ロッソ着
「ふふふ、ふふふ、やりましたよ」
魔物の群れを殲滅し、再び馬車でロッソへ向かっていると突然シャルルがニヤリと笑いだした。
「突然どうしたの?」
ルミナは若干引きつった顔でシャルルを見ている。分かるよ、ルミナ……俺も若干気持ち悪かったからな。
「聞いてくれますか。さっきの魔物の大群を殲滅したおかげでレベルが20も上がりましたよ」
「すごい、すごぉい。これで一気にレベル80だね。この調子だったらすぐ私も抜かれそうだよ」
「いえいえ、今回は運がよかっただけですよ。あんな大群と出くわすなんて滅多にないから」
女の子二人でキャッキャ言い合いながらレベルアップを喜んでいる。確かに一気にそれだけレベルが上がればテンションがおかしくなっても不思議ではない。しかし20レベルアップか……それだけ上がるということは間違いなく100体以上、いや200、300体いたかもしれない。たかがD級の魔物といえど、いやもしかしたらC級、B級の魔物も混ざっていたかもしれない魔物の群れを一発の魔法で全滅させるなんて流石、最強の魔法……神域魔法ってことか。
「ねぇ、シャルル。神域魔法って他にもあるの?」
「ありますよ。機会があったら見せてあげますね。ただ神域魔法は効果範囲が広いから中々使う機会がないんですけどね。あっ、ルクスさんは絶対神域魔法とか使ったら駄目ですよ!」
シャルルは語気を強めて警告してきた。
えっ……なんで? 折角、メテオフォールという神域魔法を知ることができたのに使ったら駄目なんて……
「ち、ちなみに使ったらどうなるの?」
「わかりません!」
「わかりません??」
まさかの答えが返ってきた。
「分かりませんが理由はあります。神域魔法は見ての通り物凄い威力です。私のレベルでも100を超える魔物を殲滅し、地形を変えてしまう程です。ちなみに私の魔力はレベル相応です。それでもあの威力なんです。レベルが700超えるルクスさんが使ったらどうなってしまうのか想像もできません。きっと町の一つや二つ……いや国ごと滅ぼしてしまうかもしれないです。だから絶対駄目です!」
シャルルは真剣な表情で、さらに口調が強くなりながら説明してくれた。
なるほど……納得だ。納得はできたが……それでも使ってみたい……いつかチャンスがあれば。
「わかったよ、シャルル」
「分かってもらえてよかったです。まぁ、ルクスさんなら神域魔法に頼らなくても、倒せない相手なんていなさそうですけど」
「うーん、確かにまだ苦戦するような相手には出会ってないけど、この世界は何か変だからなぁ」
「この世界?」
シャルルは不思議そうに首を傾げている。しまった……
「いやいや、世の中は広いからまだまだ強い奴もいるだろうなぁって」
「ふーん」
ルミナは呆れたような顔をしていた。はぁ、もっと気を付けないとな……
「あっ、ルミナさんも簡単に使っちゃ駄目ですよ」
「だから私は究極魔法で精いっぱいだから。神域魔法なんて使えるMPなんてないよ」
「そうなんですね……なんで私使えるんだろ……エドゥー達はそもそも魔法自体使わなかったからあまり気にならなかったけど」
「それはきっと……」
俺がスキルの話をしようとしたとき、馬車が止まり御者が話しかけてきた。
「お待たせしました。ロッソの王都に着きましたよ」
おぉ、やっと着いたか。スキルの話はまたの機会にしよう。
御者に礼を言って、馬車を降りた。
ルミナが手を空に向かって伸ばしストレッチしている。
「うーん、今回の移動は体が鈍っちゃたかな」
「ふふ、次魔物が襲ってきたらルミナさんの戦いも見せてくださいね」
「うん、任せてて。私の新しい剣で瞬殺してやるんだから」
もはや女の子同士の話ではない。ガールズトークなんてどこへやらだ。見た目は二人とも凄く可愛いのに。
「じゃあそろそろ中に入ろうか」
「ですね。でもここからは他国です。戦時中ではないので特に問題なく入国できるとは思いますが、目立たないに越したことはありません。揉め事もできるだけ厳禁です。いいですか?」
確かに……王都でも赤き竜が暴れて、グレイブさんが殺そうとしてたもんな。気を付けよう。
真っ赤な門をくぐり俺達三人はロッソの王都であるイグナイトへ入国した。水で溢れて、美しい街並みのプラシアとは異なり、赤を基調としたレンガ造りの家や建物が並んでいる。正直落ち着かない。町中が真っ赤だ……しかし通りには多くの人々が溢れており、活気に満ちている。この辺はブランと一緒だな。
そして俺達は赤い門の前で立ち尽くしていた。
「さぁ、とりあえずあいつ等を探すか」
「そうだね。でもこの中からあの人達を探すのは大変だね」
「だな。とりあえず、歩くか……」
「だね……」
「ちょっと待ってください。あいつ等とか、あの人達とか言ってますけど名前とか、どこに住んでるとか分からないんですか?」
そうなのだ。ブランの王都にいるという情報しか俺達は持っていないのだ。顔と捕まえるプロって言ってたことしか記憶にないぞ。この人ゴミの中から探すのはちょっと骨が折れそうだ。
「ごめん……あまりにあいつらに興味無さ過ぎて」
「私も……」
「はぁ、しょうがないですね。とりあえずギルドに行きましょう。もしかしたら冒険者かもしれませんし、特徴を言えば何か分かるかもしれません」
そう言うと、シャルルは近くを歩いている人に声をかけ、ギルドの場所を聞いているようだ。通行人も身振り手振りで丁寧に説明してくれている。さすがしっかりしている。ルミナはというと何やら落ち着かないようにキョロキョロと辺りを見回している。なんとなくルミナの考えが分かってしまうのはいい事なのだろうか……
「どうやら、少し歩かないといけないみたいです。案内するので、ついて来てください」
シャルルと俺がギルドへ向かおうとした時、ルミナが案の定、静止した。
「ちょっと待って。その前にあそこへ行こう」
ルミナが指を差したその先には、
『イグナイト名物 トマット料理専門店 トマトマ』
という看板を掲げた料理店があった。やっぱり食べ物を探してたんだな……




