第18話
その日はいつも通りの日常だった。
いつも通りの朝。まどろみに身を任せていると身体を揺すられる。目を開けるとエーデルの顔が……とても近い。耳元で囁かれる声で気付いていたがそれでもこれほど近いとドキッとさせられる。
「おはようございます、マスター」
「お、おはよ……」
優しく起こされた、とは思うがいつもこれだから大変だ。アオイも男の子なのだから朝は色々と……これ以上は言わなくてもわかるな?
ともかく、いつも通りの起床風景だった。
「んっんーっ。はあ……」
身を起こして伸びを一つすると、そこは窓もない部屋は本物と寸分違わない擬似木材で作られた内装、室内には大きなベッドと机、テーブルと椅子が二つあるのが見えた。
室内はエーデルが丹念に掃除して隅々まで行き届いているためにゴミどころか埃一つ落ちていない。壁際にはそれなりに大きいクローゼットがあり中の服は彼の従者が季節に合わせて入れ替えをしている。アオイ本人は碌に触ることがないほど管理されている。
「……あの、エーデル?いっつも言ってるけど、見られてると気になるんだけど」
「どうか私の事はお気になさらないで、そのままお続けください」
「あー、そう。……もういいや」
不思議なほど凝視してくるエーデルを出来るだけ気にしないように、彼女が用意した服に着替えた。身嗜みを――エーデルが――整えて食堂へ向かう。
「そんじゃ行きますかね」
「……はい、マスター」
この時にエーデルが僅かに言いよどんだが、背を向けていたアオイが知る由もなかった。
その背中を見詰めるエーデルの瞳が揺れる。僅かな悲哀を乗せて。
小さな違和感、それ以外は本当にいつも通りの日常だった。
二十二歳になってから数ヶ月経ったその日、少なくともアオイだけはそうなると信じて疑わなかった。
――それが始まるまでは。
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「何だ、これ!?」
その日の昼過ぎに、それは起きた。
昼食を終えたアオイとエーデルが工房に向かっていると突如として真白な廊下や壁、施設全体が赤い世警戒色に染まり耳障りな警報が鳴り響いた。
「第一種迎撃態勢が発令されました。各員は所定の位置につき行動せよ。繰り返す――」
突然の事に強い緊張がアオイを襲う。聞こえてくる放送の声はひどく冷静で、それが逆に言いようのない不安に駆られた。
それに対して施設内で活動する数百数千の機械人形達は所定の位置を目指して廊下を走り、または各所に設置された緊急転送装置で緊急転送していく。
混乱するアオイに対してエーデルは至極自然だった。
「マスター。第一種迎撃態勢が発令されました。急ぎ避難しますのでご同行願います」
「なんか物騒な!?何でそんなに落ち着いてるのさ!よくわかんないけど、その、こう大変なんだろ!?それに父さんと母さんはどこさ!?」
「ご安心を。お二方は既に動かれております。こうなる事は事前に想定していましたので問題などありません」
「事前に、想定?こうなるとわかっていた?でも、俺は知らなかった……っ、隠していた?なぜそんなことを」
エーデルは宥めようとするがアオイは更にわからなくなった。
この状況を想定していたと言われて、それに今の言い様では自分だけが知らないようではないかとアオイは変な不安に駆られた。
動悸が激しく呼吸も荒くなる。
「マスター。戸惑われるのはわかります。私はマスターの安全を第一とするように厳命されております。ですから今はどうかご同行を」
「俺だけ逃げろって言うのか!隠されていた事は気に入らないけど、そんな事できないだろ!?それよりも父さんと母さんのところへ行かないと!」
頭がカッとした。現状を把握したわけではないが父と母を置いて自分だけ逃げろと言われて怒りが込み上げてきた。
ああ、そうだ。戦いでは役立たずだろうとも。だが、それでも家族を見捨てて逃げるほど落ちぶれてはいないつもりだ。
「マスター。重ねて願います。どうかご同行ください」
「あぁでもどこに?そうだ、端末に……表示されない?システムに使用者制限?どういう――っ?なに、ぐあっ!」
チクリと首筋へ何かが触れる感触と同時に高威力の電撃が放たれた。アオイの身体が操り糸の切れた人形のように倒れる。
不意打ちされたことや電撃そのものの威力がアオイの意識を侵食した。霞む視界の先にはエーデルが居て。
残念です、マスター。
そんな言葉が直ぐ傍から聞こえた。最後に意思の欠片を寄せ集めて、必死に意識を繋ぎとめる。
「あ、え?エー、デル。なん、で……」
「……申し訳ありません、マスター。お叱りは後で幾らでも受けします。ですから、どうか、どうか今だけはお許しください」
「ぇ……」
エーデル……。
声にならない唇だけの動き。困惑と驚き、悲しみと信じられない気持ち。それらを察すると、なんとも言えない気持ちにさせられた。
床に倒れたアオイを抱き上げて胸元へ優しく抱きかかえるとやや早足で廊下を進む。
胸に抱くアオイの体温を感じながら思う。誰よりも敬愛するアオイの意思に逆らい、彼の安全のために他を切り捨てた。その罪悪感はエーデルをしても酷く重かった。
「……マグノリエ。状況はどうですか?」
歩きながら通信回線を開き呼びかけたのはマグノリエだ。彼女達レギオンシスターズの五体は今日こうなる事を知った上で避難行動していた。
「我が君の私室と工房、他倉庫などの物品は全て梱包してアスガルドへ送りましたわ。我が君の召喚獣も同様ですわ。後はわたくし達が転送するだけ、ですわね」
空間ウインドウに映し出された画面の向こうに居るマグノリエがそわそわしている。まるで子供が親に問いたいけど怖くて聞けないというような戸惑いに見えた。
「どうしました?なにか聞きたそうですが、気になる事でも?」
「その、我が君は?それにお姉様大丈夫ですの?」
怖いくらいに無表情ですわよ、とマグノリエは困惑していた。続けて、まるで感情を押し殺しているようですわ、とも言った。
指摘されたエーデルは今の自分はいつも通りなのになぜと思わずにはいられない。いつも通りに己が役割を果たすために行動する。そのはずだ。
「私は……問題ありません。マスターは不本意ですが強制的に眠ってもらいました。私達はこのまま転送室へ向かいアスガルドへ長距離転送します。後は予定通りに原初の箱舟へお運びします」
「そう、ですの……」
エーデルは自身に言い聞かせるようにした後に、事前に決めていた次の段階へ移る事を伝えた。
それに対してマグノリエは戸惑いと安堵が半々の溜息を一つ吐くと気持ちを切り替えた。
「では転送室でお待ちしていますわ。それとも人手はいりまして?」
「必要ありません。貴女達は先行して転送準備をしていなさい」
「わかりましたわ。お姉様、お気をつけて」
「ええ。貴女も」
避難の時間は迫っている。自分達七名以外は今しばらくこの地でやる事があるのだ。故にエーデル達は避難を急がなければならない。それこそが第一に考えなければならないことだ。
イングバルドとクロード、そして多くの機械人形達が最期の時を目指して動き出す。
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時は三ヶ月ほど前に遡る。
「遅くなりました。全員居るようですね」
「ん、申し訳ない」
深夜、アスガルドの本部施設内にある一室にて五体のレギオンシスターズと遅れてやってきたエーデルとネルケ、計七体の機械人形達が一堂に会していた。
七体のメイド。忍者服を着ていたネルケは任務以外のために、エーデル達と同様にメイド服を着ている。
長机の最も奥にある上座を除いてそれぞれが席に着いたのを確認したマグノリエが口を開く。ここに今後を決める大事な会議が始まった。
「さて、お姉様とネルケも来られましたし、これで皆集まりましたわね。早速会議を始めましょう」
「用件は察しがついています。策は万全なのですから早速対応を決めましょう」
マグノリエの宣言からエーデルが最初に発言した。
エーデルの発言についてだが常時接続ネットワークを通じて流れてきた情報だ。
今から六時間ほど前、帝国軍が連合軍の防衛線を突破しこれを撃破した。
強固な防衛線を構築していた連合軍は帝国と度重なる攻防を繰り広げていたが、数ヶ月に渡る波状攻撃に遭い、連合軍は著しく戦力を消耗した。そして最後の第十三次交戦時に帝国軍は今までにない物量を投入する。両者の激しい攻防を繰り広げるが消耗した連合軍は一部戦線を突破される事になり、これを切っ掛けに戦線は瓦解、帝国軍は連合軍に勝利した。
この事実を前提にエーデル達は今後の方針を決めるために話し合う。
「はい、お姉様。では、最初にペルレから」
「ふふ。ではまずは私から。ご存知の通り長く帝国と連合の両国を裏から操作してきましたが連合軍が敗れた今もはや限界。こうなる事を想定して準備はしてきましたが帝国は半年以内にここへ進攻して来ますわ」
あらあら困りましたわと、まるで困っている様子を見せないペルレ。マグノリエと紅茶を交えて笑っている。
そこへ一考していたエーデルが割り込む。
「半年以内ですか。こちらの状況は?」
「既にイングバルド様とクロード様を始めアーフ達機械人形も動いています。大崩壊計画を直前に控えた今わたくし達は独自に動くようにとの事ですわ。警備についてはイリスから」
「うむ。とは言っても警備状況にこれといった変化はない。帝国兵の侵入者は増えているが、装備も充実している。それも脅威ではないしな。うむ、やる事は変わらないよ」
闊達に笑うとイリスが笑った。しかし、その目は真剣そのものでギラリと光るものがある。絶対に任務を全うしようとする強い意志を感じさせた。
「頼もしいですわね。それでは次は……」
「はいは~い。アスガルドについてはアタシからッスね。原初の箱舟と第一から第三の浮遊装置とその制御施設は優先的に完成させたッスし、施設群は全体の半分程度ッスが計画進行に問題はないッスね」
もう追加追加で大変ッスが残りも順次作る予定ッス。ニカリと笑って言うアイゼンは自信ありと顔に書いてあるかのようだ。チラチラととある方向を見ていたが。
「ふん……」
「おほほ……」
聞いていた面々の中でエーデルとマグノリエがさり気なく視線を伏せたり逸らしたりした。片方はそれくらい当然だというように澄まし、片方はやりすぎたかと反省している。
本当なら八割方は完成していたはずなのに後から後からというようにこれ作れあれ作れと追加してしまったから遅れた。地上部と他に発着場や造船所を作るようにしたのはその最たるものだ。試作艦の作成も関係しているかもしれない。
「そ、それでは最後にリーリエ、お願いね」
「ほえ?」
いきなりの事でリーリエが戸惑った声を上げてしまった。レギオンシスターズの中で最も数を揃えるリーリエだからこそ幅広く手を伸ばしていたので、今の気持ちを表すなら『ボクは皆のお手伝いなのは知ってるはずなのに何で?』といったものか。
「……逃げたッスね」
「に、ににに逃げてなどおりませんわっ。失礼なこと仰らないで下さるかしらっ」
「ドモッてるッス。声が裏返ってるッス。最後に態度が不自然だったッス」
「はぅあっ!?」
勝負あり。勝者アイゼン。
どうもマグノリエは身内相手だと脇が甘い。簡単に墓穴を掘ってくれるからからかいやすいのもあるのかもしれない。
因みにエーデルに触れないのは単純に怖いからだ。誰だって藪を突いて阿修羅や悪鬼羅刹を出したくはない。
「――アイゼン、マグノリエ」
「はいッス!」
「ひゃいっ!お姉様なんですの!?」
「この茶番劇をいつまで続けるつもりですか?それとも……終わらせましょうか?」
「え゛っ!?」
「あわ、あわわっ」
「……終わらせましょうか?」
この三体の間に沈黙が降りた。蛇に睨まれた蛙が二匹。極度の緊張からゴクリと喉を鳴らした。
「おほ、おほほほほ。お、お姉様のお手を煩わせるまでもありませんわ。ねえアイゼン?」
「そ、そっそそううッス!エーデル姉ぇにそこまでさせるなんて!なは、なははは」
引き攣った声になり表情も硬い。そして終わらせると言われて『何を?』とは聞き返さない。絶対に碌な手段で終わらないから。
主に機能停止とかエネルギーを込めて物理的に殴るとか千切っちゃいけないところを捻じ切るとか……まあ色々だ。
「んんっ。ともかく、現状は把握できましたわね。ね?ねっ!?」
「うわぁぁ、マグノリエが必死すぎて笑えないッス……」
「うるさいですわっ!……こほん。わたくし達の最終目標である原初の箱舟計画に問題はありません。物資も必要量を確保してありますのでアスガルドも今直ぐにでも稼働できますわ」
来るなら来いですわー!色々と振り切るように拳を振り上げた。エーデルは変わらず冷めた目をしているが、他の姉妹は『おおっ!』と騒いでいて見る目が妙に生温かい。
レギオンシスターズ。エーデルの妹達は意思が幼いゆえかどうにもお喋りが過ぎる嫌いがある。このままではいつものように温いお喋り場になりかねないと判断したエーデルが渋々と動き出した。
「全て問題はない。そういう事でよろしいすね?」
「はいっ!」
一糸乱れずに五体が一斉に返事をした。個として差異はあっても姉妹だからこそ出来る芸当だ。もっと言えばエーデルの恐怖政治的な教育の賜物だ。
「ならばよろしい。ネルケ。貴女からは何かありませんか?」
「ん。特にない。ワタシは殿様を影からお守りするだけ」
「そう。マスターのお役に立てるように励みなさい。……ただし、マスターの寝所に忍び込むのは許しません。絶対」
「…………ん。任せると、いい……」
悩んで悩んで、悩み抜いての返答だ。まるで苦渋の決断とでもいうような間だった。了承の言葉も血を吐くような口調だ。それでもネルケにとっては一生を左右しかねないほどに重い決断だったのだ。
その苦渋する姿を見て『ああ、ダメだ。コイツまた絶対やるな(by意訳)』と内心で察していたのは一人だけではない。
エーデルが無表情ながら渋い雰囲気を醸し出す。何度となくアオイの寝所に忍び込もうとした前科があるだけに事これに関してだけネルケは信用がなかった。阻止に回っていたイリスを筆頭にマグノリエとリーリエの三体は特に信用していない。
ただし、その潜入術や隠匿術に絶大な信頼を寄せているのも彼女達だ。
なんとも微妙な空気の中で司会役のマグノリエが立ち上がると笑顔を振り撒き会議の締めに入った。
「さてと、準備諸々はほぼ完了していますし帝国も迫った今これで計画も最後の詰めに入りますわ。後は襲撃された日に速やかに我が君をアスガルドへ招くのみ。これはお姉様がご案内してくださいますわ」
外部の準備はほぼ終わっている。後は作戦当日の成功率を少しでも上げるように努めるだけだ。
究極的なものだが作戦の成否はアオイの身柄を如何に素早く確保しアスガルドの原初の箱舟に収容するかだ。
この役目はアオイの傍に居ることの多いエーデルが担当する。自由意志を有する彼女なら最悪でもアオイの絶対命令にも逆らう事ができる。アオイが目覚めた時に今回の事で詳細な説明をするが処罰は免れないだろう。だが、それくらい覚悟の上だ。
「出来る限り穏便に進めるつもりではあります。ですが当日はマスターが抵抗すると思われますので、多少強引に連れ出すことになりましょう。各員は襲撃前日までに暫しのお別れを済ませておくようになさい」
眠りについたが最後、次にアオイが目覚めるのは幾万年の後の世界だろうから。
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そして現在。エーデルは気絶したアオイを横抱きしたまま転送室に到着、そこでレギオンシスターズとネルケに合流した。
「お姉様、お待ちしておりましたわ」
「準備はできていますね?」
「ええ、万事抜かりなく。後は起動するだけですわ」
言葉通り、転送座標は入力済みでありアオイの関係者は全員がここに居た。
後は目的地に跳ぶのみとなっていた。
「ご苦労様です。それではすぐにでも転送しましょう。もう間もなくこの地は消滅します」
「はい、お姉様。さあ皆さん、時間がありませんわ。行動開始しますわよ。ペルレは転送装置を起動してくださいまし」
「承りましたわ。転送装置の起動準備を確認。転送開始まで六十秒に設定しましたわ」
「わかっているとは思いますけれど転送後に座標は削除するようになさいね」
「うふふふ。ええ、お任せくださいな。それでは起動しますわ」
端末をひと撫ですると秒読みが開始される。ペルレは起動した事を人目確認すると皆の居る台座へ歩いた。
残り五十秒を切っていた。
「ペルレっ。のんびり歩いてないで急ぐのです。置いて行っちゃうのですよっ」
「あらあら。そんなに慌てなくとも大丈夫ですわ。うふふ。でも、ありがとうございます」
ゆっくり歩いてくるペルレにリーリエが焦れてしょうがないというようにそわそわして言ったのに、ペルレは大丈夫と言って微笑んでいた。
残り二十秒を切っていた。
「ははっ。リーリエは心配性だからな。仕方あるまいよ」
「むぅぅ、そんなんじゃないのですっ。ふんっ」
「あらあら」
「はっはっはっ」
そうしてペルレが台座に辿り着いた。未だ幼い姿のリーリエを間に十代半ばの姿をしたイリスとペルレが笑っている。拗ねる彼女を二体が左右から頭を撫でてご機嫌を取った。
残り十秒を切っていた。
「イリス、リーリエ。そこまでになさい。転送が始まりますわよ。リーリエもからかわれて憤るのもわかりますけど落ち着きなさいな」
「ははは。すまない。楽しくて、ついな」
「ふふふ。ごめんなさいね、リーリエ。慌てる貴女が可愛らしくて、ついね」
「謝ってるようで笑ってるのです!?」
賑やかのようでどこか空虚な笑い声。だからこそ今までと違う空気だと嫌でも理解させられた。平穏の終わりと罪悪感に耐える日々の始まりを。
「ん。みんなバカだね」
そんな空元気を振り撒く彼女達を見ていたネルケがぽつりを呟いた。嘲りではなく哀れみ。姉妹の思いを察した強がりにも似た言葉だ。
「…………」
その呟きを横で聞いていたエーデルは、胸に抱くアオイを見て自分だけの覚悟を改めて決めた。
転送開始まで残り五秒を切っている。
「イングバルド様。クロード様。短い間でしたがお世話になりました。マスターの事は私どもにお任せくださいませ。必ずや守り通してご覧に入れます。ですから、どうかご安心を……」
勿論ここにあの二人は居ない。事前にこうなる前に別れの挨拶は済ませてある。その時にアオイへ向けた伝言も受け取っている。
それでもここに居ない二人へ言葉を紡いだのは最後の手向けだったのかもしれない。それを察している皆は沈黙を守っている。一体一体が言葉を既に交わしていたから。
この先アオイが二人と再び出会う可能性は限りなく低い。それもそのはず、この後あの二人がどうするかはエーデルですら聞いていない。このまま朽ち果てるまで戦うのか。二人だけで逃げ続けるのか。それでも、それとも……。
長距離転送装置が起動して強烈な青白い光が八名を包む。
「最後に、無駄ですがご武運を白と精霊に祈りましょう。……さようなら」
エーデルの呟きを残して光が晴れるとそこには誰一人として姿はない。彼女達はアスガルドへ跳んだのだった。
もう少し、あと少しで第一章が終わります。
終わる……はずだよ?いや違うんですよっ。
え~と、ほらっ、予定は未定って素敵な合言葉があるじゃないですか。それですよ。
ではでは。
因みにアオイが電気ショックでやられていましたが防御機能は作動しません。なぜなら自分の家の中で防弾チョッキを着る馬鹿は居ないからです。
そして電気ショックもただの電撃ではありません。ナノマシンの活動を一時的に抑える対ナノマシンとも言えるナノマシンを直前に打ち込んでいます。
ふふふふ。これでアオイきゅんは年単位で無防備な姿に……ぐへへっ。




