ルミナの答えと秘密
俺の心臓がバクバク鼓動している。ルミナにこの音が聞こえないか心配になる。祈るように目を瞑り答えを待つ。
「ルクス……私もあなたのこと大好きだよ。私を恋人にしてください」
「えっ?」
祈るように目を瞑ってうつむいていた俺は、バッと顔をあげルミナを見る。ルミナも俺をじっと見ている。
「ルミナも俺が好き……」
「そうだよ。私はずっとルクスが大好きだったんだから。でも私、怖くて全然言えなかった……もしルクスが同じ気持ちじゃなかったら今の関係が壊れるんじゃないかって……でも今日ルクスが気持ち伝えてくれてほんと嬉しかった。本当にありがとう」
ルミナはこれ以上ない満開の花のような笑顔を見せると同時に、目から一粒の涙が流れていた。泣くほど嬉しかったのだろう。
「でもよかったよ。ほんと振られたらどうしようって思っていたから」
「私が振るわけがないでしょ。私の態度で気づかなかったの?」
「いや、だって勘違いってあるから。あの子自分のこと好きなんじゃって思っていても何でもないって事よくあるじゃん」
「よくあるじゃん、って言われても……とにかく私はルクスが好きなの。わかった?」
「わかりました。ではこれからもよろしくおねがいします」
「うん、よろしく。ルクス」
ルミナは何物にも代えがたい笑顔だった。そしてその表情が物凄く可愛かった。たまらず抱きしめようと手をルミナに伸ばすとパシッと手を叩かれた。
「この手はなにかな」
「いや、流れ的に抱きつこうかなって……」
「その流れでそのまま押し倒すつもりでしょ」
笑顔だったルミナは、今度は蛇のような相手を凍りつかせるのではないかという目をしていた。
「いえ、そこまではまだ考えていませんでした」
「ルクス!」
「はい!」
「私、男の人と恋人同士になるのは初めてなの。だからゆっくりいきましょう。ごめんね」
「いや、こちらこそいきなりごめんなさい」
少し落ち込んだようにうなだれていると、ルミナが横に座り、頬に軽くキスをしてくれた。
「今日はこれで我慢して」
俺はあまりに突然のことで何も言えず、キスされた頬を抑えながらコクコク頷いた。
顔を真っ赤にしたルミナは立ち上がり、
「じゃあ今日はもう寝ましょう。明日はスキルを見てもらいたいんでしょ。早く寝て、早く起きなきゃ。おやすみ、ルクス」
「あっ!」
「どうしたの、ルクス。大きい声だして」
「そういえばルミナの話ってなんだったの?」
ルミナはハッとした顔をして、右手で自分の口を押えている。そして何事も無かったかのように、もう一度ベッドの隅に座った。
「忘れていたわ……」
「じゃあ次はルミナの番だ。どんな話?」
「なんか話しにくくなっちゃったな。うん、でもルクスも勇気だして告白してくれたから私も勇気だす。話聞いても嫌いにならないでね……」
「うん、大丈夫。どんなことがあっても俺はルミナを嫌いになんてならない。約束する」
「そ、そう。ありがと」
恥ずかしいのか顔を伏せてしまった。
「よし、じゃあ話すね」
伏せていた顔をあげ、俺の目を見て話を始めた。ルミナの顔は先ほどまでとは違い真剣そのものだ。
「私達が以前盗賊に襲われたときのこと覚えている?」
「あぁ、覚えているよ」
「震えていたよね。私、本当は盗賊が怖いの。今は前より強くなったし、その辺の盗賊になんて負けないと思うんだけど。それでも私は盗賊が怖い……」
ルミナは自分の腕で震える体を押さえている。
「なにかあったのか?」
俺はできるだけ優しくルミナに尋ねる。
「私はね、実は兄がいるの……」
「あっ、前に寝言で言っていた」
「そうだったね。あの時は誤魔化したけど、十歳年の離れた兄がいるの。私には優しくて、とても強い自慢の兄だった……けどある日理由も分からず家を飛び出した。そして次に兄を見たのはギルドにある手配書の中だった。その手配書に書かれた兄は恐ろしくて、残忍な絵だった。そして兄が行った罪の数々……それを見た瞬間全身が恐怖で震えて、失望で体の力が抜けたわ」
「つまりお兄さんが盗賊になったってこと?」
ルミナは軽くうなずいた。
「そう。それ以来私は盗賊を見ると手配書の兄を思い出しちゃう。そして体が思い通り動かなくなるの」
「そっか。ちなみにそのお兄さんの名前は?」
「炎帝ジェガル」
「え、えんていジェガル!」
俺でも聞いたことがある。たしか炎の魔法を得意とし、襲われた村や町は灰になり何も残らないという。さらに今まで数々の冒険者が討伐に向かったが全て返り討ちにされ、どっかの国のランカーの一人とも互角で捕まえることはできなかったっていう……
「驚いたでしょ。だから私は強くならないと。あの炎帝と呼ばれる兄を倒すことができるくらいに。私の家族は兄と私以外みんな死んじゃったから私が止めなきゃ。それが私のやるべきことなの」
いつの間にかルミナの体の震えは止まっていた。
「そうだったのか。でもルミナはどんどん強くなっているよ。いつかお兄さんも超えられるさ」
「ルクスに出会ったおかげだよ。ルクスっていう身近に憧れの存在がいるから私も成長できていると思うんだ。でね、いつか兄を倒せたら人が人を殺す世の中じゃなくて、人と人が助け合う世の中を作りたいな。戦争なんてなくなって、全ての国が手を取り合うの。すごいと思わない?」
「たしかにすごいけど……できるかなぁ」
今までどんな世界も争いを止めなかった。俺もそう考えたこともあったが一人では止められなかった。止めるために争い、皆傷ついていった。もうそんなことはとうに諦めていた。でもルミナとならもしかして……淡い期待を振り払うことはできなかった。
「できるよ。私だけじゃ無理かもだけどルクスがいるもん。二人なら少しでもそんな世界に近づけるんじゃないかな」
「そうかな」
「うん、きっと大丈夫。頑張ろう。でもまずはこの国を守らなきゃ。なんか全部話せてスッキリした。ほんと今日はいい日でした。ルクスの誕生日は祝えたし、話したいことは話せた。あと何よりもルクスと恋人同士になれた。本当に幸せだよ。ありがとう。じゃあ今度こそおやすみなさい」
そう言うと立ち上がって自分の部屋に帰っていった。帰る時に扉の前で振り返りバイバイと手を振るのが可愛かった。
今日はルミナの言う通りいい日だった。人生最良の日だったかもしれない。恋人なんていつぶりだろうか。今までの九十九回で1回だけあったかな……他の九十八回では恋人すらいなかったのか……俺は今までそうとうモテない人生を歩んできているのである。