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この世界ではお金で生きています一章10

 一章神の作ったゲーム10


 受付嬢から教えてもらった場所へと向かうとそこには確かに他の扉に比べると一回り程大きい扉があり、扉を開けて中に入る。部屋の奥には大きめのカウンターが設置されており、その奥にセミロングのクリーム色の髪の女性が、一枚の紙を見ながら何やら悩んでいるのか頭を抱えている姿が見える。


 取り敢えず声を掛けたほうが良いだろう。


「すいません、初めて依頼を受けるのですが、どうすれば依頼を受けることが可能になりますか」


「え、もうそんな時間なのですか。まだ何も準備が完了していないのに」


 勇樹の声に驚き、女性は慌てて彼の下に駆け寄る。


「申し訳ありません。ただいま取り込んでおりまして、少々お待ちいただけますでしょうか」


「それは大丈夫です」


 女性は申し訳なさそうに一礼すると椅子に座り、パソコンの電源を点けてキーボードを打ち作業を始める。


 ゲームの世界にもパソコンがあるんだなと思いつつ、勇樹は部屋の中を見て回ることにする。


 壁には複数のボードが立て掛けられており、複数の張り紙がされていた。各ボードによりランクが設定されており、各ランクごとに採取依頼、護衛依頼、討伐依頼と分類されている。ランクはSSS、SS、S、AA、A、B、C、D、Eの九種類あるが、張り紙がされているのは高くともCランクまでしかない。おそらく、ここが始まりの街と言われる街だけあって、難しい依頼を依頼者に提供する訳にはいかないからであろう。


「お待たせしました。どうぞこちらに来て頂けますか」


 準備が完了したことを伝えられ、勇樹はカウンターへと向かう。


「初めまして私は依頼受付を担当させてもらっています。アスハと申します。依頼が初めてとのことなので、まずはこちらの用紙にご記入ください。この紙に書かれたことを参考にメンバーズカードを作成しますので」


 渡された用紙の内容を見る。まず最初は氏名、年齢、性別から始まり、戦闘経験の有無、使用した経験のある武器、今後パーティを組んで他の人と協力して依頼を受ける意思の有無が書かれ、勇樹はそれに沿って記入していく。


 まず名前だが、普通に書いても良いのだろうか。ゲームの世界だし本名ではなく、キラキラネームで書く人もいるかもしれない。だが、本名を晒すことにより、自分がこの世界にやって来た冒険者であることを周囲に知らせることも可能だ。


 だけど、自分から情報を公開することによってデメリットが発生するのも事実。この名前を公開することによって、自分がライバルであることをアピールしている。それによって冒険者は仲間に加えないという差別も発生するだろう。


 普通なら、自分の夢の邪魔になるような人間は側に置いときたくはないはず。いや、逆に利用するだけ利用し、用が無くなったら捨てるなんて考えの持ち主だった場合は逆に求めるだろう。


 最終的に決めるのは自分だ。人を見極める能力がない人間は利用させる立場としての人生を歩むしかない。


 様々な事態を考慮した上で勇樹は本名を氏名に記入することを決める。


 自分が周囲に流されることなく、自身の芯を貫いた上で行動すれば、悪い方へと風向きが来ることはないだろう。


 氏名を記入し終え、次に年齢の記入欄に移る。勇樹は見た目通りの十七歳と記入した。


 本当は実年齢の二十九歳と記入しなければならないが、ガルドのように信用してもらえない可能性がある。


 続いて性別を男にして、戦闘経験の有無だが、訓練をしても実戦経験はない。


 勇樹は無しの方に丸を付け、使用した経験のある武器の欄に移る。武器の種類が書かれ、当てはまるものにチェックをするようになっている。


 武器の種類は大剣、太刀、双剣、片手剣などの近接武器から、銃器、砲撃機、ブーメランといった遠距離武器、そしてその他に魔法と書かれ、魔法欄には更に細かい攻撃魔法、防御魔法、エンシェント魔法の種類に分けられている。


 勇樹は天空鳥の剣を使っただけであるが、あの形状の武器はどれに当てはまるのだろうか。大きさが普通サイズなので大剣なわけがない。剣の刃は両側にあるので太刀でもないだろう。そうなると一番近いのは片手剣が近いような気がする。


 取り敢えず片手剣のみにチェックを付け、次に進んだ。


 最後は今後パーティを組んで他の人と協力し、依頼を受ける意思があるのかだが、ここはあるに丸を付けておくべきだ。


 パーティーを汲むことにより、情報交換を行い、この世界の情報を集めることができる。ゲームの世界に当てはまるかはわからないが、情報とは現代社会では大きな武器となる。多くの情報さえ手に入れば後は考え、その情報をどう活用するのかで活路を開くことも可能となる。


「記入を終えました。これで良いですか」


「はい、ではこれからメンバーズカードの作成に入りますので少々お待ちください」


 アスハは紙を受け取ると、それを見ながらキーボードを使いパソコンに内容を打ち込んでいく。


「お待たせしました。ではこちらが霧雨さんのメンバーズカードとなります。失くされた場合は再発行をすることができますが、今度は手数料として100Q頂くことになっておりますので、できるだけ失くさないようにお願いします」


 手渡されたカードを見る。表は黒色の背景に青文字でメンバーズカードと書かれ、裏には氏名、年齢、性別、使用経験のある武器など、先程書いた内容のものが書かれている。


「それでは次に依頼の受け方の説明になりますが、この街ではE~Cランクまで受けることができます。もちろんこの街での最高ランクであるCランクをいきなり受けることは可能ですが、もし高ランクを受けて命を失う結果となったとしても、私達は責任を取ることは一切ありません。全て自己責任でお願い致します」


 ガルドの実体験のこともある。ここは最低ランクであるEから受けるべきだろう。


「あちらのボードに各ランクの依頼の紙がありますので、それをお持ちになって私のところでカードと一緒に提出してください」


「わかりました」


 お礼を言うと勇樹はボードへと向かう。先程はざっとしか見ていないが、Eランクの依頼にも採取のみではなく、小型魔物などの軽い討伐依頼もある。


 まずは簡単そうな採取の依頼内容を確認しよう。


「これなんかは駆け出しの俺にぴったりかもしれない」


 勇樹は一つの依頼の紙を手に取る。Eランクの依頼で、森に生えている薬草を籠一杯に入れて持って帰るのが内容になっている。


 討伐の内容でもないし、この依頼には薬草の生えている場所を示されている森の地図が借りられる。これなら地形が分からなくとも無事に依頼を完了することができるだろう。


 だが、報酬が傷薬とパンのみと言うのがやや、やる気を損ねてしまう。欲を言うのであれば現金が報酬の一部としてあったほうが良かった。


 念のために他の依頼を見てみるが、どの依頼にも報酬に現金が支払われるようなものはない。他のランクを見てみるが、一番高いCランクの報酬でさえ、質は良くとも現金が支払われるようなものは一つもなかった。


 やっぱり現金が支払われる依頼は本当に生死を分けるような危険すぎる依頼にしか現金の報酬がないのかもしれない。


「仕方がないからこれにするか」


 現金の支払いの依頼がないのは残念だが、勇樹は最初に選んだ薬草の依頼の紙を女性に持って行く。


「決めました。この依頼を受けます」


 薬草の採取依頼の紙と一緒に、カードを女性に提出。


「薬草の採取ですね、受諾しました」


 依頼の紙とカードを受け取ると、アスハはパソコンで勇樹と薬草採取の依頼の情報を打ち込み、入力を終えるとカードを勇樹に返す。


「ではこれが森の地図になります。依頼が完了しましたら返却をお願いします。それとこの地図も紛失しましたら紛失料として100Q頂くことになっていますので気を付けてください」


「わかりました。ありがとうございます」


「あのう」


 森の地図を受け取り、部屋を出て行こうとするとアスハが勇樹に話しかけてきた。


「なんですか」


 まさか呼び止められるとは思わなかった。もしかしたらまだ、言い残していたことでもあるのだろうか。


「お呼び止めして申し訳ありません。もし良ければ私個人の依頼を受けてくれませんか」


「貴方個人の依頼ですか」


「はい」


 アスハは真剣な表情で勇樹を見つめる。初めてここを訪れたとき、何やら悩んでいた様子だった。それと関係があるのだろうか。


「まずは依頼内容を聞きます。困っているようなので力を貸してあげたいですが、俺の実力以上の内容であれば断らず得ませんので」


「はい、実は…………」


 アスハは話し始める。昨日この場に見たことのない服装をした女の子が訪れた。彼女は早く次の街に行きたい旨をアスハに話したが、アスハは彼女にこの街からは暫く出られないという事実を話した。


 その理由は、次の街へと続く森に一年程前から森には生息していない外来魔物が住み着くようになり、危険な状態であるとのことだ。


 その魔物はBランク指定の魔物であり、この街にいる自衛団や冒険者では立ち向かっても返り討ちに遭い、命を失った者もいる。


 強い冒険者を派遣するように他の街に討伐依頼を出したが、他の街でも不可思議な現象や天災、ここと同じように外来魔物の住み付きなどの被害に遭い、冒険者を派遣する余裕がない状況である。


 しかし、女の子はアスハの話しを聞いても怖がるどころか、自分がその魔物を討伐すると言い出した。アスハはもちろん女の子を止めた。


 必死な訴えが伝わったのだろう。女の子はわかったと言い、この場から去って行った。


 翌朝、出勤すると一枚の紙と女の子のメンバーズカードが置かれており、紙には今から討伐に向かうから登録をお願いするように書かれていた。


 困っていた所で勇樹が訪れ、依頼場所が同じとのことで彼にお願いをすることを決めたとのことだ。


「彼女が向かった森と霧雨さんの依頼を行う場所が同じなので彼女を見かけたら連れ戻してくれませんか。もちろん報酬は弾みます。お望みであれば現金の支払いも致します。この事実が上のものに知られては私はこの仕事を続けられなくなるかもしれませんので」


 事情は分かったが、どうしたものか。依頼内容は女の子を見つけ、街まで連れ戻すこと。この依頼事態はそんなに難しくはないだろう。一番の問題はその女の子が見つかるまでどれくらいかかるかだ。


 勇樹はまだこの街に来たばかりであり、地の利があまりない。いくら薬草の採取で地図をかりられたからといっても自然とは成長し続けるものだ。草木は伸び、災害などによる大木や土砂による封鎖、獣道の誕生、など人が気付かない間に変化が起こりつつある。それに長時間森に滞在しておけばそれだけ魔物に襲われるリスクも伴う。


 そのようなこともわかった上でアスハは報酬も弾み、望むなら現金の支払いも行うと言ったのだろう。


 今の自分と依頼内容と報酬を天秤にかけ、勇樹は考える。


 どうする。いくら楽観的に考えても自分の実力以上の依頼となる可能性だって十分にありえる。長時間森にいるということは依頼を達成するまで襲ってきた魔物を相手にし続けなければならない。それはおそらく高難易度の依頼に近い状態になるだろう。ろくにアイテムや装備が充実していない現状では無理難題に等しい。


「報酬にはとても魅力的なものを感じますが、他の人に依頼を頼んだほうが良いのでは?流石に俺なんかの実力では殺されに行くようなものですし、貴方には悪いけど他を当たってください」


「そうですか、分かりました。無理を言って申し訳ありません」


 アスハは俯き、残念な表情を見せる。


 その姿を見て、勇樹は心に痛みを感じるが、仕方がないと自分で頭に言い聞かせる。


 正直に言えば、協力してあげたい気持ちではあった。もし、アイテムや装備品の充実、十分な実力と資金力があれば喜んで依頼を受けていただろう。しかし、自分には将来魔王を倒し、もう一度人類として来世を生きるという目標がある。今は危険な賭けに乗る別けにはいかないのだ。


 後ろ髪を引かれる思いではあったが、勇樹は理想よりも現実を優先し、部屋を出るとアイテム受け取り所でクリーニングに出した衣服を受け取り、温泉の脱衣所で着替えると森へと向かった。

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