新しい仲間
――その頃、はるか遠く離れたどこか浮世離れした、薄暗い密室。
円卓を囲むようにして、重々しい雰囲気を纏う四人の男女が膝を交えていた。
魔法使いを思わせる三角帽子に黒マントを羽織った、不気味な老人。
見た目こそ若い青年だが、額からふたつの禍々しい角を生やした男。
貴族然とした、きらびやかで見るからに高級そうな衣服に身を包んだ男性。
そして、真紅の露出度が高いドレスを纏い、細くしなやかな肢体をくねらせる美しい女性。
「……サンドラに放ち置いた『合成魔獣』が、撃破されたようだな」
貴族風の男が、不機嫌そうにグラスを揺らした。
「う〜ん、おかしいなぁ。サンドラ程度の弱小国に、あの個体を倒せるような手練れはいないはずなんだけど」
「ええ。あれは水耐性を付与した特別製よ? 隣国のS級冒険者でも連れてこない限り、かなり苦戦するはずだわ」
女性が朱色の唇を舐めながら同意する。老人はいかにも底意地の悪そうな笑みを浮かべ、髭を撫でた。
「ふむ……おそらくは隣国アスールから手を回されたのじゃろうて。あそこには世界ランカーも一人名を連ねておるからの」
「ん〜? たかがサンドラみたいな辺境の小国のために、そんな大物が動くかなぁ」
「まあいい。アレは試作品に過ぎん。我らの『合成魔獣』は、まだ幾らでもストックがあるのだからな」
「そうじゃな。この調子でアスールやその同盟国を外堀から少しずつ削り、弱体化させてやるとしようぞ」
「あまり焦るなよ。万が一にも他国に我らの介在を勘づかれれば面倒なことになる」
「は〜い。じゃあ次のおもちゃは、どこに送り込もうかなぁ……?」
暗雲が、人知れず世界へ広がりつつあった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
一方その頃、俺たちは平穏を取り戻したサンドラの街へ向けて、のんびりと歩を進めていた。
前を行くアルスが、ふと思い立ったように隣のルミナへ声をかける。
「そういえばルミナちゃん、これからどうするんだい?」
ルミナはその場に足を止め、小さな手で髪を触りながら思案顔を見せた。
「私は冒険者ですから……まずは身の丈に合った無難なクエストをこなして当面のお金を稼ぎます。それから、もっと強くなるために修行し直そうかなと」
「ソロでやるつもりかい?」
「私のパーティーは……全員やられてしまいましたから。当面は臨時の助っ人として、どこかのパーティーに入れてもらうつもりです」
「そうか……ならさ、俺たちと一緒に正式なパーティーを組もう! うん、それがいい! ルクスにも同年代の仲間が必要だと思ってたんだ。いいよな、ルクス?」
「そうだね。ルミナを一人にするのも心配だし、大歓迎だよ」
「えっ、本当にいいんですか!? 嬉しい……! まだまだ未熟者ですが、これからよろしくお願いします!」
「うん、こちらこそよろしくね!」
内心、俺のテンションは爆上がりしていた。
これまで毎日のようにアルスと二人だけでクエストをこなしてきたが……ぶっちゃけ、四六時中父親と顔を突き合わせている状況には若干辟易していたのだ。しかも提示されるクエストはどれも簡単すぎて退屈極まりない。
ルミナがパーティーに入ってくれれば、旅は間違いなく楽しくなる。やっぱりパーティーには『花(女の子)』が必要不可欠なのだ!
「よし、そうと決まればさっさとサンドラへ戻るぞ!」
街に到着すると、俺たちは事後報告のために真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かった。
「あ、お疲れ様です! ゴーレムの討伐は無事に完了しましたか?」
事情を何も知らない受付のギルド職員が、営業スマイルで声をかけてくる。
その能天気な対応に、アルスの目つきが瞬時に鋭くなった。
「……ふざけるな」
「えっ……?」
「ああ、倒してきたさ! だがなぁ、あの野郎はただのゴーレムなんかじゃなかったぞ! A級……いや、下手をすればS級に届くレベルの化物だ! C級だと思ってあの依頼を受けた冒険者は全員死ぬ! ……この子の父親のようにな!!」
アルスはカウンターを叩き、捲し立てるように怒りを吐き出した。
普段はへらへらしている父親が見せた初めての激怒に、職員は顔を青ざめさせ、声を震わせた。
「ご、申し訳ございません……っ! し、しかし、あのクエストは王宮からの直接依頼でして……! 難易度の査定もすべて王宮側で行われたものなのです……!」
通常、クエストはギルドが個人や商会からの依頼内容を精査し、危険度に応じてランクと報酬額を決定する。しかし、国家からの直接依頼(指名手配や国策クエスト)に限っては、ギルドに難易度の変更権限がないのだ。
サンドラは決して裕福な国ではない。むしろ貧しい小国だ。
もしA級やS級として公募すれば、跳ね上がった報奨金を支払わなければならない。国家予算を節約するためにあえて『C級』と偽って偽装出したのか、あるいはろくな現地調査もせずに「ただの土人形だろう」と高くくっていたのか――。
「……そうか、国からの依頼か。ならお前に当たっても不条理だな。すまなかった、怒鳴ったりして」
仕組みを理解したアルスは、ふぅと息を吐いて冷静さを取り戻した。
「いいえ……ギルド側ももっと正確な情報を調べるべきでした。彼女の父親達というこの国屈指のパーティが戻らない時点で、異変を疑うべきだったのです。お二人が来なければ、さらなる犠牲者が出るところでした……」
職員は深く頭を下げ、申し訳なさそうに身を縮こまらせた。
ルミナは一瞬だけ寂しそうに伏せ目になるが、
「もう大丈夫です。父も冒険者でしたから……常に死と隣り合わせなのは覚悟していたはずです。それに、相手が強いと知っていても、国を守るためにきっと最後まで戦ったと思います。お二人のおかげで父の仇も討てましたし、国も救われました。父もきっと、天国で笑ってくれています」
胸の前で拳を握り締め、健気な笑顔を浮かべて見せた。
「そうだね。きっとお父さんも喜んでるよ」
ルミナの強さに胸を打たれつつ、俺はひとまずこれで一件落着だと胸を撫で下ろした。
――が。
「いや、全然大丈夫じゃないだろ!!」
「「「えぇぇぇッ!?」」」
静寂をぶち破り、アルスが全力で空気を読まない怒声を張り上げた。
「全然、まったく、ちっとも大丈夫じゃない! よし、これから王宮へ乗り込むぞ! 国の偉い奴らに直接文句をブチかましてやる!!」
(……全然冷静になってねぇぇぇぇぇッ!!)
頭を抱える俺を余所に、アルスは鼻息荒く王宮の方角を睨みつけていたのだった。




