表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵トネリコ  作者: つい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

第一話 

本日3回投稿。

明日以降は1回、毎日19時投稿。

全九話の短い作品です。

カクヨムに掲載済みの作品を、なろうにも投稿します。

「……で、どう? 僕の代わりに、行ってくれる?」

「……ええ、もちろん。先輩の頼みなら、断れないですよ」

「あ、おかわり要る? 要るよね? ……すみませーん! 大ビール二つ! はい、お願いしまーす!」


「かしこまりましたー!」と、元気な店員の声が返ってくる。


「先輩、今日はいつもより飲んでますね」

「二日後には出発するんだよ。三ヶ月間、みっちりとお仕事だからねぇ。今日は楽しまないと。……それに、キミと飲むのも久しぶりだ。すっかり孤高の存在になっちゃってさぁ……おじさんは嬉しいような、悲しいような……。こりゃ、飲まなきゃでしょ?」


 先輩はニヤリと笑う。


「いや、孤高って……勘弁してくださいよ。……で、今度はどちらの方に?」

「南の方だねぇ。確か、内乱だったかなぁ。国王がクーデターで(たお)れて、お偉方がブチ切れてんだよ。今は政府軍対、反政府軍でバチバチさ。情報収集してみたけど、どっちもボロボロだねぇ」

「どっちが勝っても、国としてはもう終わってますね」

「それは僕の知ったことではないね。依頼を受けたら戦うのが傭兵だよ」


 金を貰って戦うだけ。誰の味方でもない。先輩はずっとそうだ。俺も昔はそうだった。……いつからこんなに、動きづらくなったのだろう。


「キミは最近どうなのさ? ……なんて、聞くまでもないよね。ずいぶんと調子が良いみたいじゃん? ……この国じゃ、キミを知らない人は、いないんじゃないかな?」

「言い過ぎですよ」

「この国がここまで強国になったのは、間違いなくキミの力があったからだよ。……で? 噂じゃ、とってもご立派な地位が貰えるとか何とか……。……そこんとこ、どうなのさ?」

「……まあ、ありがたいことに、そういうお話も頂いてますけど」

「大ビール二つ! お待たせしましたぁ!」

「あー、ありがとうございます。……ほら、カンパーイ!」

「……」


 俺と先輩は何度目かの乾杯をして、ビールを一息に飲み干した。


「良いじゃん良いじゃん! 傭兵なんてアホな仕事、さっさとやめときなよー」

「先輩がソレ言うんですか?」

「言うよー。僕、傭兵には詳しいからねぇ。断言するよー。傭兵なんてさぁ、やめられるなら、やめときなって!」


 ドンと音を立てて、先輩が空になったビールのグラスを、テーブルに置く。

 

「……そんなことを言っておきながら、先輩……今日、俺に傭兵の仕事を持ってきてるじゃないですか……」

「んえ? そうだっけ……?」

「そうですよ。……まさか、忘れたんですか? ほんの数分前の話ですよ?」

「えっとー……待ってねぇ……あー! そうそう、ゴブリン駆除ゴブリン駆除」

「……先輩、その()()()は……」

「……おっと! そっか。ダメなんだっけ。いやー、ごめんごめん。つい……ね。今までの癖でね。……まだ慣れなくて、()()()()()()があったワケじゃないんだ」

「分かってますよ」

「あー、うん、うん。……えっとー……じゃあ、ゴブリン軍の制圧? ……って言えばいいのかな?」

「……まあ、俺は別に気にしませんけど。公共の場ではそう言った方が良いと思います。……誰が聞いているかも分かりませんし」


 俺は周囲を伺うが、俺たちに敵対的な視線を向けている客は居ない。


「そりゃもちろんね? 僕が、行きたかったんだけどね? ……でも、南の国の内戦の方が、ずっと前から受けてた依頼なんだよぉ。……流石に、『別の依頼に行きたくなったから、キャンセルで!』……とは言えないでしょ? そんなワガママな理由でキャンセルなんてさぁ……そんなんじゃ、僕の信用、ガタ落ちしちゃうよ!」

「先輩の業界知名度なら、少し落とすくらいで丁度いいでしょう」

「そうかもだけどさぁ……わざわざ、自分から評判を下げるようなことはしたくないじゃん? 僕にも、傭兵のプライドってもんがあるし」


 えっへんとでも言いたげに、ドヤ顔をした先輩は、ビールを飲もうとグラスに手を伸ばした。しかし、グラスが空であることに気づき、行き場を失くした右手は照れ隠しをするように、トンと音を立てて、無造作にテーブルの上に投げ出された。


「だからせめて、僕の可愛い後輩であるキミに行ってもらおうと思ってさぁ。羨ましいよ。先着の依頼さえなければなぁ……ああ、この依頼やりたかった……」

「あの……この依頼、そんなに魅力的ですか?」


 依頼の内容は要するに、ゴブリンと戦えという話だ。何も珍しい要素は無い。正直俺には、ありふれた依頼としか思えない。


「そりゃ、魅力的でしょー! だって……」


 先輩は不自然に言葉を切り、据わった目で何かを考え始める。


 そして、ちょいちょいと、俺に顔を寄せるよう、手招きで示す。


「……もしかして、この話はまだしてない?」

「……どの話ですか」

「その……『魔銃』の話」

「聞いてないですね」

「……そっか。ごめんね。酔うと、どうしてもね……。自分が何を話したか、忘れちゃうよね」


 先輩は申し訳なさそうに、たははと笑った。


「……それで、魔銃がどうしたんですか?」

「ああ、えっとね、どうやらこの依頼、武器として魔銃が支給されるらしいんだよね。知ってる? 魔銃」

「噂で聞いたことはありますよ。ようやく実用化されるんですか?」

「いや、それが分からないんだけどね。……でも、僕が思うにたぶん、実用化レベルなのか確かめるために、ゴブリン駆じ……制圧をしようって話なんじゃないかなぁ」

「……なるほど」

「どう、面白そうでしょ?」


 魔力を持たない人間でも、引き金を引くだけで魔法が使える兵器。それが魔銃。


 大幅な戦力増強が期待できる兵器として、軍部と民間企業が手を組んで、開発が進んでいるという話は聞いていた。


 魔銃が戦闘でどの程度使えるのか。戦いに身を置く傭兵として、確かに興味のある話だ。

 

「依頼が終わったら、どんな感じだったか教えてよ。……てか、教えて欲しいからキミに、この話を持ってきたんだよ」

「先輩、友達いないですからね」

「そうなんだよぉ。なぜか途中でみんな死んじゃうか、離れて行っちゃうんだよぉ」


 先輩はニコニコしながら、バカみたいな依頼のスケジュールを立てる。そりゃ、先輩の後ろをついて行ったら、一般的な傭兵は間違いなく耐え切れないだろう。


 俺はこうして、先輩とたまに食事をするが、先輩が約束の日に来ないことが度々ある。ようやく無茶して死んだかと思っても、本当に死んでいたことは一度もない。そういう時は大抵「予想よりも早く終わったから、今、現地で依頼受けててさぁ……」という文言から始まる手紙と、奇妙な味の、お菓子のお土産が届く。


「というわけで、よろしくね。僕、結構本気で気になってるんだよ。魔銃がどんなもんなのかさ」

「魔銃の感想ですね……まあ、死ななきゃもちろん、お話しますよ」

「そうだねぇ。……お互いにね」


 俺と先輩の間に、少しの沈黙が落ちる。


「さて、そろそろ行こっか。今日はありがとね」

「いえ、こちらこそ」


 先輩が立ち上がったので、俺も立ち上がる。




 俺は天井に、頭をぶつけた。




 「……さてはキミも、結構酔ってるな?」


 先輩がニヤニヤしながら言う。


 天井の修理代と、酒代を置いて、俺と先輩は店を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ