グレイブの失態
セラさんを先頭にブランギルドに入る。
まだ朝方なので、ギルド内にいる冒険者もまばらだったが、一気に自分達に視線が向けられるのが分かった。
「おい、あれセラじゃないか?」
「あぁ、まちがいねぇ。それに後ろにいるのはランカーのルクスってやつだぜ」
「最近見なかったのに、どうしたんだろうな」
そういった声がギルド中から聞こえてくる。しかしセラさんはお構いなしに真っ直ぐクエストを受け付けるカウンターに向い声をかけた。
「グレイブはいるか?」
そう尋ねられたお姉さんは明らかな動揺を見せ、
「ギ、ギルドマスターですか? えっと……まだ来てないかなぁ。どうだったかなぁ」
セラさんは曖昧な答えにイラッとしたのか、何かを感じたのか机を片手でバンッと叩き、再度尋ねる。
「もう一度聞くわ。グレイブはどこ?」
「は、はい! ギルドマスターの部屋にいらっしゃいます」
お姉さんはガタガタと震えていた、かわいそうに……しかし何故最初からちゃんと答えなかったのかな。
「そう、ありがとう」
明らかな作り笑いを見せ、グレイブの部屋へスタスタと歩いていったので、俺達もついていった。
「ねぇ、ルクス。セラさんなんか機嫌悪い?」
「そうかも」
俺達にはまだその理由が分からなかった。
グレイブの部屋の前につくと、扉の前で止まる。以前俺が蹴り破った扉は新しいものに変えられていた。
セラさんは右ももを上げ、扉に向けて勢いよく前蹴りをブチかます。扉は激しい音とともに粉々になる。
「ちょっと、セラさん何してるんですか」
俺は突然のことに驚きながらも、セラさんの前に立つ。
セラさんの顔を見ると、今まで見たこともないような怒りの表情をしていた。しかしそれ以外に驚いたのはセラさんの横にいるルミナも同じような表情をしていたことだ。
「ルミナまでどうしたんだよ」
俺がそう尋ねると、黙って俺の背後の方に向けて指をさす。俺がその指になぞらうように振り返えろうとすると、
「やっぱり、ダメー!」
ルミナは叫びながら、俺の後ろから両手を使って目を隠したが慌てたためか指の隙間からばっちりとその光景が目に飛び込んできた。
そこにはなんと、パンツ一枚でイビキをかきながらテーブルの上で寝ているグレイブがいた。
まぁ、それだけでは問題ではないのだろうが、グレイブの周りにはタイプの違う若い女性が三人、薄い布をまとっただけの姿で俺達を見てガタガタと震えていた。いきなり扉を蹴破られたらそうなるだろうな。よく人を怯えさせる人だ。
セラさんが低い声で三人に向けて声をかける。
「ちょっとそこで寝ているクソ野郎に話があるから、外に出てもらっていいかな」
三人はそれを聞くなり、周りに散らばっている自分達の服や荷物を両手に抱え、着替えることもなく、逃げるように部屋を出た。
「ルミナ、もういいだろ? みんな出ていったみたいだし」
「あっ、そうだね。ルクスには目に毒かなって思って」
ルミナが目を塞いでいた手を外す。
「目に毒って、みんなちゃんと隠してたじゃないか」
「なんでばっちり見えてるのよ……」
「あっ……そんなことより、セラさん。これはどういうことですか?」
色々と面倒なことになりそうだったので、セラさんに話を振る。まぁ、光景的に何があったか予想はできるのだが。部屋中に酒の空き瓶が散乱しているし。グレイブは酔い潰れて寝ているのだろう。それにしてもこんな騒がしいのに全く起きないなんて、ランカー、ギルドマスターとしてどうなのかと思う。今敵に襲われたら一環の終わりじゃないか。
「この男は女癖が悪くてな。飲むとすぐ部屋に女を呼ぶんだ。いつもギルドの受付に口止めしてるから、反応ですぐ分かったよ」
まぁ、グレイブは一応今は独身だろうしな。一気に三人はどうかと思うが。それはそうと後ろからルミナがゲシゲシ足を蹴ってくる。無視、無視。
「ルクス君は将来こんな男になってはダメだぞ」
「大丈夫ですよ。俺はルミナ一筋なので」
そう言うとピタリと蹴られなくなった。機嫌が治ったようだ。
「ははっ、それはよかった。さて、どうやってこの男を起こそうかな」
セラさんは悪い顔をしていた。




