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【完結】異世界転生したら無能スキル「収納」で追放されたけど、覚醒したら最強だった件  作者: すくらった


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22/27

22.凍土の夜を超えて

雪が止んだのは、クロウを背負って山を降りている最中だった。


風はまだ冷たいが、夜空には雲ひとつなく、星々が冴え渡っている。アヴリルの手が優しく光り、魔法の灯が彼らの足元を照らしている。


「……あそこに見える、建物の影。山小屋のようです」

「助かったにゃ……」

ミャウが肩で息をする。

ユウトは背中のクロウの様子を伺う。男の体は氷のように冷たく、息も弱々しかった。


小屋にたどり着き、扉を押し開けると、古びた木の匂いが鼻をかすめた。小屋は小さく、壁にはひび割れ、床には雪が入り込んでいる。それでも、火を焚けば過ごせる程度の避難所にはなる。


アヴリルが軽く指を鳴らすと、薪が一斉に燃え上がった。暖かな光が、部屋の隅々まで広がっていく。ユウトはクロウを寝台に横たえ、深く息を吐いた。


「……助かるかな」

アヴリルはクロウの脈に手を当て、頷く。

「命はつながっています。でも、魂が不安定。人と魔物の境で揺らいでいるような……」

「何があったんだ」

ユウトが呟く。

「おそらく『変換装置』と同じ性質の魔素を注入されたのだろう」

マオが答える。

「つまりこいつは、アモルシフの手駒を増やす実験に使われたのだ」


ユウトは拳を握りしめた。

「実験……?人間を……」

「怒らないで、お兄ちゃん」

マオが静かに言う。

「取り戻せた命は、確かに生きている。それだけで、今夜は十分」

その言葉に、ユウトは口を閉ざした。火のはぜる音だけが、部屋を包んだ。


しばらくして、ミャウが丸くなりながら、

「ねぇ……ちょっとだけ、安心したにゃ」と小さく言った。

アヴリルが優しく笑う。

「そうですね。あの吹雪の中を走り回ったんですもの。今だけは、少し休みましょう」


ユウトは焚き火の前に座り、クロウの寝顔を見つめた。その顔には、まだ微かに紫の痕が残っている。彼がどんな思いで戦い、そして墜ちたのか。その答えはもう、本人しか知らない。


「……なぁ、マオ。お前は、同胞と戦うの、怖くないのか」

マオはしばし火を見つめ、ゆっくり答えた。

「怖いよ。けど、マオの立場は『魔』と『人』のあいだに在るもの。どちらの世界にも属さない者こそ、橋にならないと」

「……橋、ね」ユウトが呟く。

「お兄ちゃんもね」

「え?」

「時を繋ぎ、命を戻した、人でも魔でもない力。それは、世界をつなぐ橋になりえるってこと」


マオの声は静かだったが、その言葉はユウトの胸に深く残った。彼は小さく息をつき、微笑んだ。

「……なら、せめて今夜くらいは、その橋の上で寝たいな」

「ユウトさん、詩人ですね」

「シジン?前ユウトさんの言ってた異世界のお魚の話にゃ?」

ミャウが話に混じる。

「それはシジミですね。しかも魚じゃなくて貝です」

「今のでよくわかったね、アヴリル」

四人は笑った。久しぶりに、温かく。


アヴリルが小さく笑ったが、すぐ真顔に戻る。

「ところでユウトさん。あの時の『時間の巻き戻し』、また使えるのですか?」

「それがさ……」

ユウトは手を握ったり開いたりしてみせる。

「なんか、手のひらの奥が空っぽになったみたいで。感覚が戻らないんだ」

アヴリルは宝玉剣を見つめて、真剣な表情で頷いた。

「おそらく魔力散逸が起きています。宝玉が外部魔素を吸収し、再調律を行っている状態です」

「さい……ちょうりつ?」

ミャウが首を傾げる。

「簡単に言えば、魔力が魔力を呼び戻して自己修復しているんです。でも、循環するには少し時間が必要で……」

「待って待ってアヴリル、よく分からない」

「……つまり、『くぅる・たいむ』だ」

マオがぼそっと呟いた。

ユウトは思わず笑い、頷いた。

「ああ、CTがあるってわけか。まぁ、便利すぎる力に制限がない方が怖いしな」

アヴリルは少しむくれた顔で言う。

「せっかく理論的に説明したのに、マオちゃんの説明のほうがよかったんですね」

「いや、どっちもわかりやすかったよ」

ユウトが慌てて取り繕い、マオはくすっと笑った。

焚き火の炎が、柔らかく揺れる。


ユウトが火をくべながら、ふと呟いた。

「しかし、寒いな……何とかならないか、炎の名前を持つ『アヴリル・フレイマード』さん」

「名前だけではどうにもなりませんよ」

アヴリルが肩をすくめる。

「ねぇ、魔界の炎で何とかなりません?えと……ドゥー……ドゥー……」

「ドゥーミトパリオペッパーオ・ギギルグクだ。一発で覚えてくれ」

「無茶言わないでください」

アヴリルが呆れ顔をする。

ユウトが苦笑して、焚き火の炎を見つめた。

「そういや、俺のフルネーム、言ったことなかったな」

マオが首を傾げる。

「確かに。お兄ちゃん、ずっと『ユウト』だね」

「フルネームは佐々木悠斗だよ」

「異世界人に普通によくある名前だ」マオが頷き、

「普通ですね」

とアヴリルが重ねる。

「な、なんだよぉ!」

ユウトが悲しそうに言うと、二人はくすくす笑った。


ふと、ユウトがミャウを見る。

「そういえばミャウ、その名前は本名なのか?」

ミャウは毛布から顔を出した。

「ミャウはミャウにゃお。売られるときにそういう名前をつけられたのにゃ。奴隷商のおじさんが決めたみゃお」

「じゃあ、お父さんやお母さんがつけた名前は……」

「ないにゃ。っていうか、お父さんのこともお母さんのことも、どこで生まれたのかもミャウなーんにも知らないにゃお」


アヴリルが目を伏せる。

「ミャウちゃん……」

マオも静かに言った。

「すまない」

「にゃ?なんで謝るにゃ?」

ミャウが首を傾げる。

そして、ぱっと笑った。

「ミャウはこの名前が好きにゃ!奴隷商のおじさんが怖い声で呼ぶときは大嫌いだったけど、ユウトさん、アヴリルちゃん、マオちゃんが呼んでくれるようになって、ミャウは自分の名前が大好きになったにゃ! だから、ミャウの名前はミャウにゃ!」


その言葉に、三人とも言葉を失った。やがて、アヴリルが柔らかく笑む。

「そうね……名前って、誰に呼ばれるかで変わるのね」

ユウトが焚き火の炎を見つめながら、静かに頷く。

「そうだな。名前って……居場所の証なんだな」


火がはぜる音が、またひとつ響いた。外では風が木々を揺らし、焚き火の炎がやわらかく揺れている。その夜、彼らは短い休息を得た。ほんのひとときだけ、戦いも痛みも忘れて。


朝。

窓の外は、一面の白。

夜の間に雪が降り積もり、世界をすっかり覆っていた。


ユウトが目を覚ますと、焚き火は消えかけていた。マオは既に外に出て、天候を確認している。アヴリルは小鍋で湯を沸かし、ミャウは毛布にくるまったまま、寝ぼけ眼をこすっていた。


「……クロウは?」

ユウトが振り返ると、寝台の男が、うっすらと目を開けていた。


「……ようやく、お目覚めですか」

アヴリルが声をかける。

クロウはしばらく天井を見つめ、呻くように呟いた。

「……なんだここは。まさか、お前らが……助けたのか?」


「放っておくわけにもいかないだろ」

ユウトが軽く肩をすくめる。

クロウは鼻で笑う。

「無能に助けられるなんて、気分が悪ぃな」

「はいはい」

ユウトが呆れたように答える。

そのやりとりに、マオが戻ってきて口を挟んだ。


「どうやら意識も戻ったようだな。ならば安心だ」

「……あんたら、どこまでお人好しなんだ」

クロウが顔を背ける。

「借りを作ったままなんて、もっと気分が悪いぜ。ほら」


そう言って、懐から空の小瓶を取り出すと、ユウトに放り投げた。ユウトが受け取り、眉をひそめた。

「この瓶は?」

「俺が持ってた道具の瓶だ。俺が森で甲冑野郎に襲われた時、その中身がなぜかあいつに効いたんだ」


「効いた……?」

アヴリルが首をかしげる。

「何が入ってたんだ?」

「さぁな、分からねえ。必死だったからな」

クロウは薄く笑った。

「ま、調べたら何かわかるかもな」


そう言って立ち上がる。

まだ体のふらつきは残るが、歩けるようだ。

「待て、どこへ行く」

ユウトが声をかける。クロウは肩越しに振り返り、横目でユウトを見た。


「俺は俺のやり方しか知らねぇからな。これからはちょっとだけ、すまないな、って思いながら魔物を狩るさ」

雪を踏みしめ、彼は去っていった。朝の光が、彼の背を照らしている。その背中は、どこか哀しげで、それでも確かな意志を宿していた。


ミャウがぽつりと言った。

「……ツンツンしてるけど、悪いやつじゃないにゃ」

アヴリルが微笑む。

「人は、簡単には変われないものです。けれど、ほんの少しでも、何かが残るなら」

「それは、まだ『人間』なんだろうな」

ユウトが静かに続けた。


マオは外を見上げ、囁くように言った。

「雪が……やんだな。北の空が晴れるのは、珍しい」


雲の切れ間から、淡い陽光が差し込む。その光が、小屋の中を満たした。


こうして、凍土の夜は明けた。

だが彼らの旅路の上に、新たな影が忍び寄っていた。

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