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この世界ではお金で生きています三章8

 三章ロストアイ討伐8


 ロストアイの咆哮を直に受けてしまった勇樹は、その場で意識を失い、崩れ落ちるようにして倒れた。


「勇樹さん!」


 咆哮が鳴り止まない中、榛名は倒れた勇樹に気付くと両の耳を手で塞いだ状態で彼に近づく。


「勇樹さん、しっかりしてください。貴方の指示がなければ、皆全滅してしまいますよ」


 必死に呼びかけるが、榛名の声は勇樹には届かない。


 身体を揺すって勇樹の反応を窺いたいが、先程からロストアイは咆哮を止める様子を見せないのだ。


 咆哮が終わったかと思うと直ぐに大きく息を吸い込み、再度咆哮を上げる。これでは手を離す暇がない。


 勇樹の状況を確認するには、まずロストアイの咆哮を止めなければならないが、それが可能となるのはおそらく榛名しかいないだろう。


 轟音を浴びせられる中、上手く集中力を高め、魔力をタコヤキに送らなければならない。自分の意識を保つのがやっとの状況で行うのは難易度が高いが、この状況を打破できるのは榛名しかいないのだ。


 榛名は両の瞼を閉じると精神を集中させ、魔力を高める。次に高まった魔力を一機の球体に送り、弾丸を生成させようとするが、轟音が榛名の集中力を削り、上手く弾丸の形状を作ることができないでいた。


 上手く集中出来ない。だけど、諦めません。必ず成功してみせます。


 自分は今は人間ではなく、タコヤキに魔力を送るだけの機械。自分にそう言い聞かせ、榛名は集中力を高める。


 高まった魔力が徐々に弾丸の形状を作っていき、時間はかかってしまったが、弾丸を作ることに成功した。


 これで、弾丸を撃つことができる。


 ロストアイの顔面に照準を合わせると榛名は弾丸を撃ち放った。


 偶然か、それとも故意でやったのかは分からない。榛名が撃ち放った弾丸は、もう一度咆哮を行おうと大きく息を吸い込んだタイミングで、ロストアイの口内に入り込み、着弾した弾丸が爆発。


 内部からの攻撃によるダメージは凄まじく、ロストアイは吐血しながら地面に倒れた。


 ロストアイはまだ息をしており、呼吸に合わせて腹部が前後に動いていた。


 倒すことはできずとも追い詰める程のダメージを負わせることは出来たはずだ。


 榛名は振り返ると勇樹の上体を起こし、声をかける。


「勇樹さん、しっかりしてください。榛名の声が聞こえますか」



     ◆◆◆◆



「ここはどこだ」


 勇樹は目が覚めると自分の知らない場所にいることに気付く。


 上体を起こし、周囲を見渡すと、目線の先にはどこまでも続きそうな地平線だけしか見えない。


 そして自分が座っているのは、雲をイメージさせる柔らかい綿のような物体だ。これも海のようにどこまでも続いている感じがする。さらに上空を見上げると、青空が広がっている。


 これらの情報から推察すると、天国のイメージだ。自分は死んでしまったのだろうか。


 いや、それはないはずだ。あのリアルゲームの世界で死を迎えれば、魂は消失する。魂が消失すると言うことは無になるということのはずだ。それならば自分の姿や意識があるのはおかしい。


 となれば自分は死んではいない。ならば、自分はどこにいるのだ。


 意識を失う前のことを思い出す。


 自分は榛名達とロストアイ討伐に出たが、咆哮に苦戦し、追い詰められた。


 なんとかしてあの咆哮を止めようとして、マジック袋から爆音玉を取り出そうとしたが間に合わなかった。


 それから先、どうなったのかが記憶にない。


 おそらく自分はその後にここに飛ばされたのだろう。


 でもいったい誰が?


「目が覚めたようですね」


 突然後方から声を掛けられ、驚いた勇樹は振り返ると一歩後退し、構えた。


 目の前には勇樹と同じぐらいの身長で、ウェーブのかかったロングヘアーに、翠と青の瞳を持つオッドアイの女性が白の清楚なドレスを着飾って立っていた。


「そんなに警戒しないでください。私は貴方の敵ではありません」


「警戒するなと言われても、見ず知らずの人の言うことを素直に聞くことはできない」


「そうですか。この姿でしか意思の疎通が出来ないのですが、信じてもらうには一度本当の姿に戻るしかないようですね」


 女性はそう言うと身体を発光させ、光を放つ。その光はとても眩しく、勇樹は直視することが出来ずに瞼を閉じ、光を遮った。


 光が消えたことを感じ取ると、勇樹は閉じていた瞼を開く。彼の前にいた女性は消え、変わりに一つの剣が空中に浮かんでいた。


 目の前の剣は鞘の幅は十五センチほどの太さであり、鍔の部分は鳥の羽を模った形状になっている。


 勇樹はこの剣を知っている。


 それもそのはずだ。目の前の剣はサンスから等価交換で譲ってもらったあの天空鳥の剣なのだ。


「天空鳥の剣!」


 武器の名前を叫ぶと、天空鳥の剣は光を放ち、また女性の姿となって勇樹の前に現れる。


「これで私が貴方の味方であると分かって頂けたと思います」


「ああ、十分すぎる証拠だった。天空鳥の剣、君に幾つか訊きたいことがある」


「我が主、この姿の時はソラとお呼びください。この姿で武器の名前だと違和感があると思いますので」


 確かにソラの言う通りだ。慣れればそうはないかもしれないが、人間の姿で武器の名前を呼ぶと確かに違和感がある。


「分かった。ソラ、幾つか質問して良いか」


「私に答えることが出来る質問であれば何なりと」


 ソラから質問の許可を得ると、勇樹はここに来てから思っていたことを尋ねた。


「ここはどこだ。俺は仲間達とロストアイの討伐をしていたはずだが」


「ここは主の心の中の世界と言っておきましょう」


「俺の心の中の世界?」


「主はロストアイ討伐の際に意識を失い。この心の世界を訪れました。今の主は精神体となっており、現実世界では今でも気を失っている状態です」


 ここが心の世界だと説明を受け、勇樹は納得した。


 目が覚めてから、勇樹は自身の身体に違和感を覚えていた。身体が軽く感じられ、先程の戦闘での疲れなども一切感じてはいなかった。この感覚は死後、エミリーと出会ったあの時の感覚に似ている。


「ここが俺の心の世界であることは分かった。でも、どうして俺の心の世界にソラがいる。しかも人の姿で」


「それは主が気を失った後に、対話をするために私の魂を主の心の世界に入り込んだからです。そのようなことをしない限りは対話をすることなど不可能ですから」


「俺と……対話?」


「そうです。このままではロストアイ討伐は不可能となります。私はそれを伝えたくて主との対話を試みました。これを見てください」


 ソラと勇樹の間にディスプレイが現れ、そこには外の世界が映し出されていた。


 自分が気絶している間に皆んなが奮闘してくれたのだろう。映像に映るロストアイは地面に倒れ、かなり弱っているように見える。


「この映像の何処が不可能と言っている?俺には優勢すぎて討伐完了は目前のように見える」


「いいえ、ロストアイはまだ全力で戦っていません。その証拠に、まだ真の姿を晒していません」


 ソラの説明に、勇樹は円卓会議で兵士から渡されたロストアイに関する資料のことを思い出す。


 あの資料の最後には、ロストアイのあの姿は仮の姿であり、真の姿を隠していると言う噂があると言った内容が書かれていた。


 ソラの言葉からすると、あの噂は本当なのだろう。


「ソラはロストアイの真の姿を知っているのか」


「はい、主が私を手にするよりも、前回の主であるサンスが私を手にするよりもずっと前の主が私を使ってロストアイを討伐したことがあります。その時にロストアイは当時の主を脅威と認め、真の姿を晒したのです」


「今のロストアイは本気ではないことは分かった。それで、当時はロストアイの討伐は成功したのか?」


 一番気になるのはそこだ。当時がどんな状況だったのかは分からないが、その時どんな戦略で挑んだのかが知ることができれば、参考になる。


「その質問にはイエスと答えましょう。ですが、辛勝でした。真の姿であるロストアイは今までとは真逆の存在でした」


「真逆?具体的にはどの辺が真逆何だ?」


「身体能力、聴力、そして視力、この三つが真逆だったと記憶しております」


 身体能力、聴力、そして視力の三つが真逆であると言うことは、鈍足である足は高速に近い動きとなり、今まで頼りにしていた音に頼る動きではなく、視力で認識した者を狙って来るということだ。


「つまり、今までの戦闘スタイルが変わってしまう。その変化に俺達は対応することができなくなり、討伐は失敗してしまう。ソラはそう言いたいのだな」


 勇樹の問いにソラは返事の変わりに無言で頷き、肯定する。


 映像を見ると、倒れたロストアイにトドメを刺そうとガルドが大河で腹部を攻撃している。


 このまま真の姿を解放する前に討伐が終われば良いのだが、その可能性はあるのだろうか。


「ロストアイが真の姿を解放する前に、討伐が完了する可能性はあるのか」


「それは分かりません。もしかしたら可能性はあるかもしれないですし、ないかもしれません」


 その辺りは運次第と言うことだ。


「ありがとう。ソラのお陰で新たに情報を得ることができた。現実世界に戻ったら全員に伝えておくよ」


「それと、現実世界にお戻りになったのなら、あの男から私を主の元に戻してください。最初は主の命令だったので、渋々あの男に力を貸していましたが、あの男と私はやはり相性が良くない。傲慢で欲深く、自分の思い通りにならならいと気が済まないようなガキは私の使い手には相応しくありません」


 そう告げるとソラは勇樹の身体に腕を回し、彼を抱きしめる。


「私は主のように優しく、仲間思いの者にしか力を貸しません。これまで主を見ていましたが、力を貸すに値する人物であると判断しました。次に私をお使いになる時は主をお守りするために新たな力を解放しましょう」


「新たな……力」


「ええ、人間達は熟練度が上がれば装備品は進化すると言われていますが、本当は熟練度ではなく、私達装備品が使い手と認めた時に力の一部を解放し、進化するのです。おそらく進化した私の能力であればロストアイを倒すことができます。ですが、主が私を使うと言う絶対条件が必要になります。」


「新たな力って具体的には…………くっ」


 天空鳥の剣の新たな力について尋ねようとしたが、突如目が霞み、意識が朦朧としてきた。


「どうやら、時間のようです。現実世界の主が目を覚まそうとしていますね」


 抱きしめていた腕を離し、勇樹をその場に座らせると一歩後退してソラは笑みを向ける。


「それでは主、機会があればまたここでお話しを致しましょう」


 彼女のその言葉を最後に、勇樹は瞼を開けておくことが困難となり、瞼を閉じると勇樹の身体は光の粒子となり、その場から姿を消した。

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