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負けられない戦い

「ルクス、次なに食べよっか」


 たこ焼き三十六個を五分で食べ終わったルミナは休憩することなくすぐ立ち上がった。やはりルミナのお腹は満足しなかったようだ。また60分並ぶのか…いくらルミナと話してると時間が早く感じると言っても、さすがにもう一回はきつい。


 できるだけ並びが少ない屋台はないかと広場を見渡していたら、若い女性が胸にボードを抱えて叫んでいる。周りの人々もその女性を見るもののすぐに顔を反らしている。


 あまりに必死に叫んでるので、どうしたんだ?何か事件か?と思いボードをよく見てみる。


 【大食い選手権出場者募集中】

 ~アスールで一番食べるのは誰だ~

 大食いに自信のある方は是非参加を!

 あと二名募集中

 賞金300万ピア

 参加費5000ピア


 と書いてあった。


 ん?これはチャンスじゃないか?ルミナがこれに出ればさすがにお腹一杯になるはずだ。もう屋台に並ぶ必要はないはずだ。しかも賞金300万ピア!ルミナならばたこ焼きを食べているハンデがあるが優勝も狙えるかもしれない。俺は迷うことなくルミナに教えた。


「ルミナ!なんか面白そうなイベントやってるよ」


「え?なに?」


「ほら、あれ見てみてよ。大食い選手権だって。出てみないか?」


 俺がボードを持っている女性を指差す。ルミナも女性に気付いてボードを見る。


「大食いかぁ。みんなに見られるんだよねーなんか恥ずかしいなぁ…えっ賞金300万?わっ私出るわ。絶対優勝してやるんだから」


 なんか300万で目の色変わったな…そんなお金困ってるのか?なんか欲しい物でもあるのかな?俺に言ってくれればいいのに。


「頑張ろうね、ルクス」


 …聞き間違えたかな。頑張るね、じゃなくて、頑張ろうね、って聞こえたけど…


「ルクスにだって負けないからね」


 聞き間違えではないようだ…


「なっなんで俺もでるんだよ」


「だって一人じゃ恥ずかしいじゃない。それに募集二人って書いてあるしあの人も助かるんじゃないかな?」


 確かにあの必死さは人が集まらなくて苦労しているのだろう。


「さっ他の人がくる前に行くわよ」


「はぁーい」


 俺はやる気のない返事で返した。


 女性は叫びすぎて疲れたのか、ボードを持ってキョロキョロしているだけだった。ボードを見てる人に話しかける作戦にでも変えたのだろうか。


 俺達が女性に近づくと、向こうもそれに気づいたのか物凄い勢いで話しかけてきた。


「そこのお二人さん、大食いに興味ありませんか。今なら参加費5000ピアで食べ放題ですよ。しかも現在参加者はたったの3名。あなた方が入っても5名です。5分の1で300万という大金が手に入るのです。こんなチャンス二度とないですよ。さぁご決断を。さぁここにサインを」


 どっかの宗教の勧誘や危ないものを売り付ける売人のような勢いだ…しかし何でみんな参加しないんだろ。5000ピアで食べ放題ならそんな損はしないし、勝てれば300万なのに。


「はい、私達参加します。宜しくお願いします」


「ほんとですか?ありがとうございます。これで私もこの仕事から解放されます」


 解放って…相当辛かったんだな…


「ではこれにサインをお願いします」


 俺はペンを借りて、紙に名前を書くときに違和感を感じた。その紙には同意書と書かれていた。内容を読んでみると…


 すべて自己責任の上に食すること。


 無理はしないこと。異変を感じたらすぐにギブアップすること。


 冷やかしでの参加はやめてください。参加したら必ず一皿(300グラム)は完食して頂きます。これを守れなかった場合罰金が発生します。


 の三つの項目が書いてあった。俺は、食べ過ぎて具合悪くなっても知りませんよ、という注意だと思い特に気にすることなくサインした。その瞬間女性がニヤッと笑った気がした。


 まさかこの何気なく書いたサインを後悔することになろうとは…


 俺達は会場に案内された。長い机が置いてあり三人の男性が座っている。出場者だろうか…しかしみんな強そうに見えない。痩せ干そっていてメガネをかけている若い男性、70歳は越えているような老人、ぽっちゃりしているが体が小さい中年の頭の薄い男性の三人だ。まぁ大食いは、見た目じゃ分からないからな。ルミナがいい例だ。


 しかし、思ったよりも観客が多い。結構人気なんだな。


 俺とルミナが空いている二つの席に座ると、観客がざわつきはじめた。何を話しているのか聞こえないが、女の子がでるのが珍しいのだろう。


 真っ赤な服を着た女性が俺達が座っている机の前に立つと、大声で叫んだ。


「さぁ今年もやってきました、ブラン祭大食い選手権。今年は初参加の方が三名もいらっしゃいます。皆様この三名の勇者に拍手を」


 観客が盛大な拍手をしてくれる。たかが大食いなのに、勇者なんて大げさな…ぽっちゃりしている男性も恥ずかしそうにしている。


「ではさっそく始めましょう。料理を勇者達の前へ」


 料理が目の前に置かれていく。そのとき異変に気づく。


 あっ、赤い…


 その料理は真っ赤だった。もはや何の食材をつかっているのか分からないくらい真っ赤だった…


「では、第三十三回ブラン名物トンガラシ料理大食い選手権を開催します」


 ちょっと待って、いま何て言った…トンガラシ料理だと…トンガラシと言えば、この国で一番辛いとされる植物じゃないか。普通スパイスですこーーしだけ入れるものなのに、こんなに入れたら…


 騙された!俺達を連れてきた女性を目で探すが、もういないようだ。参加者が集まらなかったからトンガラシの事を隠していたのだろう。


「る、ルミナ、気を付けて。これ食べると大変な…」


 ルミナの方を見ると、一皿目をすでに半分食べていた。


「あれ大丈夫なの?」


「何が?少しピリッとするけどおいしいよ」


 そうなのか?見た目がヤバイだけでちゃんと美味しく料理されてるのか?メガネと老人の男性もパクパク食べている。俺とぽっちゃりの男性がびびって手を出せずにいるようだ…


 ぽっちゃりの男性も周りを見て勇気が出たのか、一切れフォークで刺して口に運ぶ。


「ごばはぁぁぁぁ辛れぇぇぇー」


 男はたまらず立ち上がり叫んだ。大量の汗が流れ始め一瞬でシャワーを浴びたようになり、席に座り直し水をがぶ飲みしている。


 なんてことだ…やっぱり辛いじゃないか…そっと、舌先で料理にかかっている赤い粉を嘗めてみたら、全身に雷が落ちたような衝撃を受けた。これは食べられない…なんでみんな食えるんだ?たしか一皿は食べないと罰金だったな…いくらなんだろう…払って諦めよう。


「あのぉ罰金っていくらなんでしょうか…」


 恐る恐る司会者に聞いてみる。


「500万ピアですよーだから一皿は気合いで食べてくださいねー」


 なっ!?500万だと…俺の貯金がほとんどなくなるじゃないか。それを聞いたぽっちゃり男性も青ざめている。するとぽっちゃり男性は覚悟を決めたのか、フォークを握りしめ一気に皿の料理を口に掻き込み、水を飲んで流し込んだ。


「ぐうっ」


 と一言発して、座っていたテーブルに顔をうづめて気絶してしまった。


 俺も同じことになってしまうのか…ルミナを見ると既に三皿目に突入していた…  

 


ブックマーク200件突破しました。皆様本当にありがとうございます。これからも頑張っていきます。宜しくお願いします。

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