久しぶりの我が家
その後は珍しく何事もなくプラシアの町に着いた。
「わぁ、ほんときれい。砂っぽいサンドラとは大違いね。それに大きい町だね。人も建物もいっぱい」
ルミナは目をキラキラと輝かせている。初めてくる町に感動しているようだ。
「お父さん、とりあえず家に帰る?」
「すぐにでも家に帰りたいとこだか、まずギルドに報告へ行ってからにしよう。ルクスもシャルルに元気な顔を見せてあげなさい。心配していたからな。新しいパーティーメンバーも報告したいし」
「そうだね。シャルルちゃん、俺には無理だって、このクエストには反対していたし」
「シャルルちゃんって?」
「プラシアのギルド職員だよ」
「女の子なの?」
「そうだよ。年は上だけど、小さくて可愛いからみんなシャルルちゃんって呼んでいるんだ。本人は嫌がっているけどね」
「へぇー。小さくて可愛いんだぁ。ふーん」
ん? なんか機嫌悪くなってない? 嫉妬でもしてくれたのかな……いやいや、それはないない。こんなことで期待しちゃ駄目だ。今まで何度も勘違いしてきただろう、俺は!
三人はギルドに着いて、シャルルちゃんにサンドラでの出来事を報告した。
「お疲れ様でした。見る感じケガとかもなさそうですね。よかった、よかった。アルスさんの言う通りルクスちゃんは強いんですね」
シャルルちゃんは安心したように吐息を漏らす。
「ルクスちゃん……」
ルミナがボソッと呟いた。
「あれ? こちらの方はどちら様ですか?」
「はじめまして。サンドラから来ました。ルミナと申します。アルスさんとルクスのパーティーに入れてもらいました。ランクはC級です。今後お世話になると思います。よろしくおねがいします」
ルミナは特に表情も変えず淡々と自己紹介をした。
「ルクス……呼び捨て……」
シャルルもボソッと呟いた。
「私はシャルルです。こちらこそよろしくお願いします」
と言って、ルミナから目を離さない。
「じゃあ今日は報告だけなので、クエストはまた今度受けに来るよ」
アルスがそういうとシャルルはいつもの営業スマイルで答えた。
「はい、お待ちしております」
シャルルは三人がギルドを出る後ろ姿を眺めながら、
「ルクスちゃん、あのルミナって子の事どう思っているんだろ……悔しいな。私も戦うことができたらあの中に入れたのかな……」
と嘆いた。シャルルは涙が流れそうになったが、グッと堪え仕事に戻った。
久しぶりの我が家に着いた。玄関を開けるといつものように、
「おかえり、ルクス。ケガはなかった?」
とアメリアが優しく迎えてくれた。
「うん、なかなか強い魔物だったけど大丈夫だったよ。あっ、これお土産のマンゴンだよ」
「ありがとうルクス。傷むともったいないから、さっそく今日のデザートにしましょう。あら? そちらの女の子はどなた?」
「あっ、はい。初めまして。私はルミナと申します。サンドラで冒険者をやっていたところアルスさん達に助けられて、今はパーティーを組ませて頂いております」
ルミナは先ほどとは違い、緊張しているようだったが笑顔で自己紹介をしていた。
「私はアメリアよ。ルクスの母親です。よろしくね、ルミナちゃん。すぐご飯作るから食べていきなさい」
「はっ、はい。ありがとうございます」
「あのぉ……ただいまアメリア」
ここまで全くアメリアに話しかけられなかったアルスがたまらず声をかけた。
「アルス……あとで話があります」
「えっ? あっ、はい」
なんだろう……アメリアはすごく怒っているみたいだけど。アルス何かやらかしたのかな? 全然検討もつかないな。本人もよく分かってないみたいだし……
くつろいでいると、ルミナが料理を運んできた。ルミナもアメリアの料理を手伝っていたようだ。今日の夕食は鶏の唐揚げと、ピザと、サラダとマンゴンだった。どれもおいしそうだ。
食事中、アルス以外の三人は仲良く話していた。アメリアとルミナも一緒に料理を作るうちに仲良くなったようだ。よかった、よかった。
会話の中でルミナの両親、家族がいないという話になると、アメリアは涙を流していた。
「ルミナちゃんは、これからどうするつもりなの?」
「幸いクエストを達成したお金も両親が残してくれたお金も少しあります。今日からはとりあえず宿に泊まろうと思います」
「そうなの……」
アメリアは唇を指で触りながら何やら考えこんでいる。
「ねぇ、アルス?」
「あっ、はい!」
アルスは久しぶりに話しかけてもらってびっくりしている。
「ルミナちゃんもこの家で一緒に暮らしてもらってはどうかしら。十三歳の女の子が毎日宿暮らしっていうのも危ないわ。お金も勿体ないし」
「うーん、そうだな。ルクスとルミナちゃんがそれでよければいいんじゃないかな」
えっ何、この展開。俺はもちろんオッケーだけど、ルミナはどうなんだろう。答えを聞くのが怖くてルミナの方を見ることができない。
「私は……」
少し間をおいて俺の方をチラッと見て、
「ご迷惑じゃなければ一緒に暮らしたいです」
と顔を赤くしてはっきり答えた。
アメリアは、ふふふっと笑いながら、
「じゃあ今日からよろしくね、ルミナ。お母さん代わりができるか分からないけど、なんでも相談してね。良かったぁ、女の子の子供も欲しかったのよねー」
と嬉しそうに話している。
「こちらこそよろしくお願いします」
ルミナも嬉しそうだ。溢れそうな程の笑顔で何度も礼をしている。
俺も机の下で拳を強く握った。
それを見ていたのか分からないがアルスが、
「ルクスはどうなんだ? いいのかぁ?」
答えが分かっているだろうに聞いてきた。
ニヤニヤしているのが非常にむかつくが、ここで変なこと言ってルミナを困らせてもまずいので正直に大歓迎だと答えた。
「よし、決まりだ! ルミナも我々の家族だ。お父さんって呼んでいいからな」
「それは……ちょっと……」
ルミナが返事に困っていると、机の下でゴツッと鈍い音が聞こえた。アルスが「うっ」と声をあげて顔をしかめる。
「調子に乗らないでね。お・と・う・さ・ん」
今日のアルスに対するアメリアはほんとに恐ろしい。一体何があったのだろうか……