第一話
本日3回投稿。
明日以降は1回、毎日19時投稿。
全九話の短い作品です。
カクヨムに掲載済みの作品を、なろうにも投稿します。
「……で、どう? 僕の代わりに、行ってくれる?」
「……ええ、もちろん。先輩の頼みなら、断れないですよ」
「あ、おかわり要る? 要るよね? ……すみませーん! 大ビール二つ! はい、お願いしまーす!」
「かしこまりましたー!」と、元気な店員の声が返ってくる。
「先輩、今日はいつもより飲んでますね」
「二日後には出発するんだよ。三ヶ月間、みっちりとお仕事だからねぇ。今日は楽しまないと。……それに、キミと飲むのも久しぶりだ。すっかり孤高の存在になっちゃってさぁ……おじさんは嬉しいような、悲しいような……。こりゃ、飲まなきゃでしょ?」
先輩はニヤリと笑う。
「いや、孤高って……勘弁してくださいよ。……で、今度はどちらの方に?」
「南の方だねぇ。確か、内乱だったかなぁ。国王がクーデターで斃れて、お偉方がブチ切れてんだよ。今は政府軍対、反政府軍でバチバチさ。情報収集してみたけど、どっちもボロボロだねぇ」
「どっちが勝っても、国としてはもう終わってますね」
「それは僕の知ったことではないね。依頼を受けたら戦うのが傭兵だよ」
金を貰って戦うだけ。誰の味方でもない。先輩はずっとそうだ。俺も昔はそうだった。……いつからこんなに、動きづらくなったのだろう。
「キミは最近どうなのさ? ……なんて、聞くまでもないよね。ずいぶんと調子が良いみたいじゃん? ……この国じゃ、キミを知らない人は、いないんじゃないかな?」
「言い過ぎですよ」
「この国がここまで強国になったのは、間違いなくキミの力があったからだよ。……で? 噂じゃ、とってもご立派な地位が貰えるとか何とか……。……そこんとこ、どうなのさ?」
「……まあ、ありがたいことに、そういうお話も頂いてますけど」
「大ビール二つ! お待たせしましたぁ!」
「あー、ありがとうございます。……ほら、カンパーイ!」
「……」
俺と先輩は何度目かの乾杯をして、ビールを一息に飲み干した。
「良いじゃん良いじゃん! 傭兵なんてアホな仕事、さっさとやめときなよー」
「先輩がソレ言うんですか?」
「言うよー。僕、傭兵には詳しいからねぇ。断言するよー。傭兵なんてさぁ、やめられるなら、やめときなって!」
ドンと音を立てて、先輩が空になったビールのグラスを、テーブルに置く。
「……そんなことを言っておきながら、先輩……今日、俺に傭兵の仕事を持ってきてるじゃないですか……」
「んえ? そうだっけ……?」
「そうですよ。……まさか、忘れたんですか? ほんの数分前の話ですよ?」
「えっとー……待ってねぇ……あー! そうそう、ゴブリン駆除ゴブリン駆除」
「……先輩、その言い方は……」
「……おっと! そっか。ダメなんだっけ。いやー、ごめんごめん。つい……ね。今までの癖でね。……まだ慣れなくて、そう言う意図があったワケじゃないんだ」
「分かってますよ」
「あー、うん、うん。……えっとー……じゃあ、ゴブリン軍の制圧? ……って言えばいいのかな?」
「……まあ、俺は別に気にしませんけど。公共の場ではそう言った方が良いと思います。……誰が聞いているかも分かりませんし」
俺は周囲を伺うが、俺たちに敵対的な視線を向けている客は居ない。
「そりゃもちろんね? 僕が、行きたかったんだけどね? ……でも、南の国の内戦の方が、ずっと前から受けてた依頼なんだよぉ。……流石に、『別の依頼に行きたくなったから、キャンセルで!』……とは言えないでしょ? そんなワガママな理由でキャンセルなんてさぁ……そんなんじゃ、僕の信用、ガタ落ちしちゃうよ!」
「先輩の業界知名度なら、少し落とすくらいで丁度いいでしょう」
「そうかもだけどさぁ……わざわざ、自分から評判を下げるようなことはしたくないじゃん? 僕にも、傭兵のプライドってもんがあるし」
えっへんとでも言いたげに、ドヤ顔をした先輩は、ビールを飲もうとグラスに手を伸ばした。しかし、グラスが空であることに気づき、行き場を失くした右手は照れ隠しをするように、トンと音を立てて、無造作にテーブルの上に投げ出された。
「だからせめて、僕の可愛い後輩であるキミに行ってもらおうと思ってさぁ。羨ましいよ。先着の依頼さえなければなぁ……ああ、この依頼やりたかった……」
「あの……この依頼、そんなに魅力的ですか?」
依頼の内容は要するに、ゴブリンと戦えという話だ。何も珍しい要素は無い。正直俺には、ありふれた依頼としか思えない。
「そりゃ、魅力的でしょー! だって……」
先輩は不自然に言葉を切り、据わった目で何かを考え始める。
そして、ちょいちょいと、俺に顔を寄せるよう、手招きで示す。
「……もしかして、この話はまだしてない?」
「……どの話ですか」
「その……『魔銃』の話」
「聞いてないですね」
「……そっか。ごめんね。酔うと、どうしてもね……。自分が何を話したか、忘れちゃうよね」
先輩は申し訳なさそうに、たははと笑った。
「……それで、魔銃がどうしたんですか?」
「ああ、えっとね、どうやらこの依頼、武器として魔銃が支給されるらしいんだよね。知ってる? 魔銃」
「噂で聞いたことはありますよ。ようやく実用化されるんですか?」
「いや、それが分からないんだけどね。……でも、僕が思うにたぶん、実用化レベルなのか確かめるために、ゴブリン駆じ……制圧をしようって話なんじゃないかなぁ」
「……なるほど」
「どう、面白そうでしょ?」
魔力を持たない人間でも、引き金を引くだけで魔法が使える兵器。それが魔銃。
大幅な戦力増強が期待できる兵器として、軍部と民間企業が手を組んで、開発が進んでいるという話は聞いていた。
魔銃が戦闘でどの程度使えるのか。戦いに身を置く傭兵として、確かに興味のある話だ。
「依頼が終わったら、どんな感じだったか教えてよ。……てか、教えて欲しいからキミに、この話を持ってきたんだよ」
「先輩、友達いないですからね」
「そうなんだよぉ。なぜか途中でみんな死んじゃうか、離れて行っちゃうんだよぉ」
先輩はニコニコしながら、バカみたいな依頼のスケジュールを立てる。そりゃ、先輩の後ろをついて行ったら、一般的な傭兵は間違いなく耐え切れないだろう。
俺はこうして、先輩とたまに食事をするが、先輩が約束の日に来ないことが度々ある。ようやく無茶して死んだかと思っても、本当に死んでいたことは一度もない。そういう時は大抵「予想よりも早く終わったから、今、現地で依頼受けててさぁ……」という文言から始まる手紙と、奇妙な味の、お菓子のお土産が届く。
「というわけで、よろしくね。僕、結構本気で気になってるんだよ。魔銃がどんなもんなのかさ」
「魔銃の感想ですね……まあ、死ななきゃもちろん、お話しますよ」
「そうだねぇ。……お互いにね」
俺と先輩の間に、少しの沈黙が落ちる。
「さて、そろそろ行こっか。今日はありがとね」
「いえ、こちらこそ」
先輩が立ち上がったので、俺も立ち上がる。
俺は天井に、頭をぶつけた。
「……さてはキミも、結構酔ってるな?」
先輩がニヤニヤしながら言う。
天井の修理代と、酒代を置いて、俺と先輩は店を出た。




