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食堂事件

 俺とルミナはギルド内にある食堂で夕食をとることにした。さっそくランカーの腕輪の特典を使ってみようとなったのだ。俺が奢ることになってたし。


 まさかあんな事件が起こるなんて……


 ちなみにこの食堂の料金は先払いだ。荒くれものの冒険者も多いので酒がはいると支払いを求めるのが大変となるからだ。実際周りのテーブルにはまだ日が落ちたばかりだというのに、酔い潰れて寝ている冒険者や、ばか騒ぎしている冒険者も多い。


 俺はルミナの分の料理と合わせて注文した。いつもの如く、二人で食べるには多すぎるので間違いではないかと聞き返される。まぁここまではいつも通りだった。そしてお姉さんが5300ピアになりますと言うので、自慢げに袖をめくり腕輪を見せた。


「ではこれでお願いします」


 お姉さんはちらっとその腕輪を見る。


「これって??」


 あれ?よく見えてないのかな?そう思ってⅣの数字がよく見えるようにお姉さんの目の前につきだした。すると笑顔だったお姉さんの表情が少しひきつった。


「あの?なんですか?あっ格好いい腕輪ですね。お似合いですよ。これでいい?じゃあ5300ピアになりますので早く払ってください。後ろのお客様も待ってますし」


「おいおい、何やってんだよ。早くしろ。こっちは腹減ってたまらないんだよ」


 並んでいる冒険者からもクレームが飛ぶ。おかしい…何かがおかしいぞ。文句を言ってきた冒険者にも腕輪が見えるよう振り返る。が……


「なんだよ、坊主。その腕輪、隣の彼女にでも買って貰ったのか?あー格好いい格好いい。みんなに自慢したいのは分かるが早くお金払ってくれ」


 後ろに並んでいた冒険者達はガッハッハーと笑っている。お姉さんもクスクスしている。隣を見るとルミナまで口を押さえて笑いを堪えている。


 はっ恥ずかしい……グレイブさんの嘘つき!何がギルドの施設がタダになるだ、何が冒険者達は尊敬の眼差しを向けるだ!!格好つけて、腕輪をだした俺がバカみたいじゃないか!!!恥ずかしさがだんだん怒りに変わってきた。


 俺は再びグレイブさんの部屋の前に来ていた。そして、怒りに任せて扉を蹴り破った。グレイブさんは賊が来たと思ったのか長い槍のような武器をもって構えていたが俺の姿を確認すると、険しい表情が和らぎ武器を納める。


「あれ?どうしたんだい。そんな殺気を放って扉をぶち破るなんて。久しぶりに敵かと思ったよ」


「敵として受け取ってもらっても構いませんが……」


「ちょっとルクス、落ち着いて。グレイブさんの話も聞きましょう」


「な、なにがあったんだ?俺なんかしたか?」


 ルミナになだめられて、再び俺達は向かい合ってソファーに座っている。俺が蹴り破った扉もテーブルと同じようにテープでグルグル巻きだ。俺とルミナのせいでこの部屋がボロボロになっている。


「いったいどうしたというんだ。さっきこの部屋を出て、まだ少ししか経ってないというのに」


「グレイブさん、謝るなら今のうちですよ……」


「だから何を。ほんとに分からないんだよぉ」


「分からないなら事細かに説明してやりますよ」


 俺はさっき起こった悪夢のような出来事を語った。グレイブさんはそれを聞くと、


「そんなバカな……」


 と言って腕を組み考え始めた。


「恐らくだが……この国は最近までランカーは俺一人だったんだ。今はルクス君がいるけど。そして俺はこの町のギルドマスターでもある。この町の冒険者や職員は俺のことをギルドマスターとして接してるから、若い奴らはランカーの腕輪のこと知らないのかもな」

 

 それはギルドマスターとして職員や冒険者に教育が行き渡ってないだけじゃないか?被害にあったのが俺でよかった……気の短いランカーが遊びに来てたら皆殺しにされてたかもしれない。


「ちょっと待っててくれ。みんなに説明してくるから。すぐ戻る」


 そう言ってグレイブさんは部屋を出ていった。と思ったら数分で戻ってきた。


「よし、これで大丈夫だ。しかしなんだかんだ言ってルクス君はランカーとして扱われたいんだな。安心した」


「それは違います!」


 ハッキリと否定した。どうせこれから辛い日々が始まるんだ。それならば利用出来るものはとことん利用してやろうと思っただけなのだ。


「あっ、これでこのスキルの券使えなかったら、ほんとにどうなるか分かりませんからね。大丈夫ですよね」


 グレイブさんに貰った紙切れを手に持ってヒラヒラとさせる。もうあんな恥をかくのはごめんなので釘を刺しておく。


「あ、あぁ、大丈夫だ。でも念のため俺も付いていこうかな……念のためね。行く前にギルドに寄ってくれ」


 ほんとあやしい……もうグレイブさんの話を完全に信じるのはやめよう……


「分かりました。じゃあ今日は夕食食べて帰るので明日また来ます」


 再び俺とルミナは食堂へ戻った。そしてそこには驚愕の光景が広がっていた。


 食堂の職員達やあの時俺を笑った冒険者達が皆、膝をついて、頭を下げ、両手を地面につけている。そう土下座だ。普通に食事をとっている冒険者達が何事かとザワザワ騒いでいる。注文をとってくれたお姉さんが顔を上げ俺の姿を確認する。


「この度は知らぬとは言え、ランカーのルクス様に恥をかかせてしまって申し訳ございませんでした」


 後ろに並んでいた冒険者もそれに続いた。


「私ごときがルクス様に坊主なんて言ってしまい、さらに私達の憧れであるランカーの腕輪を笑ってしまってほんとに申し訳ございませんでした」


 勘弁してくれ……俺はこんなのを望んだわけじゃないんだ……とりあえずこの土下座は止めさせよう。


「あのぉ、もう気にしてないんで。とりあえず立ちましょうか」


 そう言ってお姉さんに手を差しのべる。


「ひいぃぃぃぃ。命だけはお助けくださいぃぃぃ」


 俺の手が視界に入ると、怯えて頭を抱えうずくまり命乞いされた。グレイブさんあの数分で一体何を話したんだ……


 それから俺が安全で優しい人物だと理解してもらうのに一時間かかった。さすがにお腹減ったよ……

次回予告:ルクスのスキルとは!!

 恐らく明日か明後日には更新できますので宜しくお願いします。

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