初めての……
俺達は無事に? プラシアに帰ることができた。
「あっ、とりあえず私、一回ギルドに行ってクエストの報告に行ってきますね。それとちょっとやっておきたい事もあるので、少し時間がかかるかもしれません……集まるのは明日でも大丈夫ですか?」
シャルルが申し訳なさそうに言う。今はまだ昼を過ぎたばかりだが、新しいパーティーに入るということで、何かと準備も必要なのだろう。
「気にしなくていいよ。シャルルもクエストから戻ったばかりで疲れているだろうし、俺達も装備を強化してもらいにいくからね」
「あれ? ルクスさん? 今シャルルって呼んでくれましたね」
シャルルはビックリして目を見開いていた。
「あ、いや、駄目だったかな。帰り道にそう決まったから……」
あの勘違い事件から、何故かシャルルのことを幼く見れなくなってしまった俺は自然とシャルルちゃんと呼ぶことを辞めてしまった。
「いえ、むしろ嬉しいですよ。ありがとうございます」
シャルルは驚きの表情から喜びの笑みへと一変させた。
「やっと、ちゃん付けで呼ばなくなったのね。よかった、よかった。私のおかげかな」
ルミナは腕を組んで、うん、うんと一人で頷いていた。
確かにルミナの勘違いのせいだよ! ルミナがあんなこと言わなかったら特に意識もしなかったのに!
「ふふふ、そうですね。ルミナさんのおかげです。ありがとうございます」
小さく微笑みながら、軽く頭を下げる。
でも、こんな可愛い娘がパーティーに入ってくれたから良しとするか。まぁ、ハーレムにはなれそうにないけど……
「じゃあ私、そろそろギルドへ行きますね。明日の正午ギルドへ待ち合わせでいいですか?」
「うん、問題ないよ。じゃあまた」
「また明日ね。シャルルさん」
俺とルミナは手を振って、シャルルと別れた。シャルルがギルドに入ると中から男どもの野太い歓声が聞こえてきた。みんな心配してたからな。
「じゃあ武器屋にいきますか」
「そうだね。早くいきましょう」
ルミナは新しいおもちゃを買って貰える子供のように目を輝かせていた。
「よう、坊っちゃん。久しぶりだな。今日はどうしたんだ? また変な武器つくれっていうんじゃないだろうな」
「もういい加減坊っちゃんは止めてくださいよ。今日はクエスト達成の報告にきましたよ」
「はっはっは、まぁいいじゃないか。ん? クエスト達成っていったか? なんのだ?」
この人……自分が依頼したクエストを忘れてるんじゃないだろうな……
俺達はボックスから黒と白の鉱石を取り出した。
「依頼されてたブラックロンズとホワイトロンズです。これで武器を打ち直して貰いに来ました。さすがに扱うには小さくなってきたので」
店主は目を丸くして、金魚のように口をパクパクさせている。
「お、お前らこれだけの鉱石をどうやって……まさか倒したのか……」
「ちょっと黒龍を助けたらお礼に貰いましたよ。そういえばおっちゃんも前にドラゴンから鉱石貰ったんですよね? 何したんです?」
「あの時のドラゴンか……あれは若い頃、武器の素材を探しに旅に出ていてな。そしたら、森の中で一匹の黒いドラゴンの子供が罠にかかって抜け出せなくなっていたんだよ。可哀想に思ってな、助けてやったら、その後お礼にと親が持ってきたって話だ。いやー、親が来たときは死ぬかと思ったが意外にいいドラゴンだったな」
店主は、懐かしむように話してくれた。ドラゴンの恩返しってやつかな。しかし罠にかかるドラゴンって……
「確かにいいドラゴンばかりでした。おもしろかったし。行ったときは、喧嘩してましたけど今はもう仲良しですよ。それに私、ドラゴンの主になっちゃいました。すごいでしょ」
ルミナは得意気に店主に自慢を始めた。
「主? ほんとか? 一体何があったんだよ、お前ら……ん? 坊っちゃんその腕輪は……もしやランカーになったのか!」
店主は驚きの連続で大変そうだ。ってか、ほんとにこの腕輪有名だな。冒険者でない店主までも知っているなんて。
「いやー、王都でいろいろありまして……」
「す、すげぇな……まぁ、俺の予想も当たってたわけだ。次はお嬢ちゃんの番だな」
「私はまだまだです。ランカーと戦ってみたけれど、簡単に負けちゃいました」
「そうか。でもまだ若いんだ。これからまだチャンスはあるさ。この年でランカーになる坊っちゃんがおかしいんだよ」
人をおかしな人呼ばわりするのは止めてほしいのだが……
「はい、頑張ります。その為にも自分にあった武器が必要なんです。宜しくお願いします」
ルミナは必死で頭を下げている。
「おう、任せておけ。これだけの鉱石があれば立派なものが作れるよ。また明日の昼前に取りに来てくれ。一晩で打ち直す!」
店主は左の手のひらに右の拳をバチンと打ち付けて気合いを入れていた。
「一晩! すごいですね。では明日また来ます。宜しくお願いします」
俺も店主に礼を言い、剣を預けて武器屋を出た。
今日は宿に泊まることにした。宿に泊まるときは相変わらず部屋は別々にとる。付き合いはじめてもこれは変わらない。そろそろ恋人らしいことも進展させたいのだが、未だに手を繋ぐことと、頬にキスをされたぐらいだ。やっぱり男の俺からいかないとだよな……でも拒否されたら……でもいい加減キスぐらいしたい!
と、一人で悶々としていると、部屋がノックされた。
「ルクス、起きてる? 少し話そー」
ルミナだ! 色々と想像していたせいで、実際声を聞くと、身がこわばってしまった。
「お、おきてるよ。入っていいよ」
そう言うと寝間着姿のルミナが入ってきた。濡れた髪が揺れ、淡い花のような香りが部屋に満ちる。
「ごめんね……」
ベッドに座ると、ルミナは表情を落として急に謝ってきた。
「え、なにが? 何かしたっけ?」
「シャルルのことだよ。私が変なこと言ったばっかりに……」
あぁ、そのことか……
「いや、あれは俺も悪かったよ。ルミナがいるのに、別の女性の事も考えるなんて……ランカーだからって、やっぱり駄目だよ。それに本当にシャルルのことを好きなのかって言われたら、よく分からなかったし、俺が好きなのはルミナだってはっきりわかったよ」
「そっか……でも少しホッとした。私、やっぱり不安だったもん。ルクスがとられたらどうしようって……ルクスは優しいから二人とも大事にしてくれるだろうけど、私に対する愛情が薄れていったらと思うと悲しくて悲しくて不安だった……」
ルミナは話しながら、涙が溢れていた。きっと、俺やシャルルのことを考えて、三人でうまくいく方法を考えたのだろう。自分の嫌な感情を押し殺してまで……
俺はルミナの横に座って、軽く抱き締める。ルミナは俺の胸の中で、泣いていた。
「ごめんな、こんな不安にさせて。俺はルミナを愛してるよ。これは一生変わることはないから。これからも永遠に愛し続けるから。だからっ」
俺が安心してと言おうとした瞬間、ルミナがいきなり顔を上げて涙を流したまま、唇を俺の唇に押しつけてきた。そのまま時が止まる。驚きで見開いた目にはルミナが目をやさしく瞑っている顔がうつりこむ。俺も目を閉じた。どのくらい長い間キスをしていただろうか……どちらからと言うわけでもなく、自然に唇が離れた。
そして目を開けると、太陽が光輝くような笑顔を浮かべたルミナがいた。
「ありがとう。私もルクスが大好きだよ。これから何があっても、あなたを愛し続けます」
ルミナとの初めてのキスは、流れてきた涙で少しだけしょっぱい味がした。




