ドラゴンはどこ!?
ルミナの怒髪天の怒りにより白目を剥いて気絶した密猟者の二人組を、俺たちは黒龍や金龍たちが待つ洞窟前へと連行した。
……と言っても、彼らは全く目を覚ます気配がない。仕方がないので、あの変な話し方の赤龍の背中に二人を雑に荷物のように放り投げ、のそのそと歩いて戻ってきたのだ。
よほどルミナのパンチが強烈だったのか、未だに起きる兆候すら見せない。見れば二人の頬は見る影もなく真っ赤に腫れ上がっていた。……かわいそうに。ていうか、死んでないよな……?
まあ、起きて尋問に答えてもらわないと話が進まない。俺は二人組の肩を思いっきり掴むと、シェイクするようにガシャガシャと揺すってみた。
「んっ……うーん……」
おっ、意識が戻ってきたぞ。
密猟者の一人が薄っすらと目を開け、夢心地の様子で周囲をキョロキョロと見回した。
そして——自分たちが黒龍と金龍という二大巨大竜に至近距離で取り囲まれているという地獄絵図に気づいた瞬間。
「ギャアァァァァァァァッッッ!!!!」
と脱糞しそうな叫び声をあげ、一瞬で再び白目を剥いて気絶した。
……いい加減にしろッ!
◇
それから一時間後。
ようやく完全に目を覚ました二人組は、俺、ルミナ、そして黒龍と金龍に四方を完全に囲まれた状態で、岩場の上に正座させられていた。
ガタガタと生まれたての子鹿のように震えており、今にも泣き出しそうな顔だ。
「お、お前たち……俺たちをどうする気だ……ッ!?」
密猟者の一人が、死ぬほどの恐怖を殺して震える声を絞り出してきた。
俺はわざとらしく口角を吊り上げ、冷徹な悪役の微笑みを浮かべてみせる。
「さぁ? とりあえず、これからのあんたたちの態度次第かな。……あ、ちなみに俺さ、嘘をつく奴って大嫌いなんだよね。もし嘘をついたら……一本一本、爪を剥いで指を折っていこうかなぁ、なんて?」
正直にゲロしてもらうため、少しばかり悪党っぽい脅しをかけてみたのだ。
……と、ふと横を見ると、ルミナが「ひえぇ……」という顔で俺からすーっと一歩距離を取っていた。
(あ、あれ!? ルミナさん? なんで本気で引き気味なんですか!? 脅しだからね!? 俺そんな鬼畜じゃないからね!?)
「じゃあ、俺が質問するから正直に答えてね」
「「は、はいぃぃッ!!」」
「さらった子供のドラゴンたちはどこにいる?」
「し、知りません……ッ!」
(はぁ〜……? 脅しが足りなかったか?)
俺は「しょうがないな」という顔で、男の指を一本グッと掴んでみせた。
横でルミナが「嫌ぁ……ッ!」と言わんばかりにギュッと目を瞑り、両手で顔を覆っている。だから折らないって! 見せかけのパフォーマンスだから!
だが、俺のその冷酷な動作が特効薬となったらしい。男は顔を蒼白にして叫び始めた。
「ほ、ほんとに知らないんだよッ!! 俺たちはその拘束能力を買われて、ロッソの王都で知らない奴に頼まれてドラゴンを獲ってただけなんだッ! 一匹捕まえたら500万ゴールド出すって言うからッ!! 『ドラゴンなら何でもいい』って言うから、捕まえやすそうな子供ばかり狙ってたんだよッ!!」
おー、すんなり全部吐いてくれたぞ。
しかし……またしても『ロッソ』か。ここ最近、嫌な話題でよく耳にする国名だ。
「ちなみに、そのドラゴンを集めている依頼主の特徴は?」
「じ、じいさんだよッ! なんか黒くて怪しい魔法使い風のローブを着てたぜッ!」
もはや何も隠す気がないらしく、立て板に水のごとくスラスラと喋る。
もっと色々と問い詰めようかとも思ったが、よく考えたら怪しいおじさん二人組に聞きたいことなんて特に存在しなかった。
「……主よ、この者たちの処罰はいかがいたしましょうか」
俺の質問が一巡したのを見計らい、黒龍が重厚な声で問いかけてきた。
「んー、どうしよっか? どうする、ルクス?」
「へッ!?」
思わず情けない声が出た。……なんでルミナが当然のように返答しているんだ!?
「我らは新たな『主』のご意志に従いますので」
黒龍が恭しく頭を垂れる。
「困ったわねぇ。人間側には『ドラゴンを捕まえたら罪になる』なんて法律はないし……」
ルミナが顎に手を当て、完全に「ドラゴンの主」として腕組みをして考えている。
……なぜだ!? あっ、あの時かッ!!
ルミナがブチギレて俺に拳を叩き込み、ダウンしたから……あの脳筋ルールに従って『主の座』がルミナに移ったんだッ!!
当のルミナはすっかり主としての立場を受け入れているらしい。たくましいな、おい。
「ねーねー、ルクス。どうしよっか?」
上目遣いで首をかしげて相談してくるルミナ。……くそっ、悩んでいる姿も無駄に可愛いな。
「……とりあえず、こいつらは泳がせておこう。その魔法使いのじいさんの顔を知っているのはこいつらだけだからな。俺たちがロッソへ行く時に案内役をやらせよう。……黒龍も金龍も、それでいいか? 今すぐロッソへ乗り込むわけにはいかないから、少し時間がかかるけど……」
「主の婿どのがお決めになったのであれば、我らはそれに従うのみです」
金龍が素直に頭を下げた。
……ちょっと待て。「主の婿どの」って言ったか!? 婿って!! まだ結婚もしてないのに気が早すぎるだろ!!
「それにもはや、過去に連れ去られた幼子たちも……生きてはおりますまい。これ以上、この山脈に被害が広がらなければ十分です。どうぞ確かな準備を整えてからロッソへ向かわれてください」
金龍の言葉に静かな怒りと悲哀が滲む。こいつも、短期間でずいぶん主の側近として成長したものだ。
「ねぇルクス、ロッソに行くの!?」
ルミナが瞳をキラキラと輝かせて身を乗り出してきた。
あぁ、この顔は絶対に「ロッソの名物料理って何かな〜」とか考えてる顔だ。
「あぁ。でも一応、街に戻ったらグレイブさんにも報告して確認を取らないとな」
「やったぁ〜! 楽しみー!」
ルミナは無邪気に喜んでいるが……分かってるのかな。一応、ロッソ王国って隣の潜在的敵国なんだけど……。
「……おい、お前たち」
「「は、はいぃッ!!」」
俺が声をかけると、密猟者の二人はビシッと背筋を伸ばして従順な犬のようになった。
「とりあえずお前らはそのままロッソの王都へ帰れ。だが、今後一切ドラゴンを捕まえるな。もしあのじいさんに催促されたら『今は警備の目が厳しくて休業中だ』とでも答えて誤魔化しておけ。いいな?」
「「はいッ!!……アニキぃッ!!」」
……ん? 今、なんて言った??
「あ、アニキと呼ばせていただきましたッ! その氷のように冷たい目線と、容赦のない拷問プレイに心が震えましたッ! 俺たち、アニキについていきますッ!」
「いやいやいやいやいや!! 無理無理無理無理無理ッ!!」
俺は全力で手を横に振った。
「やめてくれ! こんな年下のガキに『アニキ』なんて呼ぶの恥ずかしいだろ!? だから頼むからやめてくれ!」
「いえッ! アニキは一生俺たちのアニキですッ! ロッソの王都で首を長〜くしてお待ちしておりますッ!!」
……どうやら俺は、ドラゴンの主という大役から脱した代わりに、怪しいおじさん二人組の「アニキ」へと激しくランクダウンしてしまったようです。
(お母さん……僕……年の離れた弟ができました……)




