エドゥーの実力
エドゥーは指をボキボキと鳴らして俺をジッと見据えている。その顔には自信が漲っているようにも見える。俺を子供だと思って侮っているのか、それとも本当に実力があるのか……
「準備はいいか? ランカー」
「あぁ、いつでもいいよ。それとランカーって呼ぶな。せめて名前で呼んでくれ」
「俺に負ければ、ランカーと呼ばれずに済むぞ」
「是非とも俺を倒してくれよ……」
俺の心からの願いを舐められていると勘違いしたのか、エドゥーは青筋を浮き立たせていた。
あー、そんなつもりなかったのに……すげー怒らせちゃったよ。
「では最初から本気でいくとしよう」
エドゥーは大剣を取り出し構える。自身の身長を超えるほどに長く、自身の胴体ほどの幅がある大剣を片手で楽々と持っている。
でかい……普通の冒険者だったら怯んでしまう所だろうな。B級だからといって舐めているわけではないが、高レベル、高ステータスの俺にはあの剣で切り付けられても大したダメージは与えられないだろう。そういった余裕から、俺は剣を取り出さず素手で構えた。
「おい、いい加減にしろよ……その背中にある剣は飾りか」
「いやぁ、シャルルちゃんの仲間だし。剣を使うのはちょっと……」
浮き立たせていた青筋がさらに濃く広がっていく。
「後悔するなよ!」
エドゥーは真っ直ぐ俺に突っ込んできた。
おっ、予想より早いな。ランカーに挑むだけはあるようだ。
俺との距離を一瞬にして縮めると、大剣を大気を切り裂くように真上から振り下ろす。しかしこの程度なら避けることなど造作もない。あえてギリギリで横に避け、すれ違いざまにプラン通りに手刀でエドゥーの首の後ろを打ち付ける。
「ぐっっ」
と鈍い声が聞こえた。勝負あったなと振り返ったが、そこには首を擦りながら平然と立っている大男がいた。手加減しすぎたか……確かに強くやりすぎて首の骨を折ってしまう可能性もあったので力は抜いたが、それでも今の一撃は二桁後半のレベルでもある程度ダメージを与えられるはずなのだが、エドゥーはそれほど痛がっている様子もない。普通のB級冒険者ではないようだな。
「おいおい、まさか今ので終わったと思ったのか? この程度で俺が気を失うわけないだろう。本気で来いよランカー。あぁ、ランカーって言われるのは嫌って言ってたな。本気で来いよ、格好つけちゃん。決まれば格好良かっただろうが、決まらないと情けないものだな。そうかそうか、ランカーってのはナルシストなんだな」
今まで無口であった男がペラペラと舌が回っている。
分かってる……分かってるんだ……あいつは俺を挑発して本気を出させたいだけなんだ……しかし俺は予想以上のダメージを受けていた。自分が高レベルだと油断していた。まさかこんなダメージの受け方があるなんて……なんでステータスにメンタルがないんだよ。
俺、終わったと思って振り返った時どんな顔してたっけ? きっとさぞかし自信満々で得意満面な顔をしていたのだろう……恥ずかしい!恥ずかしすぎてルミナやシャルルちゃんの顔が見れない。
俺が後悔の念に駆られていると、エドゥーは大剣を横凪に振ってきた。反応が遅れ避けることは適わずまともに受け、あまりの威力に俺の体はボールのように飛ばされ、大樹に当たって止まった。
くそー油断した! ほんと今日の戦いはダメダメだ。それにしてもこいつ何者だ……絶対普通のB級ではない。大したことはないがHPを確認すると確実にダメージを受けている。
追い打ちをかけるように巨体を揺らして向かってくる。これ以上恥をかくわけにはいかない。再び切りつけてきた大剣を左手で受け止める。それと同時に右の拳に力を込めエドゥーの腹に突き刺す。
ぐぁぁと苦しみの声をあげ、頭が下がる。これでも気を失わないのかと感心しながらも、拳を引いて、右足で下がった頭に上段蹴りを見舞わす。
側頭部にまともに蹴りを受けたエドゥーはさすがに白目をむいて倒れた。
ふう、やっと終わったか。服についた汚れを払っているとミシミシと鈍い音が聞こえてきた。
「「あぶなーーーーい」」
ルミナとシャルルちゃんが叫んでいる。何が危ないんだ? 後ろを見ると、俺を受け止めてくれた大樹が倒れてきた。あーあ、ほんと今日はダメダメだ。そのまま俺は大樹の下敷きになったのであった。
俺はテントの中で、両膝を腕で抱えて座っていた。そして過去の記憶に無いほど落ち込んでいた。大樹の下敷きになったからといってダメージを受けることもないのだが、俺のメンタルHPはぼぼ0になっていた。
「ね、ねぇルクス、格好良かったよ。特に最後の上段蹴りとか」
「やっぱりルクスさんは強いです。まさかエドゥーがあんな簡単に負けちゃうなんて」
ルミナとシャルルちゃんが必死に励まそうとしてくれている。
「大丈夫……大丈夫だから……すこしそっとしておいて……」
「そ、そう。落ち着いたら外に出てきてね。私はシャルルさんと昼食の食材探してくるから……」
俺は無言でうなずいた。