ルクスの本気
「深淵より来りし黒き王よ、其れを闇の世界にいざない闇において自由を奪え!」
「エンシェントグラビティー」
グラビティーは重力魔法である。対象の重力を軽くしたり重くしたりすることができる。しかしエンシェントグラビディーは究極魔法だ。誰もが使える魔法ではない。普通のグラビティーと比べ数十倍の威力を発揮する。究極魔法を使いこなせる者など、世界に十人もいないであろう。少なくとも今までの世界はそうだった。
魔法を唱えた瞬間、ゴーレムを黒いモヤのようなものが覆う。そしてゴーレムはその場に押し潰された。なんとか立ち上がろうともがいているが、その体は全く動かない。
「動けないだろう。お前がなぜこんな所に住み着いているのか知らないが、倒させてもらう。俺の大切な人を傷つけたからな」
何度も転生しているが、どんな時でも親、家族、仲間というものはかけがえのないものである。失うと耐えきれないほどの悲しみが襲う。
しかも今は守る力がある。だからこそ守れなかった場合は自分の責任だ。今回は危なかった。だからこそ、本気で相手をする。
「じゃあな」
動けないゴーレムの前に立ち、持っている剣で縦に一閃した。ゴーレムは半分に割れ、黒いモヤが取れた後も動くことはなかった。
剣を鞘にいれようとしたが、あまりの力に耐えきれなかったのかボロボロと崩れ落ちる」
「あーあ、せっかく誕生日にお父さんが買ってくれたのにな」
しょうがないかと思いながら、後ろを振り返ると、涙を流しながら、ルミナが抱きついてきた。
「ありがとう!ほんとにありがとう!お父さんの仇をとってくれて。これでサンドラの国も助かります」
涙が止まらないルミナの頭をポンポンと叩いていると、
「ルクスおつかれさまー」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
アルスが立ち上がって満面の笑みをうかべている。なんで起きているの。さっきまで気絶していたじゃん。
「いつから起きてたの??」
「ルクスがグラビティーの詠唱してるときには起きてたよ」
ルミナが教えてくれた。
やっちまった……
「お父さんケガは??気絶してたじゃん」
「ん? あんな攻撃1発で気絶するわけないだろ? まぁ痛いちゃ痛いけど」
「なんで…」
「なんでって、お前がいつまでたっても本気を出さないからな。さすがに俺が戦闘不能になったら、まじめに戦うかなって」
「それにしてもお前、父さんがいないときは自分のこと僕じゃなくて、俺って言うんだな。いやー大切な人かぁー、父さんすごくうれしいぞー」
「うわぁぁぁぁぁぁ、やめてくださぁぁぁぁぁい」
次々と発せられるアルスの言葉で精神的ダメージが積み重なっていく。
アルスは前々からルクスが全く本気を出してないことに気づいていた。もはや、D級以下ではルクスの能力を計ることはできなかった。だからこそ、難易度の高いクエストを受けさせたかった。しかし今回のゴーレムは予想外だった。サイズは大きく、魔法が効かない、知能もある。今までに経験したことない魔物だったがルクスの力を計るにはちょうど良いと思った。おそらくこのゴーレムにランクをつけるならA級はあるだろう。ルクスでは敵わない可能性が高いだろうが、やられる前に自分が助けにいけばいい。本当の力を計ることはできるだろう。自分だったら苦戦はするだろうが、負けることはないという自信はあった。 なので、やられたふりをしてルクスを追い込んだ。しかし、目の前で起こったことは簡単には信じられないことだった。十二歳半になったばかりの息子が究極魔法を扱い、強度の高い体をひと振りで真二つにしていた。
今まで様々な冒険者や、魔物を見てきたアルスでも、ルクスの力の底が全く見えなかった。なぜこんな力を持ち、あんな魔法を使えるのか疑問がつきなかった。おそらく、いやおそらくでない。確実に自分より上だ。しかも圧倒的に。
さすがに動揺した。動揺を隠すようにルクスをからかってみたが思いの外効いたみたいだ。だがルクスは紛れもなく自分の息子だ。それは変わりない。いくら強かろうが関係ないのだ。
俺とアルスのやり取りを見てルミナも笑っていたが徐々に真剣な顔をして、
「アルスさん、ルクスくん、今回は本当にありがとうございました。自分の力だけでは倒すことはできませんでした。お二人方によって国が救われ、父もうかばれると思います」
頭を深々と下げた。
「どういたしまして。でも今回のおいしいとこは全部ルクスに持っていかれたな」
「おいしいとこって。今日はみんなの勝利だよ。ところでルミナのお父さんは?」
ルミナは首を横に振る。
「お父さんは見つかりませんでしたが、いつも身につけていた腕輪が落ちていました。これだけでも見つかってよかったです」
そう言って悲しいだろうに笑顔を作っていた。
強い子だな。しかし妙だ……ルミナの父親はパーティーを組んでこのクエストに挑んだはずなのに、遺体が一人もない。あのゴーレムが魔法で消し去ってしまったのか。
少し考えてこんでいると、
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
と、誰かの腹の鳴る音がした。
「よし、そろそろ帰るか。さすがに疲れたな。早く帰って飯にしよう」
やっぱりアルスか。ルミナじゃなくてよかった。
「はい、帰りましょう。僕もお腹すきました」
「ルクス……僕じゃなくて俺だろ。話しやすい話し方でいいからな」
ルミナが笑っている。そっか、もうばれたんだった……