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犬?犬なの?

「炭坑に居座っている魔物とは、犬の魔物のようです」

「「「いぬ?」」」

 俺達は犬と聞いて同時に驚いた。犬ってあの犬だよね。町中で散歩とかしている犬だよね。

 ネモは表情を変えず、話を続ける。 

「もちろん只の犬ではありません。口から火を吐くのです。しかも三匹いるそうですよ」

「そっ、そうですか」

 三匹いるのは厄介かもと思いつつも、俺はここまでの話を聞く限り、たいしたことはないのでは? と考えてしまう。そして気になったことをネモに尋ねていった。

「誰かその犬と戦ったものはいないのですか?」

「前にガザンをホームにしていた五人のB級冒険者パーティーが皆さんと同じように格安で討伐へ行ってくれたのですが、一人しか戻って来ませんでした……」

「その一人は今どこに?」

「この町に着いたときにはすでにボロボロで……次の日には力尽き亡くなってしまいました。あのパーティーは本当に良い方ばかりだったのに。あなた方もまだ少ししか話をしていないが良い方々だと分かります。しかもまだ若い。決して無理はしないでください」

「俺たちは大丈夫ですよ。大船に乗った気でいてください」

 しかし惜しいな。その人が生きていれば、どんな魔物かはっきり分かっただろうに。五人のB級冒険者が全滅か……やはり見た目が犬でも強敵なんだろうな。でもルミナもゴーレムと戦ったときから随分成長した。今の力ならあのゴーレムでもきっと倒せると思う。それに今はこの剣もある。サンドラの時のように折れることもないだろう。実際、この剣を受け取ってから三年、様々な魔物と戦ってきたが、刃こぼれ一つ起こさない。切れ味も物凄くどんな魔物も一刀両断してきた。

「はい。無事をお祈りしております」

 ネモとの話が終わると三人は酒場に行き今後の予定を話し合った。

「幸い、炭坑はこの町から近い。すぐにでも向かおう。王都に行くのをあまり遅らせたくないし。大丈夫か?」

「大丈夫です。私はいつでも準備オッケーです」

「俺も大丈夫です」

「よし。ネモは見た目が犬だと言っていたが、恐らくそんな甘い相手じゃないだろう。三匹いると言っていたな。もし連携をとってくるようなら厄介だ。落ち着いて一匹ずつ倒していくんだ」

「はい!」

 ルミナは元気よく返事をしているが、何か表情がすぐれない。

「どうしたルミナ。何か不安なことがあるのか?」

「えっ、うん、ちょっと……」

 ますます不安そうな顔をする。どうしたのだろうか。やはりA級以上の魔物と戦うとあって緊張しているのだろうか。自信がないのだろうか。

「ルミナ、不安なことは話してくれ。俺が助けられることもあるかもしれないから」

「その通りだ、ルミナさん。何かあるならパーティーで共有しないと予期せぬトラブルが起こるぞ」

 クレアさんも心配している。

「う、うん。犬の魔物って可愛いのかな?」

「「えっ……」」

「可愛かったら、切る自信ないかも……もしチワワみたいに小さかったらどうするの? 柴犬みたいに毛がふさふさだったらどうするの?」

 ルミナは犬好きなのだろうか……初めて知った。聞いた事がない犬の種類が次々にでてくる。もしも二人で暮らすようになったら犬を飼うのもいいかも。いやいやルミナは今、冗談ではなく真剣に悩んでいる。変なこと考えている場合か。

「ルミナ、たぶん大丈夫だよ。今まで可愛い魔物なんて見た事ないし。クレアさんは見たことあります?」

「い、いや、私もないな。魔物が可愛いなんて想像したくもない」

「そ、そうだよね。私、頑張るよ。いつもみたいにサポートよろしく」

「お、おう、頼んだぞ」


 三人は酒場を出るとすぐに炭坑へ向かった。俺とルミナが前を歩き、後ろからクレアが付いていく形だ。ルクスとルミナの背中には黒と白の剣が差さっている。ちなみに剣はボックスに入れていない。普段から重さに慣れておかないと、いざ使うときに違和感を覚えるからだ。

「よく見るとあの剣なかなかの業物だな。たしか剣同士が近くにあるほど能力が上がるとか言っていたな。ふふっ、二人にお似合いというわけか。でもまぁ私の剣も負けてはいないぞ。なぁ雷切」

 クレアは腰に差した愛剣をなでながら呟いていた。

「なぁ、ルミナ」

「なに、ルクス」

「なんかクレアさん、ぶつぶつ言いながら剣を撫でているんだけど……」

「だね、大丈夫かな」

 二人でヒソヒソと話していると、

「おい、言いたい事があるなら聞こうか」

 やばい、ばれていた。

「「すいません」」

「いや、まぁいい。しかし真面目な話、君たちは自分の剣には銘をつけないのか。その場限りの装備なら必要ないと思うが、その剣は違うだろ。長年共にするならば銘をつけてやれ。剣は自分を助けてくれる相棒だ。剣にもしっかり愛情を注いでやるんだぞ。まぁこれは私も父に言われたことなんだけどな」

 たしかに今までこの剣に銘なんて付けてなかったな。普通に黒の剣とか白の剣とか呼んでいたし。クレアさんの言う通りこれからもずっと一緒にいる相棒だ。考えておこう。ルミナも真剣にクレアの話を聞いているようだった。

 そろそろ炭坑に着こうというときにルミナが話しかけてきた。

「ねぇ、ルクス。さっきクレアさんが言っていたことなんだけど……」

「んっ? あぁ。剣の銘の話か?」

「うん。もしルクスがよかったらなんだけど、落ち着いたら一緒に考えない? 王都に着いてからでもいいんだけど」

 頬を紅葉のように赤くして聞いてきた。

「そうだな。じゃあそれまでにお互い候補の名前を考えておこう」

「うん、わかった。かわいい銘を考えるね」

 ルミナはうれしそうだ。しかし剣にかわいい銘と言うのは如何なものだろう。

「よし、炭坑に着いたな。油断するなよ。いつ襲ってくるかわからないからな。警戒しておけ」

「はい、でもやっぱり中は暗いですね。暗いのは苦手なんですよね」

 ルミナは怖いのか俺の袖をギュッと握っている。

「ちょっと、待っていて」

 俺は右手を上にかざした。

「ライト」

 唱えると周囲一面が明るくなった。いや炭坑一帯が明るくなった。普通ライトという光の初級魔法は自分の周りせいぜい二、三メートルを明るくする魔法なのだが、俺の魔法は制御しなければ規格外の威力を発揮する。もうクレアには実力がばれているようなので力を隠すのが面倒くさくなっていた。

「ありがとう、ルクス。もう大丈夫」

 そう言うと、ルミナはパッと袖から手を離した。しまった……もう少し暗くしておけばよかった。俺は少しだけ後悔した。



 




 

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