷徹で鉄のように揺るぎなかったのに、アオイが目覚めた日からどこか前のように少女らしい一面が見られるようになった。憑き物が落ちたと言えばいいのか、とは皆の統一見解だ。

 鉄の女王、氷の眼差し、金色の眼、銀髪の魔女など様々な異名を持つエーデルがアオイの傍に居るとテレたり恥じらったり甘えたりと、まるでただの少女のようだ。

 勿論、他者が居る時は無表情で一貫している事から、アオイとエーデルが二人きりの場合に限る。この場合リーリエが知っているのではなく、レギオンシスターズが知っているのだ。目撃者は増殖した彼女達の個体の一つだったりする。

 因みにその個体はペルレだったのだが、発見された瞬間に処理された。それでも目撃情報はラタトスクを通してすぐさま拡散していた。後で知ったエーデルが頭を抱えて羞恥に悶えていたのは知らなくともいい話だ。


「王さま王さま」

「なにリーリエ?」

「えへへー。呼んでみただけなのです」


 花咲いたように笑うリーリエと仕方ないなと苦笑するアオイ。

 実はこのやり取り既に六回目だったりする。まるで初々しい恋人のようだが、それを指摘する者はこの場には居ない。もしも居たなら言い合いになり拳で語る事になるはずだ。

 どのような世界、どのような時代でも女性の嫉妬とは男性の視点から見て時に可愛くもあり時に怖くあるものだ。


「あっ、王さま王さま」

「んー、今度は何?」

「まだ聞いてなかったのですが今日は何をするのです? この先は研究区画なのですよ」


 研究区画とはヴァラスキャルヴ城の地下に作られた重要施設の一つ。他にもアスガルドの地下に張り巡らされた施設群は数多く、それらを繋ぐ通路などからまるで迷宮のようになっている。その中でも重要施設への出入りは転送装置のみで行き来が可能となっており、仮に不法侵入されても転送時に弾かれてどこへなりと強制転送される仕様になっている。

 今二名はヴァラスキャルヴ城の地下に作られた中央転送室へ向かっていた。そこには研究区画への出入り口があり、他にも重要施設への転送装置が多数設置されている。


「これの機能更新をしにね。中身を確認したら昔のままだったから」


 そう答えながら左手首につけた銀色の腕輪を見せた。それは亜空間内に格納する機能を有したもので、某有名RPGの道具袋や某青狸の四次元ポ●ットのようなものだ。


「一応工具も入ってるんだけど、やっぱりちゃんとした設備のあるところでやったほうが安全確実だからさ」


 かつて自分の工房(アトリエ)を持っていたからこそ、やはり安心して作業できる環境で行ないたかった。

 過去の実験で未知を追求した内の四割は爆発で機材をダメにして三割は消滅により施設が崩壊した。二割は成功しているのだが……まあいい。そして残り一割だが……これはヒミツだ。

 今となっては遠い過去の出来事。しかしアオイにとってはつい先日の事のように思い出せる。実際は二万年も昔の事だと思い知らされ、なんとも寂しい気分になったものだ。


「王さま王さま」

「はいはい。今度は何さ?」

「改良が目的ならアイゼンに言えばやってくれるのですよ」

「…………」

「…………」

「……あ?え?マジで?」

「マジ、なのです。アイゼンもこの二万年の間で腕を磨いてるのです。その程度は簡単なのですよ」

「おうふ」


 アオイは苦笑いだ。寂しい気分など吹き飛んだ。

 旅立つ前に用意したいと思い立ったのだが、それも任せてしまえるとわかり予定が狂った。寧ろこのまま研究区画へ行く意味があるのかすら疑問だ。

 廊下に立ち止まりうむむと唸り悩む。


「け、研究区画に居るアイゼンに渡してしまえばいいのですよ。それに皆も王さまに会いたがってるのです。丁度いいのですよ」

「そう言うけどさ、この前の宴会後にも身内だけの二次会したような気がするんだけど」

「それじゃ足りないのです。ボク達はいつでも王さまと一緒に居たいのですよ」

「お、おう……」


 ついっと視線を逸らして再び歩み始める。ここまで真直ぐに目を見て断言されると気恥ずかしいようだ。後ろをついて行くリーリエはクスクスと楽しそうに笑っている。

 結局これからの目的地について明言していないが、変更はないとリーリエは言葉にされずとも察した。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 浮遊島アスガルドには数多くの施設があるのだが、その多くは地下に作られている。

 その施設はヴァラスキャルヴ城からウーズ湖を挟んだ向かい側の地下に作られている。

 第一造船所。それがその施設の名前だ。

 小型の警備艇から大型の戦艦級まで作れる第一造船所は地下に作られているが、艦船の発着のために地上部分は開閉式になっている。開閉部分は草木で偽装された作りになっていて、一見ただの野原にしか見えないため秘密基地のようになっていた。

 なぜこのような面倒な作りになっているのか。はっきり言ってしまうならアイゼンの遊び心だ。それでも敢えて理由をつけるなら景観の保護のため、だろうか。

 アスガルドの地上の大部分は木々と草花に覆われている。ヴァラスキャルヴ城を中心に都市イザヴェルが発展しており背後には山脈が連なっており、城壁で隔たれているが左右には広大な草原が広がっている。前面にはウーズ湖があり城壁を飲み込むように天樹ユグドラシルが堂々と座していた。

 自然豊かな風景だ。更に言うなら浮遊島というある種神秘的とさえ言える状況が独特の壮大さと美しさを際立たせている。

 それらをいつか目覚めるアオイに見せたい、壊したくないと思ったアイゼンが陣頭に立って全ての工事は計画的に進められている。この第一造船所もその一つで、その名の通り造船所として最初に作られた場所だ。

 その中の乾ドックの一つでツーサイドアップの髪を揺らしながらアイゼンが指揮棒のように大槌を振り回していた。


「はいはい。皆ちゃっちゃと仕上げるッスよー!親方の乗る船なんスから繊細に、かつ大胆に仕上げるッス!」


 あちこちから『はーいっ!』やら『おうっ!』など元気のいい声が返ってくる。アイゼンはそれらを聞いて満足そうに頷いた。一部からは『へい、姉御!』やら『姉御素敵!』なんて聞こえてきたが気にしない。

 今この第一造船所にて、とある船が作られていた。より具体的には改良工事がされている。艤装と武装は大部分が取り除かれて丸裸となったその船は規模で言えば駆逐艦級程度。全長約百六十メートルの百合の蕾のような船体をしたアンゲロイ型駆逐艦と呼ばれる艦船で、元々はアイゼンが一から設計したものだ。

 アンゲロイ型駆逐艦は数多く作られて、アスガルドとその周辺空域の警備を主任務としている。そのため索敵と観測機器、ステルス性を重視されて設計されている。

 その数あるアンゲロイ型駆逐艦の一隻を改良している理由は先程アイゼンが口にしたが、アオイがこの世界を旅したい、直接見て回りたいのだと聞いて移動の足として採用したのが今改良中のこの船だ。


(作業は至って順調、なんスけどねー)


 声には出さないで呟いたその顔には不満そうな色がある。つい先ほど活気よく檄を飛ばしていた人物とは思えない。

 うんうん唸るアイゼンの傍に近づく者が居る。


「アイゼン。今いいですか?」

「おや、エーデル姉ぇ?いいッスけど、こっちに居ていいんスか?」


 今アオイは研究区画の一角にある研究室にてアイゼンと装備の更新について楽しく話しているのを、旧共有ネットワーク改めてラタトスクを通して共有化される感覚情報から読み取っていた。

 つーか向こうのアタシが羨ましい!こっちのアタシと代われ! などと心の中で叫んでなんかいない。だって別の個体とは言え同一体だから。

 アイゼンの思いを知ってか知らずかエーデルの表情に変化はない。


「構いません。不本意ですが、マスターのお側役にリーリエを置いてきました。不本意ですが」

「うへぇ、そんな二度も言うくらいなら来なきゃいいッス……」


 訂正。ものすごくイライラしていた。顔は無表情に、態度の普段通りだ。しかし内面は嫉妬と焦燥に荒れていたようだ。

 燻るような怒気を感じ取ったアイゼンはぼそりと呟く事しかできなかった。

 エーデルの目がギラリと怪しい光を宿した。


「何か、言いましたか?」

「ななっななな、なんでもないッス!あるわけないじゃないッスか!」

「……まあいいでしょう。それよりも船の現状について報告を」

「はいッス!」


 直立の姿勢を取ると踵を揃えて右手を胸の前で水平に当ててビシッと敬礼した。しかし、その姿勢もすぐに崩れた。


「とはいえ、まあ全部順調ッスよ。怖いくらいに何も問題はないッス。このままなら予定よりも早く終わるかもしれないッスね」


 ガシガシ頭を掻くと背後にあるほぼ全ての艤装を取り除かれた船体を見上げる、その視線は言葉と違い実につまらなそうだ。


「予定内に終わるならこちらから言う事は何もありません。尤も、アイゼンには何か不満があるようですね」

「別に不満ってほどじゃないッスけどね。それでもやっぱり親方に相応しい艦を拵えたかったッス。本来ならこういう時こそアタシの腕の振るいどころッスし」


 ぶんぶん。言葉とは裏腹に長柄の大槌を片手で振り回す姿はまるで不満げな子供のようだ。エーデルは呆れるでもなくただ見詰めている。


「この船は既存艦ですが一応は新造艦です。改良工事で幾分性能不足だとしても戦闘が目的ではありませんし、地上を旅してまわる程度なら問題はありません」

「それはそうッスけどね。でもやっぱり一から作りたかったッス。ただでさえ地上の規格に合わせるために偽装できるところはしてるんスよ。これがまた面倒で面倒で。もういっそのこと戦艦級なんてよくないッスかね!」


 愚痴を零しているうちに不満が溢れたのか拳を握って熱く語りだしたアイゼン。その目は興奮しているのかグルグルしているように見えた。


「バカな事を言わないように。地上との技術差を考えなさい。こちらの駆逐艦級でも地上では巡洋艦級に匹敵するのですから戦闘艦としては十分でしょう」

「うへーい」

「…………」

「イエスマム!……ッス」


 とはいえ、相手が悪い。ひと睨みするだけで切って捨てられた。

 滂沱の涙を流すアイゼンは無駄と知りつつもブーブー文句を言う。勿論聞こえない程度に極々小声で。

 またエーデル姉ぇ(理不尽)に手足を千切られて頭を踏み潰されるのは勘弁!


「??? 何かイラッとしました」

「ちょっ!!それは流石に理不尽っ、に゛ゃあああああああっ!?!?」


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


 とある一体のアイゼンが『腕っ、腕はそっちには曲がらないッスよおおおっ!!』とやや理不尽な目に遭っている時、アオイは都市イザヴェルを散策していた。

 あの後アオイ達は装備の更新作業を研究室に居たアイゼンに任せたことで時間が空いてしまう。さてどうするかと考えていると、リーリエが案内役をするのでイザヴェルを散策してはどうかとなった。唐突な申し出ではあったがアオイにしても城内と地下施設を少なからず見て回ったが、まだ都市部には行ったことがなかった。なので、これを了承して二名は散策に出かけた。

 ヴァラスキャルヴ城の城門、都市部と隔絶する城門その横にある小さな通用口から外に出た彼らは最も賑わう中央広場を目指していた。


「あっ、王さま王さま。あれがビルスキルニル、イザヴェルで最も賑わう場所なのです! たくさんお店があるから買い物ならここなのです。個人で開いた露店ではたまに掘り出し物があるから見て回るだけでも楽しいのですよ!」

「へえ。確かにすごい賑わいだ。リーリエが案内したくなる気持ちもよくわかるな」


 アオイの手を取り駆けだしたリーリエに、昔を懐かしむように笑うアオイ。

 ビルスキルニルと呼ばれる広場は自然を切り取ったような草原と木々それに敷石で整備された広場で所々には湧き水のように噴水が作られていた。住民の憩いの場でもあるようでテーブルや椅子、ベンチが設置されていた。

 中央広場は商店に囲まれているために買い物客や散策している者で賑わっている。


「住民は殆どアンドロイドって話だったけど、意外と多いね。俺の知らないヒトも居るし随分と様変わりした感じだしさ」

「ネルケが工作員用にって人格移植型のアンドロイドも多いのですよ。ここで生活している彼らはひと仕事終えて休暇中とか次の任務まで待機しているとか色々なのです」

「ちょっと待った。人格移植型? それって……」


 ちょっと怖い想像をしてしまったアオイ。どことなく顔色が悪い。

 リーリエはパタパタと両手を振って慌てて否定する。


「あっ、いえいえっ。王さまが考えたようなことではなくて、戦場や事故で亡くなったヒトの記憶情報を抽出しているのです。犯罪者や死刑囚などの例外はありますがそれはそれ、これはこれ、なのです」


 実際は戦時中などに情報収集と戦争の状況操作のために各勢力の人員を拘束して強制的に人格移植型アンドロイドと入れ替える方法も取っている。

 そもそも人格移植型とは工作員製作に分類される手法だ。これは活動地域で現地に馴染んだ習慣や趣向というものがあるからだ。これなら倫理や道徳的善悪は別として不自然にならない。

 なぜこのような手間のかかる方法を取るのか。それには理由がある。裏で活動するネルケ達工作員の事は勿論、最重要秘匿事項としてアスガルドの存在などがあるからだ。もう幾つか挙げるなら安易に現地人を雇うわけにもいかないし確実性に欠ける。はっきり言うなら信用ならない。

 そんな事はおくびにも出さずにリーリエは笑って誤魔化した。見るからに安堵したアオイを前に内心ホッと息を吐く。


「それよりも見て回るのです。ほらっ、王さま!」

「お、おう? そんな慌てなくてもお店は逃げないって!」

「え? 逃げるのですよ」

「逃げるのか!」

「冗談なのです」

「っ、っ……」


 ひくつく頬をそのままにアオイは一人先を行く。後ろからリーリエが『わ~ん! ごめんなさいなのですよ~!』という声が追いかけてくる。

 それからはビルスキルニルを見て回った。個人経営の露店を冷やかしたり、出店で食べ物や飲み物を買って食べ歩きしたりと楽しげにはしゃぐアオイとそれを見て本人以上に楽しそうに頬を緩ませるリーリエ。

 リーリエに隠れてお土産を幾つか見繕ったり、値切り交渉をしていい買い物したりと楽しい時間を過ごした。そうしてしばしの時間を楽しんだ二名は今、ヴァラスキャルヴ城への帰り道を歩いていた。


「やー、遊んだ遊んだ。こんなに遊んだのはすごい久しぶりな気がするね。眠ってたから自覚はないけど二万年ぶりだからかね?」

「んふふ。楽しんでもらえたならボクも案内した甲斐があったというものなのです」

「ありがと、リーリエ。」

「どーいたしまして、なのです」

「はあ、住民の皆が個人的に露店を開いてるのなんかバザーみたいで見て回るだけでも楽しかったな。屋台ものも美味しかったし、あー、でもあのミックスジュースはない。なんでピーマンとゴーヤを生で入れるのか意味が分からない」


 冗談で注文してリーリエと飲んだのだがあまりの苦味の強さに一口で吐き出した。あのえぐい苦味は最早罰ゲームの域だ。


「たぶん栄養があるから、なのです?」


 小首を傾げて答えるリーリエだが彼女自身もあの味を思い出しているらしく顔色が悪い。


「だとしても、苦味が丸々残ってたらダメだろ。あれじゃただの青汁と何も変わらないじゃないか。いや、寧ろ青汁のほうがまだ飲みやすいかもしれない。素材の八割がピーマンとゴーヤって……」

「うぇぇ。話してたら思い出したのですよ……」

「そうだな。この話やめようか……」


 実に不毛だった。精神的な被害が出ているだけに質が悪い。


「話を変えよう。ちょっと気になったんだけどさ。人間族だけじゃなくて獣人族やエルフ族のアンドロイドも居たじゃない?」

「はいなのです。それがどうしたのです?」

「エルフ族の魔法ってどうなってるのさ? 保有魔力が多い種族だけど、アンドロイドじゃ魔力を精製も操作もできないし魔法は使えないじゃない」


 いくらナノマシン工学により細胞単位で元の肉体を再現したとしても、それは純粋に機械で構成されている。大気中のマナを収集して魔力へ精製する魔力炉なるものも存在するが、意思の具現化たる魔法術式を構成できないのでは属性魔法が使えず意味がない。

 それなのに問われたリーリエの答えはあっさりしたものだった。


「当然、誤魔化してるのです」

「はい? どういうことさ?」

「うーん。生まれつき魔法が使えないとか先天的に魔法との親和性が低いとか、理由は色々なのですが全部“魔法が使えない”で一貫して通しているのですよ」


 病気のようなものなのです、と世間では受け取られているとリーリエが嘯いた。実際にそのような症例も先天的後天的にしろ稀にではあるが存在するので誤魔化す理由として最適だったようだ。


「なるほど。元から使えない事にしちゃえば探られる理由はなくなるか。上手いな」

「んふふ。物事に真実味を出すなら嘘の中に僅かな真実を紛れさせるといいのですよ」

「なるほどねー。……で? それは誰の受け売りなのかな。たぶんネルケかペルレあたりだと思うんだけど」

「うっ。その通りなのです。よくわかったのですね王さま」

「まあね。ネルケは諜報型でもあるしペルレは……ねえ?」


 敢えて明言は避ける。これも処世術の一つだ。リーリエが呆れたようなジト目を向けていた。


「王さま。ここははっきりと腹黒いと断言するところなのですよ?」

「うわぉ。リーリエがそう言っていたと伝えてやろうっと」

「ちょっ!? それは洒落にならないのです! もうあんな恥ずかしい着せ替えは嫌なのですよ!」

「なにそれすごく見たいです」

「えっ!? そ、それは、うー……や、やっぱりダメなのですーっ! いーやー!」


 顔を真っ赤にして嫌がるリーリエを前に、ますます見てみたいと思ってしまうアオイだった。


 


▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼▽


 


「ごめんなさい」


 早速だが散策から帰ってきたアオイとリーリエはエーデルの前で正座していた。

 自室に戻るとエーデルが待ち構えていて一言。


『今日はお楽しみでしたね。私は居ませんでしたが』


 いつも通りに淡々と出迎えなのにアオイには不機嫌そうに見えたし、リーリエには嫉妬の炎、否、業火が見えた。

 両者それぞれに思うところはあったがそれでもアオイとリーリエは阿吽の呼吸で即座に正座して頭を下げていた。

 そして今の状況がある。


「……別に謝罪しなくとも結構です」


 表情にも態度にも変化はなくただただ淡々と答えるも、その目には不満の色がある……ようにアオイには感じられた。どうしてなのか理由はわからないが。


「拗ねてんじゃん! そうは言うけど拗ねてんじゃん!」

「拗ねてません。ただ、散策へ出かけられるなら私にも一言あって然るべきと愚行したまでです。所詮ただの従者である私は誘うに値しないという事でしょうが……」

「そこまで思ってないよ!? てか、やっぱり拗ねてるよね? 拗ねてますよね? 拗ねてるよ!」


 表情に一切の変化はないのにズーンと影を背負うエーデルを前についつい声を荒げてしまう。隣で一緒に正座しているリーリエは申し訳なさそうに縮こまっていた。

 しばし犬も食べないなんとやらなやり取りが続いていたが、ふとアオイが思い出したように懐を探った。


「これ」

「これは、なんでしょう?」


 アオイの差し出された掌の上には小さな包みがあった。エーデルは受け取るも疑問顔だ。


「お土産。皆の分もあるから後で渡すけどエーデルには先に渡しておくね」

「……開けてもよろしいでしょうか?」

「どうぞ。気に入ってもらえるかわからないけど」


 お土産だと言われて驚いたように目を見開いたエーデルは、それはもう大事なものを手にした少女のように丁寧な手付きで包装を解いていく。

 包みの中には一対のイヤリングが入っていた。シルバーのシンプルなものだが細かな細工が逸品の品だった。


「…………」

「エーデルお姉ちゃん。嬉しいなら嬉しそうにすればいいのですよ」

「黙りなさい」

「あっ! もしかしてボクが居るから恥ずかしくて、ぴィ!?」

「リーリエ……。雉も鳴かずば撃たれまい、という言葉を知っていますか?」

「あうあうあうあうあう……!!」

「お仕置きです」

「い、いーやー! なのですー!」


 ドタバタ。正座の姿勢から即座に離脱するリーリエとそれを追うエーデル。置いて行かれたアオイはパチクリと目を瞬かせるとしばし呆然としていた。


「まあ、いっか。誰かー」

「お傍に居りますわ、陛下」


 ひと声上げればペルレ(メイドさん)が即参上。なんて素敵な環境だとアオイは何とはなしに思った。


「忙しいのにごめんね。お茶淹れてくれる? 喉乾いちゃった」

「まあ、それではご一緒にお茶菓子もいかがでございますか? 今日のスコーンはよくできましたので是非ともご賞味いただけたなら幸いでございますわ」

「ふふん、いいね。是非お願いしようかな。あ、それと丁度いいから他のレギオンの娘にも声掛けてみてくれる? お土産も渡したいし、迷惑じゃなきゃそのまま一緒にお茶にしようよ」

「うふふ。はい、喜んでご一緒させていただきます。少々お待ちくださいな」


 アオイが目覚めてから暫く、今日も平穏(?)な日であった。








申し訳ないです。遅くなりました。

しかもアオイがまだ旅立ってないとか、ねぇ。

でもここで急くとぶつ切りになって意味不明な瞬間移動になってしまうのですよね。

いきなり船ができたり、物が出て来たり、いつの間にか新キャラがあたかも最初からいたようになったりとか。まあそうならないように今話はアオイ達の日常と調整回なのでした。

そして次回は……ってそういうのは別にいいですね。はい。

それでは次回もお楽しみに!ではでは。


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