掃除しなきゃ
俺達はフドーサン屋の人に新しい住まいを案内してもらった。場所は出来るだけギルドに近いところにしてもらった。今は特に気にするクエストがなかったが、いつ出てくるかわからない。クエストは毎日確認するつもりなので、あまり遠いと面倒だったのだ。
新しい住まいは一般的な家と比べさほど変わりない大きさだった。プラシアで暮らしていた家と同じくらいか。二人で住むには十分だった。いや広すぎるくらいだ。中は特に古いという感じはないが、ほこりや汚れがひどい。台所やお風呂はあり、必要なものは揃っているようだが一度大掃除が必要だな。
これで一日三千ピアらしい。十日おきに支払いに行けばいいらしいが面倒なので、とりあえず先に百日分支払っておいた。ちなみに家を購入するためには三千万ピア必要らしい。まぁ、そんな金ないし、一生この町に住むわけではないので、借りるので十分だろう。
フドーサン屋の人は家の説明を終えると、鍵を二つ渡して帰っていった。
ルミナと二人きりになった……緊張を紛らわす為に家の中をうろうろしていた。情けないなぁ……俺。
「ルクス、買い物に行きましょう。必要なものがいっぱいありそうね」
たしかに宿屋とは違い何もない。寝る布団もなければ、食事をとる食器もない。食器を置く棚もない。うーん、大変だ……
「そうだね。でもその前に掃除かな。ほこりがひどすぎて新しく買ったものも汚れるよ」
「そうね、とりあえずギルドに行かない? クエストで掃除の依頼とか出したら楽にならない?」
「おー、それはいいアイデア。たまには良いこと言うね」
「なによ! たまにはって」
F級にはお使いや、お留守番、犬の散歩など様々なクエストがあるのだ。成り立ての冒険者は普通こういったクエストをこつこつとこなしお金を貯め、装備を揃えるのだ。俺はアルスのお陰でそういったことは必要なかったが……少し報酬を良く設定すれば、掃除でもすぐに集まるだろう。
ギルドに行くと、職員が向こうから話しかけてきた。
「いやぁ、ルクスさん、ルミナさん、昨日はありがとうございました。お陰でギルドの被害も壁一枚で済みました」
「あいつらは俺達を狙っていたみたいなので当然ですよ。むしろ申し訳ございません」
「いえいえ、でもあれはギルドマスターが悪いですよ。言わなきゃ分からなかったのに」
そう言ってもらえるとありがたい。
「たしかにそうですね。じゃあ壁の請求もグレイブさんにしときましょうよ」
「ははっ、そうですね。ところで今日はどんなクエストを受けるので? 探しているようなS級クエストは無いようですが……」
「今日は依頼を頼みにきたんですよ。新しい家を借りたんですが、掃除に人手が必要なので頼みたくて」
「ほうほう。掃除ならばF級ですね。報酬と人数はどうします?」
「三人ぐらいで、報酬は一人五千ピアで」
普通、家の掃除だったら三千~四千ピアってところだろうが、あまり待ちたくなかったので、すぐ受けてもらえるように高く設定した。
「それは太っ腹ですね。すぐに集まることでしょう。しばらくお待ちください」
そう言うと、職員は奥の部屋に入っていった。
十分もしないうちに職員は三人の冒険者を連れてきた。皆子供だ。冒険者成り立てだろう。男の子二人に、女の子一人のパーティーのようだ。
「はじめまして、パーティーリーダーのゴンです。こちらはベンとアンナです。今回は宜しくお願いします」
三人は深々と一礼する。まだ子供なのにしっかりしている。
「こちらこそお願いします。ルクスです。こちらはルミナです」
ルミナも礼をする。
「あなた達おいくつなの?」
ルミナが笑顔で尋ねる。
「三人とも十三歳になりました。ランクはE級になったばかりです」
ゴンが代表して答えている。
「へぇ、ルクスより二つ下ね。いいの? これはF級よ」
「はい。F級にしては報酬も高いですし、憧れのルミナさんのお手伝いができるなんて幸せです」
ゴンは興奮しているようだった。ほかの二人も同じようにキラキラした目をルミナに向けている。
「あ、あこがれ? わたしに?」
「はい! 昨日の戦いを見ました。すごかったです。スカルヘッズさん達を簡単に倒した相手を一撃で倒すなんて」
「そんな、私なんてまだまだだよ。ルクスの足元にも及ばないし」
「そ、そうなんですか」
俺にも一層キラキラした目を三人が向けてくる。うっ、俺には眩しすぎる汚れをしらない目だ。
「ま、まぁまぁ。今日はよろしく頼むよ」
「「「はい」」」
まぁ何にせよ、やる気満々な人が受けてくれてよかった。