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新たなランカー

「でかいな……」


「うん、大きいね」


「はい、プラシアのギルドが犬小屋に見えます」


 俺達はやっとのことでイグナイトギルドに辿り着くことができたのだが、そのあまりの大きさに立ちすくんでいた。その大きさは少なく見てもプラシアギルドの十倍……ブランのギルドと比べても倍以上はあるだろうという程だった。さすがに犬小屋は言い過ぎだと思うが……まぁとりあえず中に入らないと、何も始まらない。はやくあいつらを見つけないとな。


「じゃあいくか」


「うん、早くいこ」


「くれぐれも揉め事は起こさないでくださいよ」

 

 シャルルが真剣な目をして俺をじっと見ている。あんまり信用されてないのかな……プラシアでは比較的おとなしくしてたつもりなのに。あぁ、でもゴランとは揉めたりしたからなぁ……でも仲間が危険にさらされない限りは大丈夫だろう。俺もガキじゃないんだ。


「わかってるよ、シャルル。さっさと原因を追究して帰ろう」


「そうですね。ここは暑くて苦手です」


 俺が先頭になってギルドの門をくぐる。中に入ると多くの冒険者で溢れていた。ギルドの広さはブランの倍以上だが、冒険者の人数はそれ以上あるのではないかと思うほどだった。少なくとも三桁はいるだろう。とりあえず名前も知らないし、自力で探してみよう。


 ギルド内を歩いていると、冒険者達からの視線が痛い。この目は確実に歓迎の目ではなく、嫌悪や疑念を持った目だ。無視して歩を進めていると三人の屈強な男達が俺達の道をふさいだ。これはめんどくさいやつだな……


「おい、お前等見ない顔だな。女の子を二人も連れてデートか? いい身分だな。俺達にも分けてくれよ」


 三人の真ん中に立つ、男が話しかけてきた。他の二人はニヤニヤと薄気味悪い顔で笑っている。俺達に視線をぶつけていた他の冒険者も同じように笑っている。このギルドはロクな奴がいないな。


「いや、人を探しているだけなんだ。揉めるつもりはないから無視してくれ」


 そう言って、男達の脇をすり抜けたが、


「きゃ」


 ルミナの悲鳴に振り返ると、真ん中の男に腕を掴まれていた。俺はルミナを助けようと手を伸ばした瞬間、


「何、勝手に触ってるのよ! この変態!」


 ルミナは簡単に掴まれた腕を振りほどき、鬼の形相で男の顔面に拳を振りぬいた。男は防御することもできず、まともに受け、吹き飛んだ。気絶したのか倒れたままピクリとも動かない……さっきまでざわついていた冒険者たちもシンと静まり返っている。まさか死んでないだろうな。ルミナは血の付いた拳を汚いと言って男の様子を気にすることもなく拭いている。残った二人の男は怯える様に逃げていった。


 やっぱりルミナも恐ろしい……さっきはシャルルの怒った姿を見たが、ルミナの恐ろしさはその比ではない。腕を触られただけで、あの結果になるとは……


「邪魔者もいなくなったし、早く探しましょ」


 ルミナにいつもの笑顔が戻っていた。周囲も我に返ったのかザワザワと騒ぎ立て始めた。これだけ注目されれば、もしこのギルドにあいつらがいたらきっと気づいたはずだろう。


「ハァ」


 シャルルが溜息を付いている。


「どうした?」


「いや、釘を刺しておく人を間違えたかなって思いまして……」


「そうかもね。ルミナは結構沸点が低いから」


 ほんとだよ。俺は平和主義者なんだ。基本的に揉め事は嫌いだし、できるだけ戦いたくもない。でも今回の件はルミナが殴らなくても俺が殴っていたかもしれないけど。


「お、おい、あの女何者だよ」


「知らねぇよ。見たことねぇ。まさかA級のあいつが一発でのされるなんて……」


「ちょっと俺、あの人に伝えてくる」


 外野の声が耳に入ってくる。まさかA級だったとは……それにしても面倒なことになりそうだ……


「ルミナ、シャルル、今日は引き上げよう。ここには居ないみたいだし」


「そう? もうちょっと色々見てみたいんだけど。食堂もあるみたいだし」


 呑気なものだ。誰のせいで、こんな騒ぎになってると思っているんだ。しかも食堂って、さっき食べたばかりだろう……とは言えずシャルルに助けを求める様に視線を移す。


「そ、そうですね。今日は宿を探してゆっくりしましょうか。きっとそこにも食堂はありますよ」


「うーん、わかったわ。そうと決まれば早くこんなとこ出ましょう」


 よかった……納得してくれたようだ。しかし少し遅かったようだ……ただならぬ雰囲気を持つ男が目の前から歩いてくる。


「お前等か、うちのギルドで暴れてるってやつは」


 その男は長身で細身の体で、長く伸ばした金髪をなびかせていた。歳は30~40代といった感じか。


 まずい……まるで赤き竜がブランギルドに乗り込んできた時に似ている。あの時はグレイブが止めたんだよな。もしかしてこいつギルドマスターか。そしてまさかと思い、金髪の男の腕に目をやると、ランカーを表す腕輪が付けられていた。


 やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁ‼‼‼


 これは面倒なことになった……ここで暴れるのは簡単だが、それではこの国にいられなくなる。まだ何も目的を成し遂げていないのに。俺がどう言い訳するか悩ませていると、シャルルが口を開いた。


「申し訳ございません、私はシャルル。こちらはルクスとルミナといいます。プラシアから人を探してロッソまで来ました。あそこでのびている男は彼女に乱暴をしようとしたので少し痛い目にあってもらいました。でも決してこの国やギルドと揉めるつもりはありません。ご迷惑をかけて申し訳ございません」


 シャルルは深々と頭を下げている。それにつられて俺とルミナも同じように頭を下げる。少しの沈黙の後、金髪の男が口を開いた。


「そうか……まぁ頭を上げてくれ。俺の名はカイン=ハルベルト。このギルドのマスターだ」


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