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何度目の転生だろうか……おっ、ちょうど100回目か♪  作者: Kuran
第一章:出会い

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いま旅立ちのとき

 ルミナが「今はお腹いっぱいで1ミリも動けない……」と情けない顔で言うので、クレアさんとは3時間後に闘技場で待ち合わせということになった。


 とりあえず一旦自宅へ戻って部屋で休んでいると、いつもの普段着に着替えたルミナが、どこか不安そうな表情で訪ねてきた。


「ルクス……私、大丈夫かな? さっきはS級の人と立ち会えるって浮かれちゃったけど……もし認めてもらえなかったら、私だけ置いていかれちゃうよね……急に心配になってきちゃった……」


 ルミナはベッドの端にちょこんと腰掛け、小さな声で胸の内を漏らした。


「安心しろって、ルミナ。普通にやれば、お前はS級にも引けを取らない実力があるんだから。いつも隣で見てる俺が保証するよ」


 クレアさんの本当の強さは分からない。だが、A級のゴランの動きを見る限り、ルミナが負ける要素は微塵もなかった。普段通りに戦えば圧倒的に勝てるはずだ。


「そっかぁ……! うん、私、一生懸命がんばるね! 元気出た、ありがとうルクス!」


 いつもの明るい笑顔を取り戻し、ルミナは元気に部屋を出て行った。



 約束の時間になり闘技場へ向かったが、そこにクレアさんの姿はまだなかった。


「まだ来てないみたいだな」


「そうだね。……ねぇ、ちょっと体を動かしたいから、いつもみたいに付き合ってよ!」


「あぁ、いいよ」


 俺たちはボックスから木刀を二本取り出し、中央で向かい合った。クエストがない日はこうして実践形式の模擬戦を行い、対人戦の感覚を磨いてきたのだ。


「よし、本気で来ていいぞ」


「うん! 今日こそ一撃当ててみせるんだから……いくわよっ!!」


 ――【疾風あらし】が吹いた。

 目にも留まらぬ踏み込みで俺の死角へと潜り込み、横一文字に木刀が薙ぎ払われる。常人が受ければ骨ごと砕け散る重攻だ。俺は木刀を垂直に立て、間一髪で受け止める。だが、ルミナの連撃は止まらない。


 右、左、上段、下段――まるで猛吹雪のような速度で連続斬りが繰り出される。これこそが、このスピードこそが彼女が『白の疾風』と恐れられる所以だ。


 極めつけに、ルミナはその場で回転しながら遠心力を乗せた凄まじい大振りを放ってきた。


 ――【バチンッ!!】


 重厚な衝撃音とともに、二本の木刀が半ばからポッキリと折れ飛んだ。


「そこまで、だな」


「う〜ん、今日も一撃も当たらなかったなぁ……」


「いやいや、最後の攻撃なんて直撃したら怪我じゃ済まないって」


「ルクスなら大丈夫だよ!」


(……大丈夫かもしれないけど、絶対痛いからな!?)



(……なんなの、あの子たち……)


 闘技場の入り口の陰で、クレア・ガーランドは息を呑んで二人の攻防を見つめていた。


 ルクスが異常に強いことは、ゴランとの決闘で分かっていた。強さの底が見えないその存在感は、父と対峙した時の威圧感に酷似している。


 ――それ以上に、クレアを驚愕させたのは少女・ルミナの実力だった。


 (あの踏み込み、あの剣速、あの身体能力……どれをとってもA級の枠に収まっていない……! 史上最年少でS級になった私と比べても、スピードだけなら完全に上……!? 技術と経験では私に分があるけれど、本気でやり合えばお互いに無傷では済まないわ……)


 クレアは静かに剣の柄から手を離した。試すまでもない。目の前の少女は、すでに国家の存亡をかけた戦場に立つ資格を十分に持っていた。



 パチ、パチ、パチ、パチ――。


 静まり返った闘技場に、拍手の音が響いた。


「二人の模擬戦、しっかり見させてもらったよ。……素晴らしい動きだった。あれだけの戦いができるなら、私と立ち合う必要すらない。……合格だ。一緒に王都へ行こう」


「えっ、本当ですか!? やったぁぁぁ!」


 ルミナは王都へ行ける喜びで両手を突き上げて万歳していた。


「よし、明日には出発しよう。わざわざここまで出向いた甲斐があったよ。まさかS級以上の戦力が二人も揃うとはね。……まあ、高くつくスカウト料だったが……」


 クレアがチラリとルミナを見ると、彼女はビクッと身体を震わせ、


「が、がんばらせていただきます……!」


 と申し訳なさそうにお辞儀をした。


「……あ、クレアさん。少し待ってください。出発の前に、母の許可をもらわなければならないんです。正式な返事は明日にさせてください」


 俺とルミナが旅立てば、母アメリアを一人残すことになる。もし母が嫌がるなら、無理に旅立つわけにはいかない。


「そうか、分かった。では明日の正午、ギルドで待っているよ」



「ただいまー」


「おかえり、ルクス、ルミナ。ご飯できてるわよ」


 食卓には、相変わらず六人前近い料理が並んでいた。もちろん、そのうちの四人前はルミナの分だ。

マルシェの最高級料理も美味しかったが、やっぱり母の作る家庭の味が一番落ち着く。明日からこれが食べられなくなると思うと、少し胸がキュッとなった。


 夕食を終え、食後のコーヒーを飲んでいるところで、俺は切り出した。


「あの……母さん。少し話があるんだけど」


「なに? 急に神妙な顔をして」


「明日から、王都へ行こうと思ってるんだ。国や同盟国が強い魔物に襲われていて……助けに行きたいんだ。……ダメかな?」


 母さんはコーヒーカップを置くと、優しく微笑んだ。


「そう。気をつけて行ってらっしゃい」


「……え?」


 思っていた反応と違った。


『お父さんみたいに黙って出て行くの?』とか『寂しくなるから行かないで』と止められるのを覚悟していたのだ。


「母さん、いいの……? 寂しくないの……?」


「寂しくないわけないじゃない。でもね、あなたはもう立派な大人で、一人前の冒険者よ。自分の道は自分で決めなさい。……ルミナちゃんもしっかり守ってあげるのよ?」


「はいっ! 任せてください!」


 さすがは元A級冒険者だ。自分の若い頃と重ね合わせているのかもしれない。


「あ、それと。王都でお父さんに会ったら『いい加減早く帰ってきなさい!』って頭を引っ叩いておいてね。……それから、あなた達が将来結婚する時は、ちゃんと報告しに来るのよ?」


 ――ブッフォ!?


 隣でコーヒーを飲んでいたルミナが盛大にむせた。俺も顔を真っ赤にして立ち上がる。


「な、何言ってるんだよ母さん!! つ、付き合ってもいないのに結婚なんてあるわけないじゃん!」


「はいはい。楽しみに待ってるわ。絶対に親より先に死んじゃダメよ。……まあ、ルクスなら心配いらないかしらね」


「……うん。ありがとう、母さん」



 自分の部屋に戻り、旅の荷造りをしていると、トントンと控えめなノック音が響いた。


「ルクス……ルミナだけど、ちょっといい?」


 こんな夜遅くにルミナが部屋に来るなんて珍しい。胸がどきりと跳ねた。


「うん、どうぞ」


 扉が開き、薄手の寝間着姿のルミナが入ってきた。すべすべの白い肌と、風呂上がりの甘い香りが部屋に広がる。


「ごめんね、こんな時間に……」


「いや、全然大丈夫だけど……どうしたの?」


「えっと……明日この家を出ちゃうから、最後にルクスにお礼が言いたくて」


「俺に……お礼?」


 ルミナは真っ直ぐに俺の目を見つめ、静かに語り始めた。


「……出会ったときのこと、覚えてる?」


「もちろん。親父とクエストに行こうとしたら、いきなり後ろから声かけられたんだよな。『連れて行け』って」


「行けなんて言ってないよ! 『連れて行ってください』ってお願いしたの! ……でも、あの頃の私は空回りしてばかりで、足手まatoiで……何度も死にそうになって。その度にルクスとアルスさんに助けられて……最後はルクスが、すごい魔法で助けてくれた」


「ルミナだって、あの時すごく頑張ってたよ」


「ううん。あの日まで、私は誰にも負けたことがなくて調子に乗ってた。でも……ルクスを見て、自分がどれだけちっぽけか思い知らされたの。『この人に追いつきたい』って……今の私があるのは、全部ルクスのおかげだよ」


 ルミナは胸に手を当て、溢れる想いを言葉にしていく。


「それに……不安だったの。お父さんの仇は討てたけど、これから一人でどうやって生きていけばいいんだろうって……。そんな時、ルクスとアメリアさんが私を家族みたいに受け入れてくれた。あの時、私……本当に救われたんだよ。今では、みんなが本当の家族だと思ってる」


 ポロリと、ルミナの大きな瞳から綺麗な涙が一粒、頬を伝って落ちた。


(……な、なんだこの雰囲気……!! 凄まじくいい雰囲気じゃないか……!?)


 月明かりに照らされるルミナの顔があまりにも愛おしくて、俺の鼓動が早警報を打ち鳴らす。抱きしめるべきか、それとも――。


「だから……本当にありがとう。それと……これからも、よろしくお願いします!」


 ルミナは涙を拭うと、とびきりの笑顔を残して、パッと部屋を走り去ってしまった。


「あ……」


 バタン、と閉まったドアの前で、俺は差し伸ばしかけた手を虚しく佇ませるのだった。


(……ダメだ俺……抱きしめる勇気がなかった……!!)

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