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【完結】異世界転生したら無能スキル「収納」で追放されたけど、覚醒したら最強だった件  作者: すくらった


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23.狂喜の宗教都市

灰色の曇天の下、宗教団体イービレスタの中心都市ダクタスは静かに震えていた。


雪解けの湿りを含んだ風が通りを抜け、冷えた鐘の音が遠くから響く。その音に呼応するように、人々が一斉に立ち上がった。


街の中心、「慈愛の邪神像」が立つ大広場。


黒く光るその石像は、六本の腕を天に掲げ、頬に涙の筋を刻まれている。その顔は慈母のように穏やかで、だが見る者の胸に圧迫感を残す。まるで「優しさ」そのものが、呪いのように凝縮された存在だった。


白衣をまとった信徒たちは、地面にひざまずき、一糸乱れぬ動作で祈りを捧げている。

老いも若きも、貴族も乞食も、皆がひとつの呪を唱える。


「憎しみを捨てよ。抗うことを捨てよ。魔を受け入れよ。魔に服従せよ。我らは一つ。」


無数の声が重なり、風に溶けて街全体を震わせた。まるで一つの心臓が街の中心で脈動しているかのようだ。


子どもたちは祈りの輪の中で花弁を撒き、女たちは香油を焚き、男たちは頭を垂れて涙を流していた。


そして、鐘が三度、空を打つ。

広場の高壇に立つ導師が、金糸の衣を翻して両手を掲げた。その声は低く、しかし地の底まで届くように響いた。


「来る。我らは試される。恐れるな、拒むな。天より降るのは災いにあらず、救いの御手なり!」


群衆が歓喜の声を上げた。

抱き合い、泣き、笑う。

その瞳に映るのは、絶対の信頼。


その時、空が裂けた。


最初は、ひと筋の紫の光だった。


雲を裂くように、稲妻が空を貫いた。


続いて轟音。地面が軋み、石畳にひびが走る。


逃げる者は、いなかった。

 

人々はむしろ、恍惚とした笑みを浮かべて天を仰ぐ。


導師が叫ぶ。

「見よ!我らが祈りが届いたのだ!魔は応え給う!」


空の裂け目から、闇が降りてくる。黒い翼、鉤爪、異形の影。無数の魔物が、炎の尾を引きながら舞い降りてくる。


巨大な蛇が屋根を砕き、獣の唸りが街を揺るがす。

それでも誰も逃げない。

むしろ両手を広げて、歓喜に震えていた。


「救世の御使いたちよ、ようこそ!」

「私たちは、あなたがたに従います!」

「憎しみを捨てよ!抵抗を捨てよ!」


歪んだ信仰が、恐怖を凌駕していた。その光景はまるで、悪夢の中の祝祭だった。


悪魔の炎が家々を焼き、煙が立ち上る。人々の体が焼けていく。異様な臭いがたちこめる。だが人々は焼け落ちる家の中で、なおも膝をつき、笑いながら手を合わせていた。


その狂気の只中に、四つの影が現れた。雪山から異常な光を発見し、その方向へ駆けつけてきたのだ。


ユウト、マオ、アヴリル、ミャウ。彼らは息を呑んで立ち尽くした。


「……まるで、地獄そのものだな」

ユウトが呟く。

マオの瞳が鋭く光る。

「これは『彼らが求めた』地獄だ。自らの意思で、ここまで歪められているんだ」


その視線の先、広場の階段をゆっくりと降りてくる一人の男。

銀の甲冑、紫の光脈を走らせ、空間を歪ませる存在感。


異端者アモルシフ。


彼の足元では、地面に埋め込まれた巨大な魔法陣が脈動していた。淡い紫光が街全体に広がり、建物の影までもが生きているかのように蠢く。


マオの声が低くなる。

「……アモルシフ、貴様、人々の信仰を利用してまで、何を企む」


甲冑の奥から、くぐもった声が響いた。


「利用?違う。これは自然な反応だよ、お嬢。人間は恐怖を祈りに変える。祈りは平穏に変わる。私は、それをほんの少し助けてやっただけだ。」


アヴリルが叫ぶ。

「あなたが、あの装置を使って……人の心を支配したのですね!」

「支配などしていないし、ここでは装置を使ってもいない。彼らは自ら望んだのだ。魔物と共にある平和を。抗う痛みから逃れるためにな。」


その声には嘲笑も怒りもなく、ただ冷徹な確信だけがあった。


「……やっぱり、許せねぇ」

ユウトが剣を抜く。

「人の弱さを利用して、自分の理想を押し付ける奴なんて!」


アモルシフがわずかに顎を上げた。その瞬間、周囲の信徒たちが一斉に振り向く。

その瞳は、何も映してはいなかった。


「異教徒を、滅ぼせ。」

アモルシフの声が響く。


群衆が動く。笑いながら、手にした鎌や松明を振りかざして。

そして魔物たちがその背に続いた。


「やるしかないのか……マオ、アヴリル、結界を!ミャウ、右から回り込め!」

「了解!」

「にゃっ!」

炎が走り、光が飛び交う。

ユウトの宝玉剣が閃き、魔物たちを光の裂け目へと吸い込む。

時空がねじれ、歪んだ祈りの声が空間を震わせた。

ミャウは住民たちに打撃を加え、昏倒させていく。

「ごめんにゃ、ごめんにゃ!」

ミャウの目に涙が光る。


だが、押し寄せる波は止まらない。倒した先からまた新しい影が現れる。


アヴリルが息を切らせる。

「だめ……止まらない……!彼ら、自分の命を……!」

「すでに、魂の根を握られている!」

マオが叫ぶ。

「狂ってる……狂ってる!」


その時、広場中央の邪神像が不気味に光った。像の目が開く。

紫の光が奔流となり、倒れた人々を照らす。光に包まれた者たちは恍惚の声を上げ、再び立ち上がってくる。

地面が震え、建物が崩れ始めた。


ユウトが歯を食いしばる。

「マオ、何とかできるか!」

「ダメ、魔力の波が強すぎる! この街全体が装置と化してる!」


アヴリルが震える声で呟く。

「まるで、生贄……」


その瞬間、雷鳴が世界を裂いた。


空が赤く染まり、夜の帳を焼く。


風が止み、全ての音が消えた。

そして、黒い炎が、空を覆った。


ミャウが叫ぶ。「にゃっ……空が……燃えてるにゃ!」

ユウトが顔を上げた。

闇の中、炎の渦の中心に、ひとつの影が現れる。


巨大な翼。

天をも貫く角。

その双眸は、紅く輝いていた。


マオが目を見開く。

「……パパ……!」


轟音が世界を貫いた。

地面が裂け、炎の柱が立ち上る。


そして――その中心に、黒き巨影が降り立つ。


大魔王ギギルグク。


魔界の支配者が、ついにこの地に降臨した。

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