報酬
俺はあまりのショックでソファーに座り落ち込んでいた。
「ル、ルクスくん、ランカーは悪いことばかりではないよ。クエストの報酬などは割り増しされ、ギルド内の施設は全てを無料で使うことができる。憧れの存在として、他の冒険者から尊敬の眼差しを受けることも多いだろう。それに、戦時中でなけばその腕輪を見せればどの国へも行くことができる。ロッソへ行くときも、きっと役に立つはずだ」
ランカーとしてのメリットをグレイブさんが説明してくれたが、俺の心には少しも響かなかった。
「そして、女性にはモテモテだぞ……」
今まで何を言われても少しも反応しなかった俺の体は反射的にピクッと動いてしまった。いけると思ったのかグレイブさんが畳み掛けてくる。
「ナンパしても町の女なら、その腕輪を見せればほぼ100%成功する。いや町の女どころか、貴族や王族の娘だっていけるかもしれない。とにかくランカーの腕輪は女性を落とす為の最強のアイテムなんだ。そしてもう一つ、男性ランカーには特別な権利がある……」
いつの間にか俯いていた俺の顔はグレイブさんの顔をまじまじと見ていた。
「その特別な権利とは?」
グレイブさんがニヤリと笑う。
「王族が一夫多妻制なのは知ってるよね」
「は、はい。たしか王族の子孫を残す為ですよね。ま、まさか…」
「そうだ。ランカーも優秀な子供を多く作れるよう一夫多妻制が認めれているんだよ」
嘘だろ……そんなことが許されるのか。落ち着け、俺。まとめると、ランカーになると尋常でないくらいモテる、なおかつその中から一人を選ぶ必要がない、ということは夢のハーレム生活。いやいやいや、俺にはルミナがいるじゃないか。ルミナを裏切る訳にはいかない。でもハーレムかぁ……男の憧れだよなー。
その時だった……いきなり目の前のテーブルが激しい音をたてて二つに割れた。隣をみるとルミナが拳を握ったまま立ち上がっていた。
「ルクスぅー、なにニヤニヤしてるのかなー。グレイブさんの悪魔の囁きに毒されちゃったのかなー。ちょっと気持ち悪いからその顔やめてほしいなー。やめないと顔の形が変わるまで殴っちゃいそうだなー」
うっ……これはほんとにルミナなのか?無表情のまま立ち上がり俺をジッと見下ろしている。
「ル、ルミナ、大丈夫だよ。俺はルミナ一筋だから。ルミナを愛してるから、心配することは何もないよ」
「あやしい……」
やばい、愛してるの言葉が全く届いていない。
「だ、大丈夫だって。あっお腹すかない?奢るからご飯食べに行こうよ」
「私がいつも食べ物で釣られると思ったら大間違いよ」
なっ!!あのルミナが食べ物で機嫌が治らないだと……
「ル、ルミナさん、ルクス君は大丈夫だよ。きっとルミナさんだけを…」
「グレイブさんは黙っててください!!そもそもグレイブさんの責任ですからね。反省してください」
「はい!すいませんでした!」
ランカーが女の子に説教されて、謝っている……
「さぁルクス、グレイブさんは謝ったわよ。あなたは謝らなくていいのかしら」
ルミナは腕を前で組み足を広げて仁王立ちしている。威圧感が半端ない。
「ご、ごめんなさい」
「聞こえないわ」
「他の女の子のこと考えてニヤニヤして想像して、ほんとに申し訳ございませんでした!」
女の子一人に謝るランカー二人。どこの冒険者が尊敬の眼差しを向けてくれるのだろうか……
「ふん、今回だけだからね。お詫びに夕食をご馳走しなさい」
……結局ご飯は奢らされるのね。それにしてもルミナがここまで束縛が強いとは。気をつけてないとな。
ルミナが落ち着いたところで改めて三人でソファーに座る。目の前にあるテーブルはテープでグルグル巻きにされ、辛うじてテーブルの役割を果たしていた。
「ルクス君、とりあえずもうランカーの件は諦めるしかない。幸い俺はこの町のギルドマスターだ。ルクス君に手を出すとひどい目に合うと冒険者に言っておこう。この町では安心して暮らすといい」
「助かります……」
さすがに諦めた。今考えたところで解決策はでそうにない。うだうだ言ってまたルミナを怒らせても大変だ。
「よし、じゃあ最後に報酬を払わないといけないな」
ポケットから二枚の紙を取り出した。
「ドラゴンの依頼達成の報酬だよ。これを渡せば君達のスキルを教えてくれるはずだ」
やった!ドラゴンの主になったり、変な二人組のアニキになったりとそれなりに大変だったが報われる。これで6000万ピアとは太っ腹だなグレイブさん。
俺がその二枚の紙を受けとると、手書きの汚い字で【スキルをおしえる券】と書いてあった。紙自体もその辺のメモ帳をちぎったようなものだ。
「グレイブさん、これ本物??」
まさか、騙されてお金とられたんじゃないよな……
「なに言ってるんだ。本物に決まってるだろ。わざわざあいつの家に行って頼んだんだ。さすがに6000万は高すぎだから1000万にまけてもらったが……」
ほんとに大丈夫か!?あの女の人がこんなに大サービスしてくれるわけない。
「いやいや、絶対騙されてますよ。さすがに安くなりすぎです」
「大丈夫だって。プリンちゃんが騙してお金とることなんて絶対ないから」
「プリンちゃん?」
俺が初めて聞く名を呟くと、グレイブさんはハッとして口を押さえた。
「もしかして、あの女の人プリンって名前なんですか?」
「えーなんか美味しそうで可愛い名前ですねー」
「わっ忘れてくれ……名前をばらしたと知られたら確実に嫌われてしまう……」
その後何度もプリンちゃんには言わないでくれとせがまれた。俺達はそれを了承して、グレイブさんの部屋をあとにした。別にグレイブさんは既にスキル教えてもらってるんだから多少嫌われてもいいだろうに。