ガザンの秘宝!?
俺は魔力を使い果たしたルミナを背中にのせ炭坑を歩いている。
「ごめんねぇ、ルクス」
「いいよ、いいよ。でもビックリした。まさか究極魔法を使えるようになっているなんて」
俺は衝撃を受けた。自分が究極魔法を使えるようになったのはいつの頃だろうか。はっきりとは覚えていないが転生十回目は越えていたと思う。それをルミナはわずか十六歳で使ってしまったのだ。
「えへへ、ゴーレムを倒したときのルクスが格好よかったから……私もできるようになりたいなって思っていたんだ。少しはルクスに近づけたか、な……」
背中から寝息が聞こえる。疲れ果てて寝てしまったようだ。
クレアは一人考えていた。ルクスとルミナの二人の力はよくわかった。いや、ルクスはまだ本気など少しも出していないだろう。それでも十分過ぎるほどに強い。もしルクスと戦うことになれば、どんなに策を労しようとも無駄に終わり一撃でやられてしまうほど格が違う。
ルミナもまた普通ではない。おそらくケルベロスとの戦いでは全力で戦ったのだろう。今も精根尽き果てて寝ているくらいだから。ルクスの助けがあったにしろ、S級レベルはあるケルベロスをほとんど完封していた。それに最後の究極魔法……私もいまだに扱うことのできない魔法……
クレアは自信を失っていた。今まで負け知らずに生きてきた。もちろん父や、幼いころに指導してくれたS級冒険者に負けたことはあるが、同じ年代では男、女関係なく負けることはなかった。しかしルクスとルミナはまだ十五歳と十六歳。そんな年下の子供に負けを認めざるをえなかった。
だがクレアは悔しさこそはあるが、ルクスとルミナとの出会いに感謝していた。この二人がアスールにいてくれてよかった。この二人がいれば将来どんな魔物が現れても、万一他国が進行してきてもアスールが滅ぶことはないだろう。いやむしろ今は膠着状態にある三国のパワーバランスを崩すことができるだろうとも考えていた。逆に他の国に二人がいたらと思うとゾッと寒気がした。
(なんか難しい顔しているけど、どうしたのかなぁ……)
俺はケルベロスを倒してから一言も話さないクレアが非常に気になっていた。むしろお互い何も話さずただ歩いているのがすごく苦痛になってきた。
(うわっ、今度は何かニヤニヤしだした。何考えているんだろ……)
なんか怖いので、なんとか話題をつくろうと必死だったが、なかなか話題がでてこない。
「あのぉ、クレアさん? ニヤニヤしてなんかいいことあったんですか?」
「えっ、あっ…ニヤニヤなどしてない!」
「あっ、そうですか。なんかすいません」
今度はムスッとした顔になった。なんか怒っているようだ。よくわからん。もう町に着くまでそっとしておこう。
ガザンの町に着いたところで、ちょうどルミナが目を覚ました。
「あっ、私寝ちゃった? ごめんね、ずっと背負ってもらって」
申し訳なさそうに謝ってくるルミナを、ゆっくりと下ろす。
「このくらい大丈夫、大丈夫」
実際ルミナはよく食べるが全く太らない。むしろスマートだ。このくらいなら何時間でも背負うことはできる。しかし助かった……クレアとの沈黙はこれ以上耐えられなかった。ルミナがいればこの空気も変わるはずだ。そう考えていると、
「きゅうぅぅぅぅー」
とかわいらしい音が聞こえてきた。恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてお腹を抱えルミナがうずくまる。
「お腹すいた……」
「ぷっ、あっはっはっはっはー」
クレアは笑いを堪えられずに噴き出してしまったようだ。
「もう、クレアさん笑いすぎです」
「いやー、すまん、すまん」
さすがルミナ。空気が一気に和らいだ。
「じゃあ、まずネモさんに報告に行ってから飯にしよう」
と、俺がすかさず提案する。
「うん、それがいいだろうな」
「そうと決まれば早くいこう」
三人の意見が揃ったところでネモへの結果報告に向かった。役場にいくと誰もいなかったので再びルミナが大きな声で呼んだ。
「ネモさん、いますかー?」
奥で物音がした。少し待つと、ネモが奥の部屋から出てきた。ご飯でも食べていたのだろう。頬に食べかすがついていた。
「はい、どうしました? 今から炭坑に向かわれるんですか? お気をつけて」
ネモがずれたことを言っている。まぁ、こんなに早く戻ってくると思わなかったのだろうな。
「いや、もう炭坑に行って魔物を倒して戻ってきたんですよ。あと頬にご飯粒ついていますよ」
「えっ、あっ、もう倒した? えっ、ご飯粒、えっ、あっ……」
ネモは動揺しすぎてか、最早何を言いたいのかわからない。
「落ち着いてください。もうこれで炭坑を邪魔する魔物はいません。これで町を復興できますね」
「はい。ほんとにありがとうございました。早速炭坑夫達を呼び戻します。これで町の活気も戻ることでしょう」
「では私達は急いでいますのですぐに町を離れます。また同じ事が起こるかもしれないから、今度はしっかりギルドに依頼するんだぞ」
クレアがそう言うとすかさずルミナが、
「すぐじゃないですよ。ご飯食べてからですよ」
と抗議する。
「えっ、あぁそうだったな。すまん」
ほんと町に着いてからご飯のことばかりだな。ルミナの成長は著しい。レベルもどんどん上がっている。しかしそれと比例して食欲もどんどん増加している気がする……食べれば食べるほど強くなるってことないよな……
すぐにでも町を離れると聞いたネモは、
「そうですか。町の恩人達に何かお礼をしたいのですが……知っての通りお金はありません。なので、ちょっとだけ待っていてください」
と言って奥の倉庫のような所に入っていった。ガタガタバタバタと何か探しているようだ。それが静かになりネモが戻ってきた。
まさかそれが大事件を起こすことになろうとはまだ誰も気づいていなかっただろう……
「よかったぁ。あった、あった。我が町に伝わる秘宝なんですが、これを装備すると全てのステータスが十%アップするという代物なのです。冒険者の方々には絶対必要な者だと思います。是非受け取って下さい」
おぉ! それは凄い装備だと思い、ネモが持ってきたものを見るとバッタのような顔をしたお面がそこにあった。えっ……なんか気持ち悪い。え……これを装備したら仮○ライ○ーになってパワーアップするってこと。いくら強くなるっていっても十%ごときでは装備する気がおきない。皆の顔を見てみたが女性陣はあからさまに引いていた。
「ただ気をつけて下さい。一回装備すると三日は外れないので。クエストが長引くときにオススメですね」
うん。もしステータスが三十%上がってもいらないですね。丁重に断ろうと思ったが、断るのは悪いと思ったのかルミナが俺を売った。
「これルクスに似合うんじゃないかな。今回、魔物にトドメを刺したのはルクスだしね。ルクスが頂くべきだよ」
「そうだな。これはルクスが頂くべきだ。そもそも私は見ていただけだから受け取る資格はないからな」
こいつら俺に押し付ける気か……それなら俺にも考えがある。
「いやいや、こんないいものを皆から譲ってもらうなんて悪いよ。でもみんな優しいから誰が貰うかなんて決められないよね。あとから何かゲームをして決めようか」
「おぉ、それはいいですね。お面が三つあれば良かったんですが。ではとりあえず年長者のクレアさんに預けておきますね。はい、どうぞ。あっ、ちなみに捨てたりすると呪われるみたいなんで気をつけてください」
うわっ、こいつ最後に凄いこと言いやがった!!
「あ、ありがとう」
クレアさん、顔がひきつっていますよ。気持ちは分かるけど年長者なんだから、嬉しそうな演技してください。
俺達は酒場のテーブルの真ん中にバッタの仮面を置いて席についていた。
「ルクス、ゲームと言っていたが何をやるんだ」
クレアが宿敵を見るような目をして聞いてきた。絶対受け取りたくないんだろう。
「はい。ゲームと言っても早く王都へと行かなくてはなりません。なので、手っ取り早く終わるゲームが良いと思います」
「ほう。しかし、私はゲームというものに疎いのだ。なにかいいものがあるのか?」
「私もあまり知らないよー」
ふふふ、これはもらったな。おっと、顔に出ないように注意しなければ。
「いいゲームがあります。それはじゃんけんです」
「「じゃんけん??」」
そう。この世界には【じゃんけん】がないのだ。
「はい、じゃんけんです。ルールも簡単ですし、勝負も一瞬でつきます」
「ほう、いいじゃないか。どんなゲームなんだ」
ルクスはじゃんけんのルールを二人に説明した。これが所詮運のゲームと教えないまま。
「確かに簡単だな。それでいこう」
「私も大丈夫だよ」
よし、計画通りだ!
「じゃあいきますよ。じゃん・けん・ぽん!」
パー、パー、グー。
一瞬で勝負はついた。もちろんグーを出して負けたのは……
「なっ、なんてことだ。まさか、私が負けるなんて……」
「ごめんなさい、クレアさん」
ルミナは申し訳なさそうに、仮面をクレアの前に置く。ルミナも相当この仮面を嫌っているみたいだな。
「まぁ、決まってしまったことは仕方ないですね」
全てがうまくいき肩の荷が下りた感じだ。
「な、なぁルクス、相談がある……」
クレアが声を絞り出すように言ってきた。
「なんですか?」
「もう一回だけやらないか? もしやってくれるなら、王都に着いたら一番有名なデザートがある店でいくらでも奢ってやるから」
「えっ!」
やはりルミナが反応した。
「しょうがないですねぇ、クレアさんは。本当に最後ですからね。いいよね、ルクス」
クレアさん、そんなに嫌か……ルミナの大食いを知ってなお、いくらでも奢ると言うなんて……
「じゃあわかりました。ほんとに最後ですからね」
「わかっている。ガーランド家の名にかけて、二言はいわん」
うわっ! とうとう家名まで出しちゃったよこの人……
「じゃあ、いきますよー。じゃん・けん・ぽん」
チョキ、チョキ、パー。
「ま、また負けた。またもや負けた。何故だ」
頭を抱えて、テーブルに伏せている。間違いない、クレアさんは運が悪い!
クレアは何も言わず無表情のまま仮面を手にして、ボックスの中にしまった。この後クレアは多くの強敵と戦うことになるのだが、この仮面を決して取り出すことはなかったという。