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「あの偉そうなの何者なんだ?」


 俺は片膝をつき頭を下げたままのカインに尋ねると、物凄い形相で睨みつけてきた。


「黙れ! あの方はアマレロ国の国王グラム様だ。そして隣におられるのがロッソ国の王女ジェシカ様だ」


 ん? 確かロッソ国とアマレロ国って敵対しているんじゃなかったのか。それなのに国王と王女が一緒にいるとはどういう訳なんだ?


「ロッソとアマレロって仲悪かったんじゃないのか?」


 カインは立ち上がりニヤリと笑った。


「それは数年前の話だ。グラム様がアマレロ国の王となったあと、ロッソ国との同盟を求めてきたのだ。まぁ、最初はうまくいかなかったみたいだが、数日前に正式に同盟国となった。グラム様とジェシカ様も婚約されているしな。同じ国となるのもそう遠い話ではないだろう」


 ロッソとアマレロが同盟だと……アスールとロッソとアマレロは五分の国力を擁しているからお互い手を出さずにいられたはずだ。それが同盟……単純に考えても国力は二倍となる。今、アスールが攻められたら……悪い予感が頭をよぎる。カインはさらに気持ち悪い笑みを浮かべ話続けた。


「安心しろ。まだアスールに攻め込む気はないらしい。まだな……もしかしたらアスールとも同盟を組むのかもな。俺はアスールとだけは絶対嫌だけどな。まぁ、今はこんな話はもういい。そろそろ始めるぞ。王や観客を待たせるのも悪いからな」


「一つ聞きたい……」


「なんだ? 手短にしろよ」


「ここでお前を殺したら、アスールと戦争になったりするのか?」


「俺を殺すだと? まぁ、そんなことはあり得ないが、大丈夫だ。これは俺の個人的な喧嘩だからな。だからお前も殺されても恨むなよ」


 よかった……俺のせいで戦争になることだけは勘弁してほしいからな。これで心置きなくやれる。


「わかった。じゃあ始めるか」


 俺がそういうと、カインは後ろに飛んで距離をとった。意外だな……てっきり一気に勝負をつけに来ると思ったのに。


「はっはっは。お前は何もできずに死んでいくんだ。くらえ! グラビティ!!」


 カインが右手を前に出し、魔法を唱えた。黒い靄が俺の体を覆う。そして空気全体から押しつぶられるような圧力がかかり、そのまま立っていられず片膝をつき、地面に縫い付けられてしまう。


 しかしこいつもグラビティを使えるのか。しかもセラさんのように究極魔法を無詠唱で使っていた。さすがはランカーといったところだな。


「へぇ、無様にグラビティに潰されないとはやるじゃないか。並みの冒険者なら圧死しているところだからな。まぁ、死んでいた方が楽だったかもしれんが……」


「シャイニングボルト!」


 カインが放った至高魔法が、まばゆい光と轟音を放ち直撃する。しかし俺はたいしたダメージを受けなかった。ランカーといえどもやはり俺とのレベル差は大きいようだ。以前セラさんと戦った時も同じ魔法を受けたが無傷だったしな。平然としている俺を見て、カインの顔色が変わる。再び、右手を前に出し魔法を唱える。


「ブリザードストーム!」


 おぉ、次は氷と風の複合魔法ブリザードストームか。確かこれも究極魔法だったな。氷の刃を纏った嵐が俺の周囲を囲い込み激しい土煙を舞いながら襲う。だがそれでも俺には少しのダメージしか与えられない。やがて魔法が収まると、膝に手をついて俯き疲労の色を見せるカインがいた。さすがに究極魔法二発に至高魔法を一気に使えばランカーといえどもMP切れを起こしてしまうのだろう。


 カインが顔を上げ、片膝をついたままダメージを受けていない俺を確認すると、さすがに驚きの表情をみせる。


「なぜだ……まさか……」


 俺はグラビティを受けて重くなった体に力を入れ、立ち上がる。感覚としては体中に重りを巻き付けられている感覚だが動けないわけではない。その姿を見て、カインは更に顔を青ざめる。


「俺の魔法をものともしないなんて……まさかグレイブと同じ能力を……」


 ん? 今グレイブって言ったか?


「グレイブと知り合いなのか?」


「知り合いもなにもあいつはロッソ国の天敵だ。この国は俺を含め魔法に特化した冒険者が多い。昔イグナイトとブランが衝突しかけた事があるが、俺はあいつ一人に止められた。魔法無力化なんてむちゃくちゃな能力だよ。お前も同じ能力を持っているんだろ?」


「あいつと一緒にするな。ちゃんと魔法のダメージは受けてる。少しだけどな。単に俺がお前より強いだけだよ」


「そうか……グレイブといい、お前といい、アスールはやはり簡単にいかない国のようだ。グラム様が慎重になるのも分かる……だが俺もギルドの長だ。簡単にあきらめるわけにもいかない。かかってこいよ」


 カインは腰に携えていた長剣を抜き、構えた。お世辞でも強そうには見えない。魔法特化というのは本当なのだろう。俺も輝夜を背中から抜き構える。


「じゃあいくぞ」


 輝夜を構えたと同時に、カインに突っ込む。グラビティの影響かいつものスピードが出ない。輝夜を振り下ろすがカインも反応し剣で受けられる。……が、受けた剣は輝夜により真っ二つに折られ、そのままカインの体を切りつけた。カインは叫び声をあげ、その場に崩れ落ち、大の字で仰向けに倒れる。


「終わりだな……」


 カインは意識はあるようだが、もう立ち上がる力はないようだ。


「あぁ、お前の勝ちだ……これでランカーも卒業だな。よかったな、これでお前もランカーの仲間入りだ。受け取れ」


 そう言って、寝転んだまま腕輪を外そうとしているが……外れない。あぁ、そういえばこいつ俺のことランカーって知らないんだよな。


 俺は袖を捲り、カインに腕輪を見せる。


「なっ……お前もランカーだったのかよ。しかもⅣってことはセラを倒したのか……そりゃあ俺じゃ勝てない訳だ。納得した……さぁ、殺すなら殺せ」


 セラさんの事も知っているのか……そうか、前はグレイブさんと結婚していたからイグナイトと揉めたときにブランにいたのかな。カインは全てを諦めたように力なく再び大の字になる。


「もういいよ。その代わり人探しに付き合ってくれ。それとシャルルに謝罪してもらう」


「ふん、甘ちゃんめ……あとで後悔するなよ。まいった、ギブアップだ」


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