シャルルのレベル
「ところで、シャルルってレベルどれくらいあるの?」
ロッソへ向かう馬車の中でルミナが尋ねた。ナイスだ、ルミナ。俺もそれを聞きたかったんだ。シャルルのレベルが分かれば、今後の戦闘での戦い方も決めることができる。
「えぇ、どうしよう……あんまり高くないから恥ずかしいです」
「いいじゃない。私も教えるから。それにルクスも寝てるみたいだからこっそり教えてよ」
そう、俺は今寝たふりをしている。女性二人がずっとワイワイ、キャキャと話していたので、あまりにつまらなくなり、寝ようとしていたのだ。しかし楽しそうなガールズトークが勝手に耳に入ってきて寝付けずにいると、レベルの話になった。
「えぇと、今はやっと50レベルになったところかな……もっとレベル上げ頑張らないと。ルミナさんはいくつなんですか?」
なるほど……確かに低くはない。でも身近にいるルミナが異常なので、驚きは少なかった。50と言えば出会った頃のルミナぐらいだしな。それでも一般的には十分に高い。B級クエストぐらいならソロでなければ十分にこなしていけるだろう。
「私はねぇ、この間112レベルになったよ」
「へっ! それって凄すぎませんか?」
シャルルは聞いた事もないような上ずった声を出している。一体どんな顔してるのかな……気になる。寝たふり止めたい。
それにしてもルミナは順調にレベルが上がってるな……前聞いた時からさほど時間は経っていないのに10もレベルが上がっている。ちなみに現在の俺のステータスは……
level:755→770
HP:27000→28000
MP:32000→33400
攻撃力:8500→8650
防御力:8000→8150
魔力:10000→10700
俊敏性:9800→9950
運:80
よしよし順調に上がっているな。やっぱりドラゴン倒したり、ランカーと戦ったりしたから短期間でもよく伸びたのかな。
「確かに100レベルを超えたときは嬉しかったけど……やっぱりまだまだだよ。私より強い人なんていっぱいいるし、ランカーと戦ったときなんて手も足も出なかった……」
『…………』
「100レベルを超えてもランカーには手も足もでないんですね……でもランカーって言ったら一体ルクスさんはレベルいくつあるんだろう……」
「ルクスは凄いわ! ルクスに比べたら私なんて虫けらと同じよ。流石に私の口からレベルは言えないけどね」
『…………………』
「そうですか……100レベルが虫けら……是非聞きたかったんですけど……」
「聞いてみたら? ルクス、今寝たふりして私達の話をこそこそ盗み聞きしてるから」
『…………………えっ?』
ちょっと待って! 今なんて言った! 寝たふりしてるって言ったよね。なんでバレたんだ。いやこの完璧な寝たふりがバレるわけがない。きっとカマをかけているだけだ。俺はなにも言わず寝たふりを続ける。
「……寝てるみたいですよ?」
視線を感じる。恐らくシャルルがじっと俺のことを見ているのだろう……しかし俺は負けない!
「ふふふ、無駄よルクス。早く寝たふりなんて止めなさい」
どうしよう……何やら自信満々だ。でも今更寝たふりでしてガールズトーク楽しんでましたって言えません。俺は黙り込んで寝たふりを続ける賭けに出た。
「やっぱり寝てますよ。やっぱり勘違いですね。ルクスさんはそんなコソコソする人じゃないですよ」
再び視線を感じる。うっ、心が痛い……しかしこのままいけば騙し通せる。
「しょうがないわね。まぁ、いずれシャルルも分かると思うし。ルクスが本気で寝ているときは100パーセント、イビキをかくのよ! しかも大き目のね」
「え~本当ですか? なんか信じられません」
『なっ……そんな、まさか……俺も信じられない』
「本当に大きいのよ。シャルルも一緒に寝ることがあれば驚くわよ。いやイビキだけじゃないわ。本当に寝てるときルクスは……」
「もうやめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
俺はルミナの攻撃に耐えきれなくなり罪を認めてしまった。そして揺れる馬車の席の上で正坐をして謝る。
「ごめんなさい」
「別に大丈夫ですよ。知られたらまずい事とか無かったですし。はやく普通に戻ってください」
シャルルは優しいなぁ。ちらっとルミナを見る。
「ほんとしょうがないわねぇ。でも私も特に怒ってないわよ。あの時の木の陰に隠れていた時に比べたら」
木の陰? 何の話だ? あっ、あれか! 新ハッピータイムのことか! あの時の光景が頭に浮かぶ。クレアさん元気にしているかな。
「木の陰って何ですか?」
やばい! シャルルにはバレたくない!
「それはルクスが前に私達が……」「あ、シャルルそういえば俺のレベル知りたいんだよね?」
ルミナの話に俺が大きな声で被せる。
「え、あっ、はい! 是非教えてください」
よし、喰いついた。しかし本当のレベルを言うべきだろうか……まぁ既に強い事も分かってるし、シャルルならちゃんと秘密にしてくれるだろう。それに今日はこれ以上嘘はつきたくない。あくまで今日はだが……
「今のレベルは770だよ」
「へっ!」
それを聞いたシャルルはキョトンと鳩のような顔つきになる。口もパクパクしている。そうか、こんな顔をしていたのか。
「またレベルあがってるわね」
「そういうルミナだって」
「本当に二人とも凄すぎます。とくにルクスさん! どうやったらそんなレベルになるんですか? まだ若いのに……」
やっぱ気になるよね。でも転生の話は流石にしたくないな……どうしようと思っていたらルミナが助け舟を出してくれた。
「ルクスは元々強かったみたいよ」
「元から……そっか」
そんなので納得してくれるのか……たしかにこの世界では元々強かったが。嘘は言っていないな。ルミナは俺に向けてウインクしてくるので俺は片手をあげて合図した。
その時だった!
「すいません、助けてください!」
馬車を引いていた御者が慌てたように俺達に声をかけてきた。