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3年

「ただいまー」

 部屋に入るとアルスが荷物をまとめていた。

「どうしたの? 新しいクエスト?」

「あっ、いやちょっとな。アスールの王都に急な用事ができてな。少しばかり家をあけることになる」

「用事って何? 一人でいくの?」

「えっと、ちょっと知り合いのところにな。だから一人で大丈夫だ」

 よく見るとアルスの頬が手のひらの形に赤くなっている。アメリアにビンタされたのか。確かに昨日アメリアはアルスの何かに対して怒っていた。最後まで何に怒っていたのか分からなかったがそれが原因か? まさか離婚する気か? 荷造りしてそのまま出ていく気なのか?

 そうはさせるか!

「お父さん達、離婚するの? だからでていくの?」

 そんなことはさせまいと、悲しそうな、今にも泣きだしそうな声を出した。これでも演技には少し自信があるのだ。 

「違うのよ、ルクス。お父さんは本当に知り合いのところで少しお仕事があるの。お母さんは離れるのが嫌で怒っていたのよ」

「ルクス、俺はいつ帰ってこられるか分からない。少なくとも一年は帰ってこない。だから、ルミナと二人でクエストを受けなさい。次会うときは二人ともA級になっておけよ。そしたら次は三人でS級を目指そう」

 一年……長いな……いったい何の仕事なのだろうか……気になるが教えてくれそうにないな。

「わかったよ、お父さん。すぐA級に上がっちゃうから早く帰ってきてね」

「おう。母さんとルミナのこと頼んだぞ」

「まかせて」

 と拳で自分の胸を叩いた。

 アルスは安心したように笑い、家を出ていった。アメリアの方を見ると一粒の涙を流していたのを俺は見逃さなかった。


 それから三年の月日が流れた。

 俺は十五歳、ルミナは十六歳になった。この世界では歳が十五なれば大人として認められる。この世界でもやっと酒が飲めるようになる。まぁ俺は苦手なんだけど……お互い体も成長し、俺の身長はルミナを軽く追い越した。体つきもまだまだ細いが、筋肉がついてきているのが分かるようになってきた。ルミナは身長こそあまり伸びなくなったがどんどん女性らしい体つきになってきた。髪はツインテールから変わり、長い髪をポニーテールに束ねている。

 俺とルミナはふたりでパーティーを組み、クエストをどんどん達成していった。A級にもアルスが家を出てから一年後には上がっていた。それからはひたすらA級のクエストを受け続けた。三人でS級に上がるという約束を果たす為に。

 たった二人のパーティーで次々とA級クエストを黒剣と白剣で達成していくので、いつしかルミナには白き疾風、俺には黒き迅雷と言う二つ名がつくようになりプラシアでは知らぬ者はいないパーティーになっていた。二人合わせて疾風迅雷である。

 レベルも三年で結構上がった。レベルは730→735まで上がっていた。A級の魔物ばかり狩り続けていたのにも関わらず、これだけレベルが上がることはこれまでの転生では経験したことがなかった。レベル500を越えてくるとS級の魔物を狩り続けても一生で10レベル上げられるかどうかである。それを三年で5アップ。これが才能の力なのか。

 ルミナもその才能を見せつけた。52あったレベルが78まで上がっていた。もはや、三年前のアルスを越えている。たった十六歳でこの域まで達するのは普通でない。ただ俺と一緒にクエストに挑む為、其のたび力の差を見せつけられ、まだまだ足りないといつも言っている。

 これまでの世界でも天才や、神と呼ばれ100を越えるレベルを持つ者を何人も見てきたが、これ程まで成長が早いという者は記憶にない。将来どんな剣士になるのか楽しみだ。ちなみにルミナは魔法が苦手なようだ。あまり魔法を使うのを見たことない。その分スピードと剣技で相手を圧倒する。あの剣技は独学のようだが…… 

 いまだにアルスは帰らない。一体王都で何をしているのだろうか。毎月手紙は届くので生きているのは確かなのだが、何をしているのか、どこにいるのかは書かれておらず、さすがに心配になってきた。

 世の中も少し物騒になってきた。均衡を保ってきた三国のバランスが崩れかけているようだ。なぜかアスールの町やその同盟国だけが強い魔物に襲われているようだ。それにただ襲われているわけでなく、なぜかその国や町の主要な産業や資源を主に狙っているようだ。サンドラではオアシスだったように……

アスールも凄腕の冒険者を派遣しているようだが、町や同盟国につく頃には既にあらゆる被害を受けた後になっているが、その冒険者のお陰で国自体はなくならずにすんでいるのだ。たが返り討ちに合うケースも少なくなく確実にアスールにダメージは蓄積されている。プラシアは特にそういった被害にはあっていない。もしかしたら気づかず俺が倒してしまっているかもしれないが……

 アスールもさすがに他国の攻撃ではないかと疑っているようだか、相手は魔物。証拠もない。手を出せずにいた。俺も特に気にしてはいなかった。住んでいるプラシアは平和そのものである。もしプラシアがそういった魔物に狙われるのであれば話は別だが……


 そういった情勢の中でも俺達はいつもと変わらずA級のクエストを受けていた。

「ルミナ、そっちに逃げたよ」

「もう、またさぼって。たまには真面目にやりなさいよね」

 と文句をいいながら、逃げ出したジャイアントタイガーを追いかけ真白の刀身が首を跳ねる。大量の血が噴き出るが、刀身は白く美しいままだ。

「いやぁ、スピード自慢の魔物に走って追い付くなんてさすがだね、ルミナ」 

「いくら誉めてもダメなんだから。いつも私ばっかり働かせて。まぁレベル上げになるからいいんだけどね」

文句を言いながら白剣を鞘に納める。ムスっとした顔も可愛いな。

 三年の月日でルミナとは確かに仲良くなった。言いたいことは言い合えるし、一緒にいると楽しい。だが、肝心の恋人になれたかというと何も進展がない。常に一緒にいるので逆に好きだとか愛しているとか言うタイミングがない。このままではまずい……本気でまずい……本当の姉弟のような関係になってしまう。と焦りながらも只々月日が流れている。

「はぁ、今日も進展なしかぁ」


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