グレイブの依頼
次の日の朝、俺とルミナはギルドに向かっていた。今日も雲一つない良い天気だ。
今日は手を繋ながないのかなぁ……昨日は繋いだんだから大丈夫だよな……
俺は勇気を出して、ルミナの手を握ろうとした。
が……手と手が触れた瞬間、ルミナはバッと手を引いてしまった。
「びっくりしたー。もう、やめてよぉ」
えっ……昨日はあんなに手を絡めていたのになんで……たった一日で嫌われたのか? それなら理由がわからない。昨日キノコのクエスト断ったからかな……
俺が一人で落ち込みながらとぼとぼ歩いていると、
「ちっ、違うのよ、ルクス。ほら、今は周りに人がいっぱいいるから恥ずかしいじゃない。昨日は町外れで人もいなかったから……ごめんね」
ルミナは焦ったように説明してきた。そうか、そうだよな。確かにここは大通りで目立つ。付き合ったばかりで恥ずかしいのも分かる。
「いや、俺の方こそごめん。自分のことしか考えてなかった」
「わ、私だって繋ぎたいんだからね。でもどうしても恥ずかしくて……」
その言葉を聞けただけで十分だ。
ギルドに入ると、グレイブとスカルヘッズの三人が揉めていた。
「なんで受けたら駄目なんだ。俺達はS級だぞ。S級のクエストを受けて何が悪い!
スカルヘッズのリーダーらしき人が口を荒げている。
グレイブはハァとため息をつき、
「お前らこの前やられたばかりだろうが。まだ完全に回復してないだろう。それにお前らじゃこのクエストは無理だ」
どうやら、スカルヘッズは受けたいクエストを断られたようだ。
「やってみなきゃわかんねぇだろうが」
さらに声を荒げる。
「おい、さっきからお前は誰に口を聞いているか分っているのか?」
「うっ……」
グレイブが睨みをきかせると、スカルヘッズの三人は後退りする。
「ふん、このくらいで何も言えなくなるようでは話にならんな。おっ、来たなルクス君」
ギルドに入ってきた俺と目が合うと、厳しかった表情が和らいだ。
「おはようございます。なんかもめているようでしたが」
「いやいや、もう解決したよ」
グレイブはそう言うが、相手は納得していないようだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
「待たん! このクエストはルクス君達が受けるんだ。それとも決闘でもしてどちらが受けるか決めるか?」
グレイブが提案するが、昨日敗れた相手を簡単に倒した俺達に敵うわけがないと思ったのか、諦めて帰っていった。
「まったくあれでS級なのだからな。この町の冒険者の質も下がったものだ。まぁ、マスターである俺の責任か……クエストのランクも見直さないといけんな」
グレイブはクエストが貼ってある掲示板を見ながら、ぶつぶつと言っている。
「あのぉ、グレイブさん?」
俺達のことを忘れているようなので声をかけた。
「すまん、すまん。ちょっと考え事をしていたよ」
「いや、いいんですよ。それで俺達に頼みたいというクエストとは?」
グレイブはS級の掲示板の所まで歩き、一枚の紙を指差した。
「これだよ。全くルクス君に見せるために作ったのに、あいつら貼った瞬間受けるとか言いやがって。A級に落としてやろうか」
何気にとても怒っているようだ……マスターだから我慢したんだろうな……それに始めから俺に受けさせたいなら直接渡せばいいのに……
俺は貼ってあるクエストを見た。
S級クエスト
ドラグーン山脈でドラゴンが喧嘩してるようです。今はお互い沈黙を保っているようですが、また喧嘩を始めるかもしれません。このままだと近くの町まで被害が及ぶ可能性があります。解決してきてください。 報酬‥知りたいことを教える券×2
ドラゴンが喧嘩? 解決しろ? どうやってだよ……しかも報酬が……あっ、スキル教えるとか書いたら凶暴なあの人にバレたとき怒られるからか。しかしこの報酬でよくスカルヘッズ受けようと思ったな。なんか知りたいことがあるのだろうか……
「あの、詳しく説明してもらっていいですか?」
「ん? 書いてある通りだろ」
「いやいや謎だらけですよ」
「しょうがないな。ドラグーン山脈はブランから馬車で二日くらい走ったとこにある。ロッソの国境近くだな。この山脈にはドラゴン達が住んでいるのだが、このドラゴンの主は人と話すことができるんだ。そしてこれまでお互い干渉せずに暮らしていたんだが、ドラグーン山脈の近くの町からの報告でドラゴン同士がどうやら仲間割れしているらしい。そんなこと初めてのことだ。だから実際に行って何があったのか調べてほしい。あと解決もね」
うわぁ……確かに大変そうだ。一匹でも手強いドラゴンなのにそれが何匹もいるのか……まぁ、全部倒せと言うならできないこともないだろうが、今回は喧嘩の理由を調べて解決って……無理そう……
「ルクス、大丈夫?」
ルミナもドラゴンが相手だと知って心配なようだ。
「うーん、とりあえず行ってみる? 言葉が通じるなら理由ぐらい聞けるかもだし」
「私、ドラゴンとか会うの初めてだよ……」
ルミナのレベルは百を越えている。この世界のドラゴンがどれほど強いのか分からないが、討伐するにしても十分なレベルのはずだ。今までの世界での話だが……
「あっ、そうそう。倒そうとはしないほうがいいかもよ。強いから。弱い奴でも百レベルくらいの強さはあるから。まぁ、ルクス君なら倒せるだろうが、できるだけ穏便にね」
グレイブが俺の考えを読んだように言ってきた。
甘かった……やはりこの世界は今までよりもほんと難易度が高い……
「よし、ルミナ、とりあえず行ってみようか。もし解決できたら一発で目標達成だ。失敗しても、ランク落ちのリスクがあるだけだし」
「うん、ルクスが決めたなら私も行く。ドラゴン見てみたいし。少しだけ恐いけど……」
「大丈夫。ルミナは俺が守るから」
「うん、信じているよ、ルクス」
ルミナは真っ直ぐ俺を見つめている。
俺とルミナのやり取りを見ていたグレイブが、
「ねぇ、君達なんか進展あった?」
と聞いてきて、ルミナが恥ずかしいのか俯いた。
「想像にお任せしますよ」
ルミナが答えられないようなので、俺が答えた。なんかいいな、こうゆうの。
「いいねぇ、若いって。君達がいない間は、何かあったら私が対応するから。助人も呼んでいるしね。安心して行っておいで」
「わかりました。お願いします」
それにしても助人って誰だろう……
そしてクエストの手続きをして、今日は旅の準備をし、明日の朝出発することになった。
ルクスとルミナが去った後グレイブは、
「クレア、チャンスはなくなったみたいだぞ…」
と独り言を呟いていた。