ゴーレムの強さ
目の前に土の壁が現れたと思ったら、どんどん壁が広がり自分達とゴーレムを囲い込んだ。
壁を拳で軽く叩いてみるが、ちょっとやそっとじゃ壊れそうにない。本気で叩けば壊せると思うがあまり目立ちたくもない……
「ちっ、逃げ場を失ったか。やるしかないな」
アルスは戦いを覚悟したようだ。
……おかしい。ここまでの戦いで相手がただのゴーレムでないことは分かる。しかし今ゴーレムは、たしかに魔法を使った。しかも手を合わせていたことから高度な詠唱魔法をつかったと思われる。
上級までは魔法の名を呼べば、一定の魔力があれば使える。ほとんどの冒険者は初級までしか使えないのだが。だが、それ以上の魔法、至高、究極、神域となってくると詠唱が必要となるのだ。あのゴーレムは実際半径五十メートル程の土の壁を作ってみせた。かなりの魔力を持っていることもわかる。
が、ゴーレムは普通魔法を使えない。高い攻撃力で殴りつけてくるだけである。 知能も低いはずだか、自分達の逃げ場をなくすように魔法を使った事といい、知能もある程度ある。さっきは弱点のはずの水魔法を防いでいた。見た目はゴーレムだが、中身は全然違うものである。
ゴーレムは少しずつ近づいてくる。動きは遅いようだ。
「俺が突っ込む。二人は下がって魔法で援護してくれ。必ず生きて帰るぞ」
「私は剣の方が得意です。二人で攻めましょう」
「いや、あいつは危険すぎる。もはやC級クエストではない。A、いやS級並みの強さはある。ルミナちゃんにケガさせるわけにはいかないからね。サポートに回ってくれ」
さすがにアルスもゴーレムの異常さに気づいているようだ。
ルミナは納得いかない表情ながら頷いた。
「ルクス、ルミナちゃんを守るんだぞ。男の子なんだからな。守りきったらルミナちゃん好きになってくれるかもよ」
いつものようにニヤニヤして、こっちを見てきた。
こんな状況でなに言っているのだか。まぁまだ余裕があるってことか。死ぬ気ではないらしい。ルミナはまた顔が赤くなっていた。
「わかったよ、お父さん。まかせて」
「よし、いい子だ。ルクス、俺がもし負けたら……………………」
「えっ、なに?」
最後何を言ったのか聞き取れなかった。もう一度聞き直そうとしたが、アルスはゴーレムに向かい走り出していた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
アルスは雄叫びをあげながら、ゴーレムに向かって飛び上がって切りつけた。
強烈な一撃にゴーレムがよろめいて膝をついた。
アルスはチャンスとばかりに強烈な連撃を浴びせていく。ゴーレムは身を固めて守っているようだ。
アルスは攻め疲れたのか、俺達の所に戻り距離をとる。肩で息をしている。
「ぜぇ、ぜぇ、最近サボりすぎたかな。まじめに修行しとけばよかったぜ」
その隙に、魔法で援護する。
「ルミナ、水以外の属性で攻撃してみよう」
「うん、わかった」
「サンダーボール」
「ファイアボール」
雷と炎の中級魔法をゴーレムに向かい同時に放ちゴーレムに直撃した。しかし舞い上がった土煙が晴れると何事もなかったようにゴーレムが立っていた。
いや、よく見ると剣による傷はついている。しかし、ゴーレムには表情がないため効いているのか分からない。
ルミナもそれに気づいたのか、
「やっぱり私も剣で戦います」
と決断して、腰に携えているショートソードを抜く。
「まっ、待て!」
アルスが止めるが、その前にルミナは走りだしていた。アルスも慌てて追いかける。俺もアルスに続く。
「覚悟!父の仇だ!」
小さな体でゴーレムの足を切りつける。たしかに強烈な一撃だがアルスほどではない。続けて切りつけるが次の一撃がゴーレムの体に当たった瞬間キィィンと剣が音を立てて折れてしまった。
「あっ…」
ルミナの顔が青ざめる。
ゴーレムが拳をルミナに振り下ろす。ルミナは諦めたように、呆然と振り下ろされる拳を見ている。
「まずいっ」
慌ててルミナを助けようと魔法を唱えようとした瞬間、アルスがゴーレムとルミナの間に割り込み、まともにゴーレムの攻撃を受けた。
アルスは吹き飛び、近くの岩に叩きつけられた。慌ててルミナと共にアルスのもとに駆けよる。
「お父さん、大丈夫?」
「ごめんなさい。私が無理したせいで」
アルスは意識がない……が生きてはいるようだ。気絶しているだけか。
危なかった……アルスがいなかったらルミナを死なせていたかもしれない。いやアルスも下手したら死んでいた。
何をやっているんだ、俺は。確かに力を隠して平凡に暮らしたい。だが家族や仲間を失ってまで得る人生に何の意味があるのか。
俺は決断した。あのゴーレムは生半可な力じゃ倒せない。少なくともA級以上、いや仲間を守りながらだと相手を圧倒する力が必要だ。
「ルミナ、お願いがあるんだけど」
「え?」
「今から、見ることは内緒にしてほしい。誰に言わないでほしい。お願いします」
アルスは気絶している、もし力を見せても知られるのはルミナだけだ。
訳が分からないと言ったような顔をしているが、
「わかった、約束するわ」
と言ってくれた。
「じゃあ、あいつ倒してくるから、そこでお父さん守っていて」
「え、あっ、はい」
俺は手を合わせ魔法を唱えた。




