【赤き竜】
「やぁ、はじめまして。私はグレイブ=ガーランドだ。君達のことはクレアから聞いているよ」
「はじめまして、私はルクスといいます。プラシアから来ました。現在はA級冒険者です」
「あっ、はじめまして。ルミナです。しゅ、出身はサンドラですが、今はプ、プラシアに住んでいます。私もA級です」
互いに自己紹介をおこなうとグレイブさんが、ふふふと笑いだした。
「そんな緊張しなくても大丈夫だよ。とりあえず奥の客間に行こう。色々と聞きたいこともあるしな」
俺はそれほど緊張してなかったが、ルミナはガチガチになっていたようだ。
客間に入ると、パーティーができそうなくらい広い部屋が飛び込んできた。広い部屋にぽつんと四人だけが座っている。俺がキョロキョロ部屋を見渡していると、
「いやぁ、すまんね。こんな広いと落ち着かないだろう。この部屋より狭い部屋はなくてね」
どれだけ広いんだよ、この家は!
「さて、いきなりだが本題に入ろうか。クレアから聞いているだろうが、今アスール国は危機に瀕している。強力な魔物により同盟国及び、アスール国内の町が様々な被害を受けているのだ。魔物はS級以上の冒険者で対応できてはいるが、確実に国力は落ちていっている。いくらS級とはいえ、強い魔物と戦えば負傷もすれば死んでしまうこともある。それなのに魔物は次々にでてくる。正直、人手が足りないのだ。このままだと他国に攻められたとき対応できるか分からん。私は他国の策略だと考えているが、しかし証拠もない」
「はい、それは聞きました。俺たちはその強力な魔物を討伐するお手伝いをすればいいんですよね」
「あぁ。とりあえずこのブランの町を拠点にして、クエストが発生するのを待っていてほしい。しかし、ほんとにまだ若いな。いや、実力を疑っているわけじゃないんだ。クレアからもガザンであったことは聞いたのでな。しかし、どれほど強いのか興味はある」
あーきた、きた。私と戦って実力を見せてくれってやつね。まぁ俺もランカーとやらの実力を知りたかったから別にいいんだけどさ。それにしてもクレアさんといい、ガーランド家の人間は強さを試さずにいられないのかなぁ。そんなことを考えていると、廊下でバタバタと誰かが走ってくる音が聞こえた。そして部屋がノックされた。
「ちょっとすまん。いいぞ、入れ」
「お話し中、申し訳ございません」
メイドが慌てたように部屋に入ってきた。
「どうした何かトラブルか?」
「はい。ギルドの方でトラブルです。他国の冒険者が乗り込んできて暴れているようです」
「他国の冒険者? それは珍しい。なぜブランのギルドに?」
「いえ、それは分かりません。ただこの町で強い冒険者を出せと」
「ふぅ、全く迷惑な。すまんな、ちょっと行ってくる。一応俺はギルドのマスターも任されているのでな。少し待っていてくれ」
お忙しい人だ。
「私も行きます」
ルミナが手を上げて立ち上がった。
「お、おい、ルミナ。おとなしく待っていようよ」
「だってランカーの力が見られるかもしれないのよ」
ルミナは興奮していた。これ行ったら俺たちが戦わされて試されるパターンだって、きっと……
しぶしぶ四人でギルドに入ると、いかにも悪そうなスキンヘッドの三人組と好青年といった冒険者の三人組が向かいあっていた。周りには負傷した冒険者達が倒れていたり、治療を受けていたりしている。スキンヘッドにやられたのだろう。
「おい、いい加減にしやがれ! 俺達【スカルヘッズ】が相手してやるから、暴れんな」
ん? あぁ、スキンヘッドの三人組がブランギルドの冒険者か。まったく紛らわしい。
「お前ら強いのか? ガザンへは最近いったか?」
三人組の真ん中に立っているリーダー風の男が口を開いた。
「ふんっ、俺達を知らないのか。今までクエスト失敗知らず。昨日S級に上がった期待のルーキー【スカルヘッズ】とは俺達のことだ。今までやられた雑魚とは違うぜ。ん、ガザン? そんなところわざわざ行くかよ」
「そうか、違うか。だが一応はS級。将来邪魔になるかもしれないな。消しておくか」
男はぼそぼそ呟くように話していた。おそらく周りにいるほとんどの冒険者は聞き取れなかっただろう。俺にも何とか聞き取れたぐらいだからな。ちなみにレベルが高いと五感もどんどん鋭くなる。いや集中力が増すというのか。遠くを見ようと普通より見えるようになるし、匂いを探そうとすると犬並の嗅覚を発揮できる。グレイブさんを見ると険しい顔をしていた。さすがにランカーは聞き取れたか。しかし、ガザンっていったか? 探しているのは俺達なのか。
「おい、こっちは名乗ったんだ。そっちも名乗るのが礼儀だろう」
「我々は【赤き竜】」
ギルドの職員が急いで【赤き竜】の情報を探し始めたようだ。
「ありました。ロッソ国の冒険者です。ランクはC? ですね」
意外なランクにギルドの職員も困惑していた。ランク=強さというわけでもないのだが普通はランクが高いほど強いと認識され、逆に低いと弱いと思われがちだ。
「はっはっは。Cランクかよ、お前ら。今なら謝れば許してやらんこともないぞ」
相手のランクを聞いて【スカルヘッズ】は急に余裕を持ち出した。こいつらランクで強さを図るなんて大したことないな。
「いいから早くこい」
【赤き竜】はやる気である。
ちなみに同盟国でもない他国との争いに決闘は適応されない。いちいち決闘していたら戦争時など大変である。
「バカヤロウ。こんなところで戦えるか。外出ろ、外」
「めんどくせぇ」
【赤き竜】のリーダーの左に立っていた一人がそう言うと、
「ブレス!」
口から突風を出しスカルヘッズの三人を吹き飛ばし、壁を突き破って外に出した。
「おい、勝手なことをするな」
「いいじゃないっすかぁ。外に出る手間省けたでしょ」
なんだ、今の……ぶれす? 魔法か? 長いこと生きてきたが初めて聞いたぞ。だがどっかで見たことある気がするのだが……思い出せない。
「グレイブさん、今のなんですか?」
「いや、私にもわからん」
なるほど、この世界固有の魔法というわけではないようだ。
吹き飛ばされた三人は打撲などの負傷はしているようだが、まだ戦闘不能とまではいかなかったようだ。ゆっくりと立ち上がる。
「くっ、なんだ、今の技は……」
「あれ? まだ元気みたいだね。じゃ、次は俺だね。いいでしょ、レイ?」
リーダーの右に立っていた男が初めて口を開いた。リーダーはレイというらしい。
「しょうがないな……」
「やった。じゃあちょっと強いやついくから耐えてよ、ライトニングクロー」
拳を三人に向かって振るうと帯状に電撃が走る。【スカルヘッズ】の三人はまともに攻撃を受けてしまう。
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」」」
三人は体から煙を出しながら、糸の切れた人形のように崩れる。今度は立ち上がることなく、ピクピクと僅かに動いている。よかった、死んではいないようだ。しかしまた聞いたことのない技だな。
「ふん、S級とはいえアスールの冒険者は所詮こんなものか。さて、止めを刺すか」
レイがそう言うと、いつの間にか俺の隣を離れて、間にグレイブさんが入っていた。
「ここまでにしてもらおうか」




